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第19話-もふもふ耳と筋肉と涙
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脱獄二十日目。
翌朝、私たちが起きたのはすっかり日も昇り切った時間だった。
ふっといい匂いがして、なんだろうと思って目を開けて辺りを見回した。
そしてやっと自分がどこに寝ているかを思い出し目が覚めたのだった。
「ふぁぁぁ~よく寝た………リンー朝だよー」
「んん~もう~だめ~……食べられない……」
ゴロンと寝返りを打ちながら寝言で返事をするリン。
布団がめくり上がり非常に扇情的な寝姿だ。
色々とこぼれ落ちそうになっている。
「ほら、リン」
私はリンの頬をむにっと突いててみた。
「ん~……」
(……起きない……)
「リンーおはよーあさだよー」
リンのうさ耳がへにょっと曲がって、まるで外部の音をシャットアウトしているようになる。
(こんなに曲がるんだ…………えいっ)
正直、最初に触らせてもらってからずっと我慢していた。
でも無防備な白いもふもふを見ていると、つい我慢できなくなった。
「うきゃぁぁぁっっっ――」
「――ひっ!!」
リンがカッと目を見開き、叫び声が家中にこだまする。
「わっ、わっ……なっ、カ、カリス~びっくりした~」
「ご、こめん、ほんとごめん。そんなに驚くものだとは思わなかった」
――ガラッ
「リン! 敵かっ!?」
その時、叫び声を聞いたのか、扉を勢いよく開けてリンの父親マルさんが飛び込んできた。
「き、きゃぁぁぁっ!」
私が「あ、叫ぶ」と思った時には既にリンの姿はベッドの上には無く、マルさんの顔面に足をめり込ませていた。
◇◇◇
「ほんとお父ちゃんごめん」
「い、いや、私も突然入ってすまなかった」
食卓で頬をタオルで押さえているマルさんと、平謝りのリン。
原因を作った元凶として肩身が狭い……。
「それより食事が終わったら、ナックの家に来てくれ」
マルさんがリンに言うのを聞いて、私は「どこかで聞いた名前だな」と頭に疑問符を浮かべる。
「わかった~直接行っていいの~?」
「いや、下から来てくれ」
下というのはあの洞穴のことだろうか。
(あっ、そうか)
そこまで考えてナックさんとやらに思い至った。リンがあの小屋で「これはナックさんが掘った穴だ」と言っていた。
(穴掘り名人的な……)
「カリスも連れて行くの~?」
「カリスさんも来てくれると助かる」
昨日の夜、ミケさんが言っていたお客さんとやらだろう。
「わかりました」
「じゃ、朝ごはんにしましょう~」
タイミングよくミケさんが食事を運んできてくれた。
パンとシチューにサラダというシンプルな物だったが、焼きたてのパンと暖かなシチューはとても優しい味だった。
リンとマルさんは生野菜をボリボリと食べている。
無論ドレッシングなどはない。
(……やっぱり生野菜が好きなのかな)
種族的なことはあまりわからないが、リンは干し肉や魚の干物を食べていたので、食べられないのでは無いだろうと思う。
私は結局パンをおかわりさせてもらった。
「ミケさん本当にお料理上手ですね」
私がそう言うと、頬に手をあてて微笑むミケさん。
リンと同じような年に見える見た目だけれど、実際には五十歳ぐらいらしい。
ミケさんには色々と話を聞きたいところだけれど、マルさんが「行こうか」と立ち上がった。
そしてそのまま、テーブルの下へ潜り込むマルさん。
隣を見るとリンもテーブルの下へ頭を突っ込んでいた。
そっと覗き込むとなんとリビングテーブル下に縦穴があった……。
(なんでこんなところに……)
一人が入れそうなサイズの竪穴を降り、短い通路を通るとすぐにまた縦穴に出た。
この縄梯子を登るとナックさんの家だそうだ。
――ゴンッ
「あいたっ…」
頭を出したとたん、なにかにぶつかってびっくりした。
(なんか凄い狭い。というか何ここ!?)
