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第37話-待ちぼうけ
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「いくらなんでも遅くない……?」
リンが城へ向かってから三時間ぐらいたっただろうか。
傾いてきた太陽はもうすぐ完全に沈んでしまう。
しかしこんな場所で焚き火を炊くわけにもいかず、かと言って首都にノコノコと向かうわけにもいかない。
(もう少し待って、来なければ門の近くまで様子を見にいってみよう)
そう考えながら、少し冷えてきた空気に身を震わせる。
(寒い………ん?)
その時林の入り口の方に何かの影が見えた気がした。
(魔獣……)
この辺りは街道がしっかりと整備されており定期的に人通りもあるため滅多に魔獣が出たという話は聞いたことがない。
しかし明らかに何かの気配を感じ杖を手にとってフードを深くかぶり直した。
――ガサガサッ
「っ!? 【ファイーー】……リン!?」
「遅くなっちゃった~ごめんね」
いつの間に接近されたのか、すぐ目の前に真っ白い耳をペコんと倒したリンが立っていた。
「危なかったーもう少しで魔法撃つところだったよーあれ? マルさんは……」
そこまで言いかけたところで突然「ドサッ」っと重いものが落ちるような音がして、慌てて杖を構え直した。
「――っ……マルさん! それに……お父様っ!?」
そこにはマルさんに背負われたお父様の姿があった……。
(本当におんぶされて移動してた……)
ピシッと決めた貴族服なのに黒装束のマルさんに背負われているため、色々と台無しな格好だった。
「クリス! 無事でよかった」
「クリス嬢、リンから話は聞きました」
リンがここまで遅くなったのは、単純に二人を探すのに手間取っていたと言うことだった。
「いきなりリンが現れた時はびっくりしましたよ」
「まさかあんなところで人が上から降ってくるとは思わなかったからな」
いったいみんな何処に居ただろうか。
上から? あんなところ?
色々想像してみるが、全くそれっぽい場所が思い浮かばない……。
「それでね~カリス」
「うん?」
「私たちで忍び込むことになったよ~」
「私としては反対なのだが、その方が成功率が高そうだからな……クリス頼めるか?」
お父様が言うには、すでに国王の密偵もホド男爵捜索に動き出しているが、誰かが手引きしているらしくまだ見つかっていないそうだ。
「騎士団とかで監獄棟に捜索するわけにはいかないのですか?」
「それがなぁ、騎士団や兵士を動かすのはまだ無理だそうだ」
騎士団を動かすための証拠がまだ少なく、それを集めるための密偵も出払っている状況だそうだ。しかしお父様の手配で逮捕状までは取付けてあるため、見つけ次第すぐに捕まえることはできるとのこと。
だが監獄は国を護るための騎士団などとはテリトリーが違い、迂闊には踏み込めらいらしい。
その言い方から監獄――仕切っている法務大臣とティエラ教会との関係もあるんだろうと想像する。
「……その、忍び込むのは問題ないでしょうか?」
「うまく見つけることができるなら揉み消せる。出来なくても気にするな。うちのお転婆娘が無茶をしたと頭を下げればいい――だが……」
捕まるような事だけはするなと念を押された。
まだお尋ね者になっている私だと、その場で斬られても文句は言えないのだ。
「いざとなれば被害なんて気にせず逃げるんだぞ。男爵の逮捕よりお前の命の方が大事なんだから」
お父様は相当心配なのだろう、追われることになったら建物を破壊し尽くしてでも逃げろと過激なことを言い出す始末。
「私と伯爵は立場上忍び込むわけにはいかないので……リンをお願いします」
急いで正規の捜索手続きをしてくれるそうなのだが、監獄棟に潜んでいるのが本当なら手続の過程で本人には気づかれてしまう。
その後、捜索をして見つかりませんでしたというのは色々と問題があるらしい。
マルさんは一枚の巻物を胸元から取り出し、リンへと手渡す。
「これは~?」
「私が昔、陛下より下肢された勅書だ。いざというときは使え」
マルさんがその仕事上、身を守る最後の手段として陛下より頂いたものだという。
その内容は『いつでも何処でも自由に捜査をする権利を認める』というものだった。
「お父ちゃんありがとう」
「……落とすなよ?」
リンは広げてあった巻物をクルクルと巻き直し、胸の谷間にむにゅっと入れた。
(……やっぱりそこなんだ)
「リン……いや、いい。お前も気をつけてな」
「お任せくださいボス」
リンが敬礼のような挨拶をして、私は二人で監獄へと続いている森へと向かうのだった。
