雪の都に華が咲く

八万岬 海

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01-Introduction

008話-一歩を踏み出す

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「アイナさんとクルジュナさんって強いんですね……」

 俺は座長とサイラスさんに連れられ、男三人で近くの川まで体を洗いに来た。



「アイナはうちでも一番強いからね。次はクルジュかな」

「二人とも魔技が強力だから」
「魔技……さっきリーチェにも聞いたのですが、よく解らなくて」


 座長が上着を脱ぐと、思っていた以上の筋肉質の体が現れる。
 筋肉質というかムキムキだった。
 服装の上からは全くわからなかったが、この人も確かに強そうだ。



「魔技というのは魔法の力、魔力を使って発動する個々が持っている力だよ」
「個々が持ってる力……スキルってことですか?」

「……ふむ、確かに私の故郷ではそういう呼び方をしているが……それもユキくんの故郷の知識かい?」
「は、はい」
「なるほどね……」


 つまり魔技もしくはスキルと呼ばれているものは、個人がユニークで持っているもので、魔力を消費して発動させる。

 魔力自体はほとんどの人が持っているが、魔技が「使える」か「使えない」かで人生が決まってしまうことが多いらしい。

 攻撃系の魔技を持つものは軍人や兵士になりやすく、料理系を持つものは料理人になりやすいと言った具合だそうだ。


 そして魔技は遺伝することが多いらしい。

 このため、ろくな魔技を持っていない家系はずっと貧乏で、優秀な魔技を持った家系は将来まで安泰となっているらしい。



「魔技も全員が持っているんですか?」
「持っているはずだが、それを調べるためのお金がなかったり、調べる術がなかったり、理解できなかったりする」

 理解できない魔技――例えば「眠りやすくなる」というような意味不明な魔技もあると座長は言う。


「なるほど……確かにそれは調べにくいですね」


 俺も上着を脱ぎ、ズボンを脱ぐとパンツ姿で川へと入り、頭を水に突っ込みざっくり洗う。

 石鹸も何もないが、しばらく寝たきりだったせいかとても気持ちいい。

 サイラスさんもパンツ一枚で川の深いところへ飛び込み、水面に大きな水柱が立つ。



「俺もあるんですかね……その、魔技というのは」
「魔力も魔技も調べてもらうか、使い方を理解してやってみるといい」

「やり方を理解すれば、使えるなら発動するということですか?」
「そうだね、時間はたっぷりとあるんだ。あとでアイリスに教えてもらうといい」


 リーチェに聞いていた通り、アイリスさんは魔法と魔技について研究していた人らしい。
 昔は何十人もの生徒相手に教鞭を振るっており、その知識もこの国で一番だと言われることもあったそうだ。


(なんでそんなすごい人が旅芸人一座に……?)


 気になることを一つ尋ねると二つ気になることが現れる。
 右も左もわからない今は仕方ないと割り切りつつ、少しずつ理解しようと考えながらタオルで体を拭く。


「はぁスッキリしました」
「それは良かった、すっかり元気になったようだね」

「はい、おかげさまで……俺のせいでこんな場所で足止めしてしまい……ありがとうございます」

 座長さんにペコリと頭を下げる。
 川のほうを見ると、サイラスさんはまだ川に沈んだり浮かんだりしていた。


「人は助け合わなきゃ。君は……前の場所では仕事はしていたのかい?」
「はい、プロデューサー……えっとアイドルってわかりますか?」

「アイドル? プロデューサー? 知らない言葉だね」

 俺は座長さんにどういう仕事をしていたか、なるべくわかりやすい単語で説明した。

 途中、何度も「それはどういうもの?」と聞き返されたのだが、何となく理解してくれたそうだ。


「僕たちはお客さんに芸を見せているけれど、君は歌と踊りを見せていた感じなんだね」
「簡単に言えばそんな感じです」

「それを成すための裏仕事……大変だよね」
「大変です……ほんと」

 仕事の内容はまるで違うが方向性が似ているのか、座長がしみじみとそんなことを言う。

 アイドルたちのご機嫌とりから、スケジュールの調整、店との交渉、数えればきりがないほどやるべきことがある。


「次の街での公演、ぜひ見てね。それで君の視線から改善点があれば教えてくれると嬉しい」

「そんな、俺なんて……」

「そんなことないよ、君のその経験が活かせるなら、ここにいる意味もできるしね」

 それは俺に居場所を用意してくれようとしているのが判る、座長さんの優しい気遣いの言葉だった。


――――――――――――――――――――


 馬車に戻ると、リーチェとエイミーさん、アイナさんにクルジュナさんが先ほどの獲物を捌き終わっていた。


「あ、座長、サイラスにユキくん、そろそろ出発用意終わりますよー」

「では出発するか。ユキくんは折角だし、御者台に乗るかい?」
「えっ、良いんですか? ありがとうございます!」


 メンバーがそれぞれの馬車に分かれ御者台へと座る。
 アイナさんが先頭の馬車の屋根に、クルジュナさんが最後尾の荷台へ乗り込んだ。

「二人は警戒ですか?」
「そうだね、ユキくんにも馬車の操縦を教えてあげるよ」


 俺は座長さんの隣へと座り込んで、改めてまわりをキョロキョロと見回す。
 あたりには見渡す限りの草原が広がっており、背後にあるのは深い森。

 座長が「出発」と声をかけて、後方の馬車からも「出発」と復唱の声が聞こえる。
 そしてゆっくりと馬車が進み出す。

 訳もわからずこの世界に来てしまった俺は運良く心優しい人たちに助けられ、やっと一歩踏み出したのだった。
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