ネコミミ少女に転生したら殴り特化でした~剣も魔法も使えないのでとりあえず近づいて殴ることにする

八万岬 海

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1章 ― 旅立ち

第3話-旅の準備は適当で

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 旅の準備というものは、際限なく時間がかかってしまう。
目的があるなら、到着時間を計算して食料や道具を用意すればいいだけなのだが、目標しかないときは、食料も道具も目一杯用意したところで意味のないものとなる。

「適当にいろんな街を巡って仕事を見つけるバイト旅行ってことでいいかな」

 結果、最低限の荷物だけになってしまう。

――――――――――――――――――――

セリアンスロープの少女ヨル・ノトー 十七歳。
この世界で女の一人旅がどれだけ危険なものなのかはそれなりに理解していた。


 いくら過去のことを思い出し、この世界の一般的な17歳と比べ膨大な知識や記憶を持っていたところで、外から見れば可愛らしい女の子であり、それが一人で旅をしていれば鴨が葱を背負ってるどころではない。

 猫系のセリアンスロープは愛玩奴隷として女はもちろん、男も売れる。

 純粋な人間に比べ、セリアンスロープはなぜか平均的な顔立ちが多い。
 平均的な顔というのは誰の好みにもある程度合致してしまうのだ。

 そして体力がそれなりにあるため、どれだけ痛めつけても死ににくく、男なら契約魔法で縛り延々と働かせ続けることも可能だし、女ならば昼の仕事から夜の相手まで使いみちはいくらでもある。

――――――――――――――――――――

 でも、私はそれでもあまり心配はしていなかった。
 前の人生での悲壮な感じはどこに行ってしまったのか。

 あの時"ラジャ"と名乗った"なにか"に魂を洗浄され暗い部分が取り除かれたためか、異常なほど楽観的な性格で育ってしまったようだ。

 それに。

「武術も剣術も、補助魔法だって少しは使える、料理もできるし、働き口には困らないでしょ」

 片田舎どころか、深い森の奥にある限界集落といったこの村で、数少ない戦闘経験のあるおっちゃんに習い、対人・対魔獣戦闘の基本を習いそれなりに腕は立つようになった。

 おっちゃんには勝てる気がしないが、少なくとも村の近くに出没する魔獣には負けないぐらい力は付けた。何故か攻撃魔法も使えるという教会のおばちゃんに勉強と称して、魔法も一通りは習った。



 この村の周りは魔獣も凶暴ではなく、自給自足でたまに森に入って小さい獣を捕まえ、村人で分け合っている村だ。一生この村で過ごすにも良いかもしれないが、出会いがなさすぎる。行商もほとんど来ず、親の年ほどの男ぐらいしか居ないこの村では運命の出会いなど夢物語だったのだ。


「目標! 友達を作ってあわよくばいい人も。そしてお金を貯める! 兄をボコる!」

 そんな村だからこそ、村人も父も彼女が旅に出たいと言い出すのは予想できていたし、止めるつもりはなかった。


――――――――――――――――――――

「ヨル、お前なら理解していると思うが、聞きなさい。人間にもセリアンスロープにも善人はいるし悪人もいる。ましてやお前は女の子だ。いい顔をして近づいてくる者には注意しなさい」

「はい、お父さん」

「戦いのセンスがあるのはお父さんも分かっているし、心配はしていない……周りへの被害が心配だが」

「周り……?」

「あの技なんだったか……うちの立派な石造りの小屋を瓦礫の山へ変貌させた」

「あー……あれね……名前は恥ずかしいから付けてないけど、おっちゃんは『ファイナルインパクトぉ!!』って叫んでたよ」

「すまん、名前を聞いているんじゃないんだ、ああいう技を身につけることは悪いことじゃないが、町中や人の土地で理由なくぶっ放すと、犯罪になってしまうから気をつけるんだ。と言っているんだ」

「そっち」

「ここではあまり気にならないかもしれないが、守るべき法や決まりは多々ある。知らなかったでは通用しないこともあるんだから気をつけるんだ」

「は~い」

「それと……貴族にはなるべく近づくな。理由は何となく分かるだろう?」

「うん、首と胴体はずっと仲良しで居てたいし」

「よろしい。じゃぁ大したものは渡せないがこれを」

 そういって父が取り出したのは赤色の可愛らしい1本のリボンだった。

「昔、母さんにプロポーズしたときに贈ったものだ」

「そんな……大事なものもらえないよ」

 ヨルが小さい頃に亡くなった母親の顔は覚えていない。
 私が持っているより、父が手元に置いておきたいだろうと固辞したが。

「これには少し、祝福も掛けられている。きっとヨルを守ってくれる」

 いつもの温和な顔を少し歪ませながら父はヨルの手にリボンを握らせる。

「ありがとう……大事にするね」

「あぁ、と言ってもヨルは髪も短いし尻尾にでも結んでおくと良いと思うぞ」

「ん、そうする」

「それと、たまにでいいから手紙を寄越すんだよ」

「はいはい、わかったよ、お父さんったら心配しすぎよ。過信や自信過剰じゃないけど、それなりに腕は立つし他人には気をつける。あと危険なことはしない。少し落ち着いたら手紙も書く。ね、だからそんなに心配しないで」

 いつまでも父の話が終わらなさそうだったので、少し強引に話を切り上げ、ヨルは最低限の荷物を詰め込んだリュックを肩にかけ、玄関の扉をくぐる。

「じゃ、いってきまーす!!」

「気をつけるんだよー!」

 振り返らず、片手だけを上げて父に返事をし、
 村の入口の方に向かって駆け出した。

 自分のわがままで旅に出るんだから、
 出発のときは泣かないと決めていたがダメだった。
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