――――――――――――
「この辺から入ろうか」
私たちは街の北側にある深い森――私が逃げ込んだ森へと分け入った。
「この先は、見つかるとまずいから【存在希釈】使うね。手繋げば大丈夫だと思う」
リンの手を繋ごうと差し出した手が直前で止まる。
「どうしたの~?」
「……えっと、なんだか照れるね」
「ええ~っ?」
リンが驚いた声を出したのち、ニコッと笑って私の手をキュッと握ってきた。
よく考えたらお父様やお母様以外の人と手を繋ぐのは初めてのような気がする。
エスコートされる時など手を添えたことはあるけれど、男性はもちろん女性ともこんなにギュッと手を繋ぐのは初めてだった。
「あったかい……」
「カリスの手も柔らかくて気持ちいいよ~」
お互い手をにぎにぎしてから【存在希釈】を使う。基本的に術者の存在感を下げる魔法だが、衣服や手に持っているものにも効果が及ぶのだ。
その効果は魔法の熟練度……他の魔法と同じだがどれぐらい使い慣れているかで変わってくる。
私の場合、マルさんたちと戦闘訓練をしたときに知ったのだが、ほとんど存在していることがわからなくなるレベルだそうだ。
捜査・諜報が主任務で索敵能力に一番優れているマルさんですら「そこに居る」と解っていなければ見つけられない可能性があるとまで言われたのだった。
「よし……!」
私は片手で頬をペチンと叩いて気合を入れ、森の奥へと踏み入った。
◇◇◇
「そう言えばそのリュック何が入っているの?」
「えへへ、これはお母ちゃんから預かった私達の着替えだよ~」
「着替え……?」
二人で話しながら森の中を歩くこと一時間少々。
幸い兵士や他の誰にも合わず、目的の場所までたどり着くことができた。
突如茂みの向こうで木々が途切れており、その先に大きな門と石の壁が見える。
「あれが監獄棟の外壁……それで」
石壁の手前に五メートル以上はありフェンスが左右に伸びている。
フェンスは奥側と手前側の二重になっている。
茂みの手前でしゃがみ、フェンスのほうを【魔力透視】を使い観察するとはっきりと結界があるのが見えた。
「やっぱり…炎系と雷系の二重結界だ……」
しかしその結界もフェンスに取り付けられている大きな木の門の場所は途切れている。普通に森側から監獄へ入るにはあの大きな門を通るしかない。
「堀があるね~ちょっと深い目に掘らないとダメかな~」
フェンスと森の間には五メートルぐらいの深さの堀があり、門から森へのルートはその堀の上にかかっている橋を通るルートだ。
私達は一度森の方へと戻り、穴を掘るのに丁度いい場所を探す。
獣道からはそれており、監獄側から木で遮られている場所。
二人の身長ぐらいの茂みがあると尚いい。
私達は音を立てないように森を移動し、ちょうどいい場所を見つけることができた。生い茂ってる藪はリンが短剣で切って、そこだけポッカリと座れそうなスペースが出来た。
「じゃぁ~このあたりから行こうか~」
リンは魔法が使えない。穴を掘るための道具も見た所もっていない。
となると、考えられるのは両手ぐらいしか思いつかないのだが……。
「リン、穴掘るのってどうやるの? まさか手で掘っていくとか?」
「そだよ~」
「えっ? マジ?」
「まじ?」
「えっと、本当に?ってこと」
「うん~私は遅いけどね~お茶でも飲みながらまっててよ~」
そういうとリンは地べたにしゃがみ、犬が穴を掘るように両手で地面の土を退け始めてゆく。
両手で少しずつ、なるべく柔らかかそうな表面を丁寧に腐葉土の混じった土をどけていく。
直径一メートルぐらいの円になるぐらい腐葉土を避けると、現れた硬い土を更に両手でほっていく。
掘っていくと言うより、子供が砂遊びをしているような雰囲気だった。
「……」
「んっしょ……よいしょっ……と」
そんな感じで次々と土をどけて、窪みを作っていくリン。
果たしてこのペースで堀り終わるんだろうかと、不安になってくる。
「あ、私ローブ代わりになるツタとか探してくるね」
「んっしょっ……あ、わかった~お願いね~」
掘ってる穴がリンの手のひらが隠れるぐらいの窪みになっている。
その様子を見ながら、私は付近の木々に巻き付くように生えている蔦を集めることにした。
リンが城へ向かってから三時間ぐらいたっただろうか。
傾いてきた太陽はもうすぐ完全に沈んでしまう。
しかしこんな場所で焚き火を炊くわけにもいかず、かと言って首都にノコノコと向かうわけにもいかない。
(もう少し待って、来なければ門の近くまで様子を見にいってみよう)
そう考えながら、少し冷えてきた空気に身を震わせる。
(寒い………ん?)
