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3章 ― 急追するモノ
第45話-好事②
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「じゃぁ忘れ物ないわね?」
「えぇ、私は元々荷物は何もないからね」
ウトピアホテルのチェックアウトの日、ヨルとヴァルは部屋を簡単に掃除をして荷物をまとめた。
ヴァルを助けて、同じ部屋に泊まるようになって四日しか経っていないが、二人はすっかり友達のように打ち解けていた。
「ぷーちゃん、そっちは忘れ物ない?」
『へい、確認しましたが問題ありやせん!』
「……」
『アネさん、どうしやした?』
「いや、ぷーちゃんの声聞いたの久しぶりだな……って思って」
『……』
部屋の隅に置いてあるゴミ箱に入り、涙を流すサタナキアをヴァルが両手で優しく抱える。
「ほら、ぷーちゃんも行きますよ」
『へい…』
ヴァルの胸元に抱かれたサタナキアは声色に反して頭をスリスリしている。
ヨルはサタナキアの首根っこを掴み上げ、ぽーんと山なりに放り投げる。
「――ていっ!!」
ボールのように飛んだサタナキアは天井に当たり、見事にゴミ箱に着地した。
「もう、ヨルったら拗ねなくてもいいのに」
「えっ!? どこが!?」
――コンコン
ヨルが断固として否定しようとした時、部屋の扉がノックされる。
(そう言えば支配人さんが家の契約書をもってきてくれるって言ってたな)
ヨルはヴァルとサタナキアのことは一旦置いておき、何の警戒もなく扉を開ける。
ガチャ――
「よう、ヨルおはよう」
そこに立っていたのは支配人ではなく、近衛騎士団長のアサヒナことアサだった。
騎士団の制服なのだろうか、ビシッとした詰め襟の制服に身を包んでいる。
「なんでアサが?」
「そりゃ届け物があったから、私がもってきたんだ。二人の顔が見たかったしな」
片付けが完了したテーブルにヴェルがお茶の用意をしようとすると、アサヒナが「すぐに帰るから」と申し訳無さそうに言う。
「ほいこれ契約書と鍵……あれ? ぷーちゃんは?」
「あ、ありがとう」
「ぷーちゃんはアッチに嵌ってますわ」
ヨルは家の鍵と契約書が詰まったずしりと重い封筒を受け取る。
「それにしてもフレイアに言っておいて……ビックリするから。断るに断れないじゃない」
「あぁ、でもヨルへの礼が一つ出来たと喜んでいたよ」
アサヒナがゴミ箱の中で涙を流しているサタナキアを拾い上げ、ヨルのもっている封筒の上に置く。
「流石に豪邸一軒はやりすぎよ。私ただの平民でしかも旅人よ?」
「でも女王殿下の命を救ったろ。陛下の命はそんなに安くない」
アサヒナがニカっと笑みを浮かべ、ヨルの頭をぐりぐりと撫でる。
『アサちゃんかっけえなぁ』
ヨルはぷくっと頬を膨らませて、サタナキアのほっぺを摘みながら半目でアサヒナを見ると、表情に少し疲れも見え隠れしていた。
「疲れてる?」
「流石にな。前代未聞の事件が立て続けて起きたわけだし」
アサヒナは頬をぽりぽりと搔きながら嫌味っぽくヨルに言う。
「そうだ、メイドとか手配が必要なら言ってくれれば手配するって言ってたぞ」
流石にそこまで世話になれないとヨルはお断りしつつ、ヴァルに家のことをお願いしたいと話はついていた。
ヴァルも堂々と街中を歩けないため、買い出しは誰かに頼む必要はあるがヨルも暫くこの街に居るため、その間に考えるつもりだった。
「そっか、じゃぁ家まで私が案内するから、用意ができたら行こう」
アサヒナはどうやら興味津々でヨルの新居を見てから帰るようだ。
(またフレイアが拗ねても知らないよ……)
ヨルとヴェルは用意は終わっているので、そのままロビーまで向かい支配人さんに礼を伝えた後、三人仲良く並んで新居まで向かった。
――――――――――――――――――――
(しかし……ほんとに王都で家を持つことになるなんて……お父さんに言ったらビックリするだろうなー)
私は前を歩くヴェルと、ヴェルを護衛するように歩くアサに目をやる。
ヴェルのふわふわしたシルバーの髪が左右に揺れており、アサは燃えるような赤髪をポニーテールに結んでいる。
アサの前髪は何かでがっちりと固めているようだけど何使っているんだろう……髪に悪そう。
ちょっと私も伸ばしてみようかなと前髪を摘んでみるが、ロングヘアの自分が想像出来ない。
(接近戦のときとか邪魔そうだしなぁ……)
それにしてもホテルからそんなに離れていないと言っていたのに、まだ着かないのかな。さっきからもう十五分ぐらい歩いている気がする。
「ねぇアサ、家ってまだ遠いの?」
私が前を歩くアサに聞くと驚くべき答えが帰ってきた。
「ん? いやもう着いてるんだけど入り口が遠いんだよ」
もう着いている?