「カリス~大丈夫~?」
「う、うん、大丈夫」
リンが隙間から手を出してきたので、その手を引かれて這い出る。
自分が出てきたところを振り返ってみると、ちゃぶ台のような低いテーブルがあった。
ふと後ろに人の気配を感じて振り返ると、直立不動の筋肉があった。
壁があるのかと思うほどの巨体。
足先から頭のほうを見上げると身長は二メートルを超えそうな、口ひげが立派なおじさんだった。
(……でもやっぱりうさ耳があるのね……天井に擦ってるし)
「こちらがナックさん。ナックさん、こっちが話したカリスよ~」
「お、お初にお目にかかります!」
想像していた容姿と真逆の体躯を誇るナックさんが、バッのその場で片足をついて頭を下げる。
「あいたっ」
しかしナックさんが勢いよく頭を下げたせいで、ご立派なうさ耳が私の顔面にヒットした。
「は、わわっ……も、申し訳ありません! このご無礼はこの首でお許しを!」
突然どこから取り出したのか、ナックさんが短刀を首に当てるのが見えた。
――カランッ
「あっ!」と思った瞬間、リンが後ろからその短剣を蹴り落とした。
ナックさんは片膝ついたままの体勢で震えている。
「もう~ナックさん何やってるの~」
「はわっ、しかしお嬢! お嬢のご友人に無礼を……」
「わ、私は大丈夫ですから話を続けてください」
私はぶつけた鼻頭を押さえながら周りをチラリと見ると、部屋の入り口にマルさんが立っていた。
「ナック、行くぞ」
「は、承知しました。カリス様、この謝罪は改めて……」
「いえ、気にしてないので……大丈夫です」
(この人たちって、なんていうか……極端だよね……色々と展開についていけない)
◇◇◇
マルさんとナックさんが先導してくれる後ろをリンと二人でついてゆく。
私は歩きながらキョロキョロとあたりを見回しながら移動する。
さっきの部屋もこの廊下も、ナックさんの家はとても天井が高かった。
それでもあの巨体だと、この天井の高さでも足らないと思う。
(耳が天井を擦っているんだけれど痛く無いのかな……)
「こちらです」
マルさんとナックさんが一つの部屋の前で立ち止まる。
そこは両開きの大きな木造の扉がついた部屋だった。
マルさんが私の方をチラリとみてから扉をノックする。
「どうぞ」
私は中から聞こえた声にドキリとした。
だって――この声は……この声は……。
ナルさんが私の方へと再び視線を向け、そして扉を開け中へと入ってゆく。
続いてナックさんが入るが、私の足は入り口のところで床に固定されたように動かない。
「カリス……行こ?」
リンが私の手をギュッと握り微笑んでくれる。
その笑みをみて、やっと足が動き出したのだった。
――――――――――――――――――――
「――クリス!!」
部屋に入った途端、部屋に居た二人が私をギュッと抱きしめてきた。
「クリス、よく無事で……」
「クリス…………ごめんね、助けてあげられなくて、ごめんね……」
「――お父様、お母様…………!」
――涙が止まらなかった。
私を力いっぱい抱きしめてくる二人はクリスの両親だ。
私は初めて会う二人だ。
けれど……それでも私はこの人たちを愛おしいと心から感じ、こうして抱きしめられている事に心から安心していた。
そしてこの両親と過ごした日々も、自分の記憶であると当然のように思えてしまう。
やっぱりわたしとクリスはどっちも“私“なんだと、そう心から理解してしまった。
(あぁ、この二人も私のお父さんとお母さんだ……)
翌朝、私たちが起きたのはすっかり日も昇り切った時間だった。
ふっといい匂いがして、なんだろうと思って目を開けて辺りを見回した。
そしてやっと自分がどこに寝ているかを思い出し目が覚めたのだった。
「ふぁぁぁ~よく寝た………リンー朝だよー」
「んん~もう~だめ~……食べられない……」
ゴロンと寝返りを打ちながら寝言で返事をするリン。
布団がめくり上がり非常に扇情的な寝姿だ。
色々とこぼれ落ちそうになっている。
「ほら、リン」
私はリンの頬をむにっと突いててみた。
「ん~……」
(……起きない……)
「リンーおはよーあさだよー」
リンのうさ耳がへにょっと曲がって、まるで外部の音をシャットアウトしているようになる。
(こんなに曲がるんだ…………えいっ)
正直、最初に触らせてもらってからずっと我慢していた。
でも無防備な白いもふもふを見ていると、つい我慢できなくなった。
「うきゃぁぁぁっっっ――」
「――ひっ!!」
リンがカッと目を見開き、叫び声が家中にこだまする。
「わっ、わっ……なっ、カ、カリス~びっくりした~」
「ご、こめん、ほんとごめん。そんなに驚くものだとは思わなかった」
――ガラッ
「リン! 敵かっ!?」
その時、叫び声を聞いたのか、扉を勢いよく開けてリンの父親マルさんが飛び込んできた。
「き、きゃぁぁぁっ!」
私が「あ、叫ぶ」と思った時には既にリンの姿はベッドの上には無く、マルさんの顔面に足をめり込ませていた。
◇◇◇
「ほんとお父ちゃんごめん」
「い、いや、私も突然入ってすまなかった」
食卓で頬をタオルで押さえているマルさんと、平謝りのリン。
原因を作った元凶として肩身が狭い……。
「それより食事が終わったら、ナックの家に来てくれ」
マルさんがリンに言うのを聞いて、私は「どこかで聞いた名前だな」と頭に疑問符を浮かべる。