その時林の入り口の方に何かの影が見えた気がした。
(魔獣……)
この辺りは街道がしっかりと整備されており定期的に人通りもあるため滅多に魔獣が出たという話は聞いたことがない。
しかし明らかに何かの気配を感じ杖を手にとってフードを深くかぶり直した。
――ガサガサッ
「っ!? 【ファイーー】……リン!?」
「遅くなっちゃった~ごめんね」
いつの間に接近されたのか、すぐ目の前に真っ白い耳をペコんと倒したリンが立っていた。
「危なかったーもう少しで魔法撃つところだったよーあれ? マルさんは……」
そこまで言いかけたところで突然「ドサッ」っと重いものが落ちるような音がして、慌てて杖を構え直した。
「――っ……マルさん! それに……お父様っ!?」
そこにはマルさんに背負われたお父様の姿があった……。
(本当におんぶされて移動してた……)
ピシッと決めた貴族服なのに黒装束のマルさんに背負われているため、色々と台無しな格好だった。
「クリス! 無事でよかった」
「クリス嬢、リンから話は聞きました」
リンがここまで遅くなったのは、単純に二人を探すのに手間取っていたと言うことだった。
「いきなりリンが現れた時はびっくりしましたよ」
「まさかあんなところで人が上から降ってくるとは思わなかったからな」
いったいみんな何処に居ただろうか。
上から? あんなところ?
色々想像してみるが、全くそれっぽい場所が思い浮かばない……。
「それでね~カリス」
「うん?」
「私たちで忍び込むことになったよ~」
「私としては反対なのだが、その方が成功率が高そうだからな……クリス頼めるか?」
お父様が言うには、すでに国王の密偵もホド男爵捜索に動き出しているが、誰かが手引きしているらしくまだ見つかっていないそうだ。
「騎士団とかで監獄棟に捜索するわけにはいかないのですか?」
「それがなぁ、騎士団や兵士を動かすのはまだ無理だそうだ」
騎士団を動かすための証拠がまだ少なく、それを集めるための密偵も出払っている状況だそうだ。しかしお父様の手配で逮捕状までは取付けてあるため、見つけ次第すぐに捕まえることはできるとのこと。
だが監獄は国を護るための騎士団などとはテリトリーが違い、迂闊には踏み込めらいらしい。
その言い方から監獄――仕切っている法務大臣とティエラ教会との関係もあるんだろうと想像する。
「……その、忍び込むのは問題ないでしょうか?」
「うまく見つけることができるなら揉み消せる。出来なくても気にするな。うちのお転婆娘が無茶をしたと頭を下げればいい――だが……」
捕まるような事だけはするなと念を押された。
まだお尋ね者になっている私だと、その場で斬られても文句は言えないのだ。
「いざとなれば被害なんて気にせず逃げるんだぞ。男爵の逮捕よりお前の命の方が大事なんだから」
お父様は相当心配なのだろう、追われることになったら建物を破壊し尽くしてでも逃げろと過激なことを言い出す始末。
「私と伯爵は立場上忍び込むわけにはいかないので……リンをお願いします」
急いで正規の捜索手続きをしてくれるそうなのだが、監獄棟に潜んでいるのが本当なら手続の過程で本人には気づかれてしまう。
その後、捜索をして見つかりませんでしたというのは色々と問題があるらしい。
マルさんは一枚の巻物を胸元から取り出し、リンへと手渡す。
「これは~?」
「私が昔、陛下より下肢された勅書だ。いざというときは使え」
マルさんがその仕事上、身を守る最後の手段として陛下より頂いたものだという。
その内容は『いつでも何処でも自由に捜査をする権利を認める』というものだった。
「お父ちゃんありがとう」
「……落とすなよ?」
リンは広げてあった巻物をクルクルと巻き直し、胸の谷間にむにゅっと入れた。
(……やっぱりそこなんだ)
「リン……いや、いい。お前も気をつけてな」
「お任せくださいボス」
リンが敬礼のような挨拶をして、私は二人で監獄へと続いている森へと向かうのだった。
――――――――――――
「この辺から入ろうか」
私たちは街の北側にある深い森――私が逃げ込んだ森へと分け入った。