もしかしてさっきから続いているこの壁ってもしかして……。
「この左手の壁が敷地だぞ。入り口が反対側だからもう少し歩く」
(さっきからずっと続いてるこの壁の向こうが敷地?)
どこからこの壁が始まっていたのか覚えていなかったから、振り返ってみるがはるか先まで続いている。
私の三倍はありそうな高さ。材質はレンガのような色をした壁である。
壁の上には鉄格子まで添えつけられてて、ここを飛び越えて侵入するのは難しそうな堅牢さだなと思う。
『アネさん、ちょっと上見てきてもいいですかい?』
ぷーちゃんがパタパタと壁の上まで飛んでいき、突然バチンと弾かれたような音がする。特に怪我はしていないようで、そのまま私の肩に着地した。
『あ、アネさん壁の上、きっちりと結界がはってありやす。魔道具のようでさぁ』
(この豪華さはやりすぎなんじゃないのか)
偶然貴族街近くに空いたばかりの家があって、偶然ヨルが家を探していたとは言え、ぽーんとこの大きさの家を下賜するなんてあり得えるのだろうか。
フレイアは一晩と少しぐらいしか話をしてないけど……しかも半分以上は酔っ払ってて記憶にないけれど……!
それでも一国の女王というのは、こんなにスパッとした感じなんだろうか……何れにせよ今度あった時の礼を考えなきゃ……。
「おーい、ヨルー着いたぞー」
アサの声にハッとする。
気づけばすぐ前に壁と同じ様な高さの門があり、ガッチリと閉ざされていた。
門の隣には通用口もあり、門番用の詰め所まで用意されている。
アサはそのまま鍵で通用門を開け、私に先に入れと促してくるので意を決して足を踏み入れる。
「あ、そうそう、この入口とでっかい門はヨルの魔力で開けられるようになるから、登録してくれ。ほいこれ登録用の水晶鍵」
どうやらこの水晶に魔力を登録して門の内側からはめ込むと、私の意思で開けられるようになるらしい。
私は水晶を受け取り手のひらに乗せて魔力を流し込み始めた瞬間、ハッと気づく。
「あっ」
しかし遅かった。手のひらに載せられた水晶が真っ二つに割れてしまった。
あちゃ……私のは魔力じゃなくて神力だって忘れてた。
「ヨル……壊すなよー高いんだよこれ」
「ご、ごめん、ちょっと気合い入れ過ぎちゃった」
アサは小さいため息を付いて、もう一つ水晶を取り出したので、今度はヴァルに魔力登録を頼んだ。
「ちょっとだけでいいからな」
「えっと、光灯ぐらいでいいのでしょうか?」
「そうだね、それぐらいで十分」
私もそれぐらいしか出していないんだけど、やっぱり魔力と神力は性質から違うんだろうか。あれ魔水晶みたいだし、神力には弱いんだろうな。
無事魔力を門に登録完了したところで三人で敷地に入ると、百メートルぐらい先に屋敷が見える。どう見てもさっきまで泊まって居たホテルと同じ様なサイズだ。
確か書類では主寝室、書斎、応接室、リビング、お風呂。
この基本セットの他に客間が八部屋と地下室も付いているから……えーっと十二LDK? Dってダイニング?