「わかった~直接行っていいの~?」
「いや、下から来てくれ」
下というのはあの洞穴のことだろうか。
(あっ、そうか)
そこまで考えてナックさんとやらに思い至った。リンがあの小屋で「これはナックさんが掘った穴だ」と言っていた。
(穴掘り名人的な……)
「カリスも連れて行くの~?」
「カリスさんも来てくれると助かる」
昨日の夜、ミケさんが言っていたお客さんとやらだろう。
「わかりました」
「じゃ、朝ごはんにしましょう~」
タイミングよくミケさんが食事を運んできてくれた。
パンとシチューにサラダというシンプルな物だったが、焼きたてのパンと暖かなシチューはとても優しい味だった。
リンとマルさんは生野菜をボリボリと食べている。
無論ドレッシングなどはない。
(……やっぱり生野菜が好きなのかな)
種族的なことはあまりわからないが、リンは干し肉や魚の干物を食べていたので、食べられないのでは無いだろうと思う。
私は結局パンをおかわりさせてもらった。
「ミケさん本当にお料理上手ですね」
私がそう言うと、頬に手をあてて微笑むミケさん。
リンと同じような年に見える見た目だけれど、実際には五十歳ぐらいらしい。
ミケさんには色々と話を聞きたいところだけれど、マルさんが「行こうか」と立ち上がった。
そしてそのまま、テーブルの下へ潜り込むマルさん。
隣を見るとリンもテーブルの下へ頭を突っ込んでいた。
そっと覗き込むとなんとリビングテーブル下に縦穴があった……。
(なんでこんなところに……)
一人が入れそうなサイズの竪穴を降り、短い通路を通るとすぐにまた縦穴に出た。
この縄梯子を登るとナックさんの家だそうだ。
――ゴンッ
「あいたっ…」
頭を出したとたん、なにかにぶつかってびっくりした。
(なんか凄い狭い。というか何ここ!?)
「カリス~大丈夫~?」
「う、うん、大丈夫」
リンが隙間から手を出してきたので、その手を引かれて這い出る。
自分が出てきたところを振り返ってみると、ちゃぶ台のような低いテーブルがあった。
ふと後ろに人の気配を感じて振り返ると、直立不動の筋肉があった。
壁があるのかと思うほどの巨体。
足先から頭のほうを見上げると身長は二メートルを超えそうな、口ひげが立派なおじさんだった。
(……でもやっぱりうさ耳があるのね……天井に擦ってるし)
「こちらがナックさん。ナックさん、こっちが話したカリスよ~」
「お、お初にお目にかかります!」
想像していた容姿と真逆の体躯を誇るナックさんが、バッのその場で片足をついて頭を下げる。
「あいたっ」
しかしナックさんが勢いよく頭を下げたせいで、ご立派なうさ耳が私の顔面にヒットした。
「は、わわっ……も、申し訳ありません! このご無礼はこの首でお許しを!」
突然どこから取り出したのか、ナックさんが短刀を首に当てるのが見えた。
――カランッ
「あっ!」と思った瞬間、リンが後ろからその短剣を蹴り落とした。
ナックさんは片膝ついたままの体勢で震えている。
「もう~ナックさん何やってるの~」
「はわっ、しかしお嬢! お嬢のご友人に無礼を……」
「わ、私は大丈夫ですから話を続けてください」
私はぶつけた鼻頭を押さえながら周りをチラリと見ると、部屋の入り口にマルさんが立っていた。
「ナック、行くぞ」
「は、承知しました。カリス様、この謝罪は改めて……」
「いえ、気にしてないので……大丈夫です」
(この人たちって、なんていうか……極端だよね……色々と展開についていけない)
◇◇◇
マルさんとナックさんが先導してくれる後ろをリンと二人でついてゆく。
私は歩きながらキョロキョロとあたりを見回しながら移動する。
さっきの部屋もこの廊下も、ナックさんの家はとても天井が高かった。
それでもあの巨体だと、この天井の高さでも足らないと思う。
(耳が天井を擦っているんだけれど痛く無いのかな……)
「こちらです」
マルさんとナックさんが一つの部屋の前で立ち止まる。
そこは両開きの大きな木造の扉がついた部屋だった。
マルさんが私の方をチラリとみてから扉をノックする。
「どうぞ」
私は中から聞こえた声にドキリとした。
だって――この声は……この声は……。
ナルさんが私の方へと再び視線を向け、そして扉を開け中へと入ってゆく。
続いてナックさんが入るが、私の足は入り口のところで床に固定されたように動かない。
「カリス……行こ?」
リンが私の手をギュッと握り微笑んでくれる。
その笑みをみて、やっと足が動き出したのだった。
――――――――――――――――――――
「――クリス!!」
部屋に入った途端、部屋に居た二人が私をギュッと抱きしめてきた。
「クリス、よく無事で……」
「クリス…………ごめんね、助けてあげられなくて、ごめんね……」
「――お父様、お母様…………!」
――涙が止まらなかった。
私を力いっぱい抱きしめてくる二人はクリスの両親だ。
私は初めて会う二人だ。
けれど……それでも私はこの人たちを愛おしいと心から感じ、こうして抱きしめられている事に心から安心していた。
そしてこの両親と過ごした日々も、自分の記憶であると当然のように思えてしまう。
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