「この先は、見つかるとまずいから【存在希釈】使うね。手繋げば大丈夫だと思う」
リンの手を繋ごうと差し出した手が直前で止まる。
「どうしたの~?」
「……えっと、なんだか照れるね」
「ええ~っ?」
リンが驚いた声を出したのち、ニコッと笑って私の手をキュッと握ってきた。
よく考えたらお父様やお母様以外の人と手を繋ぐのは初めてのような気がする。
エスコートされる時など手を添えたことはあるけれど、男性はもちろん女性ともこんなにギュッと手を繋ぐのは初めてだった。
「あったかい……」
「カリスの手も柔らかくて気持ちいいよ~」
お互い手をにぎにぎしてから【存在希釈】を使う。基本的に術者の存在感を下げる魔法だが、衣服や手に持っているものにも効果が及ぶのだ。
その効果は魔法の熟練度……他の魔法と同じだがどれぐらい使い慣れているかで変わってくる。
私の場合、マルさんたちと戦闘訓練をしたときに知ったのだが、ほとんど存在していることがわからなくなるレベルだそうだ。
捜査・諜報が主任務で索敵能力に一番優れているマルさんですら「そこに居る」と解っていなければ見つけられない可能性があるとまで言われたのだった。
「よし……!」
私は片手で頬をペチンと叩いて気合を入れ、森の奥へと踏み入った。
◇◇◇
「そう言えばそのリュック何が入っているの?」
「えへへ、これはお母ちゃんから預かった私達の着替えだよ~」
「着替え……?」
二人で話しながら森の中を歩くこと一時間少々。
幸い兵士や他の誰にも合わず、目的の場所までたどり着くことができた。
突如茂みの向こうで木々が途切れており、その先に大きな門と石の壁が見える。
「あれが監獄棟の外壁……それで」
石壁の手前に五メートル以上はありフェンスが左右に伸びている。
フェンスは奥側と手前側の二重になっている。
茂みの手前でしゃがみ、フェンスのほうを【魔力透視】を使い観察するとはっきりと結界があるのが見えた。
「やっぱり…炎系と雷系の二重結界だ……」
しかしその結界もフェンスに取り付けられている大きな木の門の場所は途切れている。普通に森側から監獄へ入るにはあの大きな門を通るしかない。
「堀があるね~ちょっと深い目に掘らないとダメかな~」
フェンスと森の間には五メートルぐらいの深さの堀があり、門から森へのルートはその堀の上にかかっている橋を通るルートだ。
私達は一度森の方へと戻り、穴を掘るのに丁度いい場所を探す。
獣道からはそれており、監獄側から木で遮られている場所。
二人の身長ぐらいの茂みがあると尚いい。
私達は音を立てないように森を移動し、ちょうどいい場所を見つけることができた。生い茂ってる藪はリンが短剣で切って、そこだけポッカリと座れそうなスペースが出来た。
「じゃぁ~このあたりから行こうか~」
リンは魔法が使えない。穴を掘るための道具も見た所もっていない。
となると、考えられるのは両手ぐらいしか思いつかないのだが……。
「リン、穴掘るのってどうやるの? まさか手で掘っていくとか?」
「そだよ~」
「えっ? マジ?」
「まじ?」
「えっと、本当に?ってこと」
「うん~私は遅いけどね~お茶でも飲みながらまっててよ~」
そういうとリンは地べたにしゃがみ、犬が穴を掘るように両手で地面の土を退け始めてゆく。
両手で少しずつ、なるべく柔らかかそうな表面を丁寧に腐葉土の混じった土をどけていく。
直径一メートルぐらいの円になるぐらい腐葉土を避けると、現れた硬い土を更に両手でほっていく。
掘っていくと言うより、子供が砂遊びをしているような雰囲気だった。
「……」
「んっしょ……よいしょっ……と」
そんな感じで次々と土をどけて、窪みを作っていくリン。
果たしてこのペースで堀り終わるんだろうかと、不安になってくる。
「あ、私ローブ代わりになるツタとか探してくるね」
「んっしょっ……あ、わかった~お願いね~」
掘ってる穴がリンの手のひらが隠れるぐらいの窪みになっている。
その様子を見ながら、私は付近の木々に巻き付くように生えている蔦を集めることにした。
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