雪の都に華が咲く

八万岬 海

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02-Verse

029話-反撃

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 建物全体を揺らしたような轟音が轟く。

 カイルに当たったかどうか確認できないが、俺を押しつぶそうとしてくる大量の鎖の勢いは止まらず容赦なく俺ごと石床を突き破ったのだった。


(ぐぁぁっっ……ってぇぇぇぇっっ)


 鎖と石レンガに挟まれた身体を激痛が襲う。
 下のフロアに落ちながらも、なお追いかけてくる鎖。

 俺は落下しながらも、アイナにかけたときのように自分へ回復魔法を無意識に使い続ける。

 だが下のフロアの床をも容赦なくブチ破り更にに落下する。

「ぐっ……がぁぁぁっ! 消えろっ!」

 俺を押しつぶそうとする鎖に魔技をぶつけで破壊したのと、床を破壊してさらに下へ落下したのはほぼ同時だった。





「――あっっ……ってぇぇ……ぅぅ……」

「――!!」
「ユキ!」
「ユキ、大丈夫っ!?」

 三フロア分も床を突き破り瓦礫と共に落下したのは、みんなが捕らえられていた牢屋だった。

「――っ、はぁっ、はぁっ! はぁっ!」

 服も髪もボロボロになり、身体のあちこちから血が流れ落ちている。

 今にも気を失いそうだったが、その前に全員を魔封から外さなきゃ他の兵たちがやってくる。


 俺はなんとか上半身を起こし全員の無事を確認する。
 アイナも目を覚ましたようで、エイミーの隣に繋がれたままボロボロに泣きながら叫んでいる。


「はぁっ……はぁっ……『全ては夢の近くアレス・トラオムナーエ』」

 俺はズキズキと痛む頭と吐きそうになる気持ち悪さ、全身の痛みを堪えてなんとか座長の魔技を使った。

 全員の姿が一瞬ブレ、数センチほど手前側にずれた場所に現れた。



(よか……った……魔封の鎖以外、服も置いてきぼりで移動させたらどうしようかと…………ぐぅぅっ……いてぇ……)

 まだアホみたいなことを考える余裕があるので、死にそうに痛いが死ぬわけではなさそうだ。

 流石にもう立てそうにもなくその場で突っ伏すように倒れ込んだ。

「ユキっ! ユキぃっ!」

 一番近かったアイナが走り寄ってきて、抱き抱えてくれる。

「ユキ……ユキ、ありがとぅ……無事で良かったぁ……ぐすっ、無理しないで……」


 泣きじゃくるアイナの膝枕で仰向けになり落ちてきた天井の穴を見上げる。
 エイミーもほかのみんなが俺を取り囲むように俺を覗き込んでくる。



「ざ、座長…………グノワールは……死にました……鎖男……も……はぁっ、はぁっ、多分倒したと……うぐっ」

 だんだん朦朧としてくる中、これだけは伝えなければならないので、なんとか報告をする。


「ほかの……兵士がっ……来るかもしれない……ので……っ……あとは頼み……ますっ」

「わかった、あとは任せるんだ……」
「ユキだめっ! 目閉じちゃだめ! アイリスお願い!」

「わかってる! でも私も……魔力がまだ完全じゃないから……なんとかギリギリまでは」

 焦るアイリスの声が聞こえるが、俺はそんなにまずい状態なのだろうか。
 天井が崩壊に巻き込まれひしゃげた扉の向こうから何人もの足音が聞こえてくる。



「……クルジュナ、ケレス、頼んだ」
「……任せて」
「ふふっ、今回の恨みぜーんぶお返ししてあげるわ」

 座長の一声でクルジュナとケレスが立ち上がり扉の先の通路をキッと睨みつけるが、二人とも口元には獣のような笑みを浮かべていた。




「――『悪魔マエロル・の嘆きディアボルス』」

 ケレスが腕を大きく振りかぶり、その場で正拳突きのように腕を突き出す。

 高速で前へと突き出される腕が数センチごとに巨大化し、通路のほとんどを覆い隠すほどのサイズになり、雪崩れ込んでこようとする兵士をなぎ倒していく。

(すごい……あれがケレスの魔技……)

「ここは立ち入り禁止よ……」

 ケレスが腕を引くと同時に、クルジュナの魔技がギリギリ立っていた兵士を次々となぎ倒していく。

「ほらほらぁ~もういっちょ!」

 そして再び兵士たちを襲うケレスの巨大な腕。
 倒れ伏している兵士たちも再び攻撃に巻き込まれ、団子になりながら押し戻されていく。

「よし……露払いは済んだね……掃討する。ユキ……ありがとう。あとは任せたまえ」

「ユキ、良い子にして待ってるのよ? すぐ戻ってくるからね~」
「……無理しちゃダメよ?」

 ケレスとクルジュナが座長の後ろをついて通路へと消えていく。

「エミリー、ユキのことお願いね」
「うん、アイナも気をつけて」

 アイナの尻尾が俺の手に握手するように巻きつき、「行ってくる」と手を振ると通路へと消えて行った。

 サイラスはここの守りとして残ってくれるらしい。



「アイリス……ありがとう。だいぶ楽になったよ」
「よかった……ふぅ……私もちょっと休憩」

 なんとか上体を起こし床に座り込むと、改めてみんなの顔を見回す。

「みんな、怪我とか大丈夫? あいつらに何かされてない?」
「うん、大丈夫だよ、ユキこそ……さっき倒したとか言ってたけど……何があったの?」

「まぁまぁ、エイミー、それは座長たちが戻ってきてからの方がいいんじゃない?」
「リーチェ……そうね、うん、そうする」

「あ、でもエイミー」
「ん?」

「エイミーを殴ったやつにはちゃんとやり返しておいたから」
「えっ? ……ふふっ、そっか、ありがとうユキ」

 キョトンとした表情のエイミーが、意味を理解したのかふにゃっと綻ばせる。

「ユキ、あのおっさん殴り返したの?」
「ユキ凄いね」

 なぜか笑顔のハンナとヘレスに頭を撫でられる。

「殴り返した……というか、気絶するまで椅子でボコボコにしてきた」
「椅子で……」
「ボコボコに……」




「「よくやった!」」

 二人揃ってサムズアップされ、背中をバシバシと叩かれた。

「あいつ、ハンナを殴ろうとしたのをエイミーが庇って、殴られちゃったの」
「そっか……でもみんなが無事でよかったよ」



「でもユキも無茶するよね……女のフリするなんて……それで殺されちゃったらどうするのよ」

 リーチェにも頭をポンポンと軽く叩かれ、頬をつねられる。

「でも、アイナも無事だったし、こうしてみんなも助けられたから問題ないってことで」
「ま、まぁ、そういう意味ではユキには感謝しかないんだけど……」



 リーチェはそういうが、感謝しかないのは俺のほうだ。

 真実はわからないが……あいつが言ったことが本当なら、俺は元の世界では死んでいることになる。
 そしてこの身体の本来の持ち主も……。

(この身体の持ち主の分まで、この世界で必死に生きて幸せになろう……)



 今となっては、俺にできることはそれぐらいだ。
 後ろ向きになっても仕方ない。
 今は前を向いて必死に生きよう。


 俺は改めてそう誓いながら、前髪をつまみ銀色に輝く前髪をじっと見つめた。
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