(いいや……とりあえずでっかいってことは判る)
玄関につくと重厚な両開きの扉。
ヴァルが手をかざすと、先程の門の鍵と同じなのかカチャリと音がして扉がひとりでに左右に開いていった。
目の前に現れるロビーは吹き抜けになっており、シャンデリアがキラキラと光を放っている。
奥には二階に続く階段が見え、床にはふかふかの赤いカーペットが敷かれていた。
「はー……すっごい」
「すごいねーヨル大出世だね!」
ヴァルが面白がってそう言うけれど、私は旅に出てる間は家に居ないからね。
「それにしてもヨルとヴァーラルが同棲とはな!」
「――!?」
「いやいや、暫くこの家で匿うだけだから同棲じゃないし」
「えっ…………」
明らかにヴァルが悲しそうな顔でこちらを見ている。
耳と尻尾があったら壮大に垂れ下がっているんだろうな。
「だってほら、私暫くしたらまた旅に出るし、ヴァルも落ち着いたら国に帰るんでしょ?」
「う~……そうですけどー……ヨルに言われると悲しいじゃないですかー」
ヴァルが涙目でぽかぽかと胸をたたいてくる。
なにこれ可愛い。
「じゃぁ私も空いている部屋借りていいか?」
ヴァルの頭をよしよしして居ると、アサがとんでもないことを言い出した。
あなた自分の家が貴族街にあるって言ってたよね?
「ほら、ヨルが居ない間とか、ヴァーラル一人だと不安だろうし、買い出しとか困るだろ? それなら今のうちから慣れておくのもいいかなと思ったんだが、もちろんヨルが気を使うなら遠慮しておく。ここはヨルの家だからな!」
アサはそう言うが、言われてみれば近衛騎士のアサが居てくれればヴァルの身の回りについては安心できる。
あれから教会は何の動きも見せていないそうだが、いつ攫われたり復讐で実力行使に出られるかもわからないのだ。
――――――――――――――――――――
結局アサは次の休みの日に、実家に話をして週の何日かをこの家で生活することになった。
「色々と生活用品買わないとなー……」
当面の食料は巾着に入っているので気にならないが、食器や着替え、布団などを買う必要があった。
アサは残念ながらこのまま仕事に戻るということなので、ヴァルに家の掃除をお願いして、私は困った時のエンポロスさん頼みと言わんばかりに商業街に向かうことにした。
「えぇ、私は元々荷物は何もないからね」
ウトピアホテルのチェックアウトの日、ヨルとヴァルは部屋を簡単に掃除をして荷物をまとめた。
ヴァルを助けて、同じ部屋に泊まるようになって四日しか経っていないが、二人はすっかり友達のように打ち解けていた。
「ぷーちゃん、そっちは忘れ物ない?」
『へい、確認しましたが問題ありやせん!』
「……」
『アネさん、どうしやした?』
「いや、ぷーちゃんの声聞いたの久しぶりだな……って思って」
『……』
部屋の隅に置いてあるゴミ箱に入り、涙を流すサタナキアをヴァルが両手で優しく抱える。
「ほら、ぷーちゃんも行きますよ」
『へい…』
ヴァルの胸元に抱かれたサタナキアは声色に反して頭をスリスリしている。
ヨルはサタナキアの首根っこを掴み上げ、ぽーんと山なりに放り投げる。
「――ていっ!!」
ボールのように飛んだサタナキアは天井に当たり、見事にゴミ箱に着地した。
「もう、ヨルったら拗ねなくてもいいのに」
「えっ!? どこが!?」
――コンコン
ヨルが断固として否定しようとした時、部屋の扉がノックされる。
(そう言えば支配人さんが家の契約書をもってきてくれるって言ってたな)
ヨルはヴァルとサタナキアのことは一旦置いておき、何の警戒もなく扉を開ける。
ガチャ――
「よう、ヨルおはよう」
そこに立っていたのは支配人ではなく、近衛騎士団長のアサヒナことアサだった。
騎士団の制服なのだろうか、ビシッとした詰め襟の制服に身を包んでいる。
「なんでアサが?」
「そりゃ届け物があったから、私がもってきたんだ。二人の顔が見たかったしな」
片付けが完了したテーブルにヴェルがお茶の用意をしようとすると、アサヒナが「すぐに帰るから」と申し訳無さそうに言う。
「ほいこれ契約書と鍵……あれ? ぷーちゃんは?」
「あ、ありがとう」
「ぷーちゃんはアッチに嵌ってますわ」
ヨルは家の鍵と契約書が詰まったずしりと重い封筒を受け取る。
「それにしてもフレイアに言っておいて……ビックリするから。断るに断れないじゃない」
「あぁ、でもヨルへの礼が一つ出来たと喜んでいたよ」
アサヒナがゴミ箱の中で涙を流しているサタナキアを拾い上げ、ヨルのもっている封筒の上に置く。
「流石に豪邸一軒はやりすぎよ。私ただの平民でしかも旅人よ?」
「でも女王殿下の命を救ったろ。陛下の命はそんなに安くない」
アサヒナがニカっと笑みを浮かべ、ヨルの頭をぐりぐりと撫でる。
『アサちゃんかっけえなぁ』
ヨルはぷくっと頬を膨らませて、サタナキアのほっぺを摘みながら半目でアサヒナを見ると、表情に少し疲れも見え隠れしていた。
「疲れてる?」
「流石にな。前代未聞の事件が立て続けて起きたわけだし」
アサヒナは頬をぽりぽりと搔きながら嫌味っぽくヨルに言う。
「そうだ、メイドとか手配が必要なら言ってくれれば手配するって言ってたぞ」
流石にそこまで世話になれないとヨルはお断りしつつ、ヴァルに家のことをお願いしたいと話はついていた。
ヴァルも堂々と街中を歩けないため、買い出しは誰かに頼む必要はあるがヨルも暫くこの街に居るため、その間に考えるつもりだった。
「そっか、じゃぁ家まで私が案内するから、用意ができたら行こう」
アサヒナはどうやら興味津々でヨルの新居を見てから帰るようだ。
(またフレイアが拗ねても知らないよ……)
ヨルとヴェルは用意は終わっているので、そのままロビーまで向かい支配人さんに礼を伝えた後、三人仲良く並んで新居まで向かった。
――――――――――――――――――――
(しかし……ほんとに王都で家を持つことになるなんて……お父さんに言ったらビックリするだろうなー)
私は前を歩くヴェルと、ヴェルを護衛するように歩くアサに目をやる。
ヴェルのふわふわしたシルバーの髪が左右に揺れており、アサは燃えるような赤髪をポニーテールに結んでいる。
アサの前髪は何かでがっちりと固めているようだけど何使っているんだろう……髪に悪そう。
ちょっと私も伸ばしてみようかなと前髪を摘んでみるが、ロングヘアの自分が想像出来ない。
(接近戦のときとか邪魔そうだしなぁ……)
それにしてもホテルからそんなに離れていないと言っていたのに、まだ着かないのかな。さっきからもう十五分ぐらい歩いている気がする。
「ねぇアサ、家ってまだ遠いの?」
私が前を歩くアサに聞くと驚くべき答えが帰ってきた。
「ん? いやもう着いてるんだけど入り口が遠いんだよ」
もう着いている?
もしかしてさっきから続いているこの壁ってもしかして……。
「この左手の壁が敷地だぞ。入り口が反対側だからもう少し歩く」
(さっきからずっと続いてるこの壁の向こうが敷地?)
どこからこの壁が始まっていたのか覚えていなかったから、振り返ってみるがはるか先まで続いている。
私の三倍はありそうな高さ。材質はレンガのような色をした壁である。
壁の上には鉄格子まで添えつけられてて、ここを飛び越えて侵入するのは難しそうな堅牢さだなと思う。
『アネさん、ちょっと上見てきてもいいですかい?』
ぷーちゃんがパタパタと壁の上まで飛んでいき、突然バチンと弾かれたような音がする。特に怪我はしていないようで、そのまま私の肩に着地した。
『あ、アネさん壁の上、きっちりと結界がはってありやす。魔道具のようでさぁ』
(この豪華さはやりすぎなんじゃないのか)
偶然貴族街近くに空いたばかりの家があって、偶然ヨルが家を探していたとは言え、ぽーんとこの大きさの家を下賜するなんてあり得えるのだろうか。
フレイアは一晩と少しぐらいしか話をしてないけど……しかも半分以上は酔っ払ってて記憶にないけれど……!
それでも一国の女王というのは、こんなにスパッとした感じなんだろうか……何れにせよ今度あった時の礼を考えなきゃ……。
「おーい、ヨルー着いたぞー」
アサの声にハッとする。
気づけばすぐ前に壁と同じ様な高さの門があり、ガッチリと閉ざされていた。
門の隣には通用口もあり、門番用の詰め所まで用意されている。
アサはそのまま鍵で通用門を開け、私に先に入れと促してくるので意を決して足を踏み入れる。
「あ、そうそう、この入口とでっかい門はヨルの魔力で開けられるようになるから、登録してくれ。ほいこれ登録用の水晶鍵」
どうやらこの水晶に魔力を登録して門の内側からはめ込むと、私の意思で開けられるようになるらしい。
私は水晶を受け取り手のひらに乗せて魔力を流し込み始めた瞬間、ハッと気づく。
「あっ」
しかし遅かった。手のひらに載せられた水晶が真っ二つに割れてしまった。
あちゃ……私のは魔力じゃなくて神力だって忘れてた。
「ヨル……壊すなよー高いんだよこれ」
「ご、ごめん、ちょっと気合い入れ過ぎちゃった」
アサは小さいため息を付いて、もう一つ水晶を取り出したので、今度はヴァルに魔力登録を頼んだ。
「ちょっとだけでいいからな」
「えっと、光灯ぐらいでいいのでしょうか?」
「そうだね、それぐらいで十分」
私もそれぐらいしか出していないんだけど、やっぱり魔力と神力は性質から違うんだろうか。あれ魔水晶みたいだし、神力には弱いんだろうな。
無事魔力を門に登録完了したところで三人で敷地に入ると、百メートルぐらい先に屋敷が見える。どう見てもさっきまで泊まって居たホテルと同じ様なサイズだ。
確か書類では主寝室、書斎、応接室、リビング、お風呂。
この基本セットの他に客間が八部屋と地下室も付いているから……えーっと十二LDK? Dってダイニング?
(いいや……とりあえずでっかいってことは判る)
玄関につくと重厚な両開きの扉。
ヴァルが手をかざすと、先程の門の鍵と同じなのかカチャリと音がして扉がひとりでに左右に開いていった。
目の前に現れるロビーは吹き抜けになっており、シャンデリアがキラキラと光を放っている。
奥には二階に続く階段が見え、床にはふかふかの赤いカーペットが敷かれていた。
「はー……すっごい」
「すごいねーヨル大出世だね!」
ヴァルが面白がってそう言うけれど、私は旅に出てる間は家に居ないからね。
「それにしてもヨルとヴァーラルが同棲とはな!」
「――!?」
「いやいや、暫くこの家で匿うだけだから同棲じゃないし」
「えっ…………」
明らかにヴァルが悲しそうな顔でこちらを見ている。
耳と尻尾があったら壮大に垂れ下がっているんだろうな。
「だってほら、私暫くしたらまた旅に出るし、ヴァルも落ち着いたら国に帰るんでしょ?」
「う~……そうですけどー……ヨルに言われると悲しいじゃないですかー」
ヴァルが涙目でぽかぽかと胸をたたいてくる。
なにこれ可愛い。
「じゃぁ私も空いている部屋借りていいか?」
ヴァルの頭をよしよしして居ると、アサがとんでもないことを言い出した。
あなた自分の家が貴族街にあるって言ってたよね?
「ほら、ヨルが居ない間とか、ヴァーラル一人だと不安だろうし、買い出しとか困るだろ? それなら今のうちから慣れておくのもいいかなと思ったんだが、もちろんヨルが気を使うなら遠慮しておく。ここはヨルの家だからな!」
アサはそう言うが、言われてみれば近衛騎士のアサが居てくれればヴァルの身の回りについては安心できる。
あれから教会は何の動きも見せていないそうだが、いつ攫われたり復讐で実力行使に出られるかもわからないのだ。
――――――――――――――――――――
結局アサは次の休みの日に、実家に話をして週の何日かをこの家で生活することになった。
「色々と生活用品買わないとなー……」
当面の食料は巾着に入っているので気にならないが、食器や着替え、布団などを買う必要があった。
アサは残念ながらこのまま仕事に戻るということなので、ヴァルに家の掃除をお願いして、私は困った時のエンポロスさん頼みと言わんばかりに商業街に向かうことにした。
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