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3章 ― 急追するモノ
第58話-ティエラ教会②
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「アルフォルズ団長ら聖騎士団二十名ですが、エイブラム大司教と共に王都からこのシンドリには入らず、直接エトナ火山に向かいました。つい二日前の事です」
「あの人、大司教だったんですか……って、二日前……?」
ヨルがこの街に到着する前日である。
フランツ司教が言う情報の方が正しいとするなら、王都のギルドにある資料室でヨルが見たあの記事の内容は何だったのか。
「あの、前にも聖騎士団はエトナ火山に向かったことはあるのですか?」
「先月、本国から調査隊として聖騎士団三名と文官が一名エトナ火山に向かいましたが、文官だけが一人戻ってきました。聖騎士団の三名は魔獣にやられ全滅したそうです」
ヴァルに聞いていた話からアル達のことだと思いこんでいたが、あの記事はその調査隊のことだったのだろう。ならば、朝に話しをしていた修道女が知らないのも無理はなかった。
「弟からの報告では、聖騎士団はほとんどがエイブラム大司教の傀儡となっているそうです」
「操られているということですか?」
手段はわからず本人の意識もはっきりしているが、本来とは違う任務に全員従っているののが証拠だという。
「彼らの任務というと――勇者の捜査……?」
「……そこまでご存知なのですか」
「ちょっと耳に挟みまして」
フランツ司教の説明によると、エイブラム大司教を筆頭とする急進派は数年前から各地で脅迫紛いの手段で魔力の高いものを集めており、時には拐ってきたりしている違法なことを始めたそうだ。
「ガラムの冒険者ギルドに潜入していたのは、魔力の高い魔法使いを拐うため?」
「それもあったようですが、樹海には魔力の高い魔獣が多数おります。それを使い更に魔力の高い魔獣を召喚し、その魔獣を使い更に……ということを実験していると聞いています」
エイブラム大司教は冒険者ギルドに賄賂を送りサブマスターとしてガラムに潜入した。しかしフランツ司教たち穏健派は、彼を監視するために弟のアドルフにガラムへ移ってもらったそうだ。
アルに森で出会った時に現れた正体不明の魔獣はエイブラム大司教たち急進派が召喚し、アドルフはエイブラムにバレないよう勇者探索の任で各地に先入していたアルフォルズたちに傭兵ギルドの依頼として魔獣退治を頼んだということだった。
「そもそも、どうしてエイブラム達は魔力を集めているのですか?」
「大地神ヨルズ様の復活を成そうとしているのです」
「ぶはっ!」
含んでたお茶を思い切り吹き出すヨル。吹き出された側のエイブラムは気にする事なくハンカチで顔を拭き、話を続ける。
「驚かれるのは無理もありません。しかし聖典には神ヨルズに復活頂くには強い魔力が必要で、そのために強大な魔力を持つ勇者クラス、もしくは神ヨルズの信頼している配下を使うのが最も可能性が高いと記載されておりました」
そもそも勇者とは人類やこの世界が滅亡の危機を迎えた際に神々が遣わせる存在である。千年、二千年単位で現れるものではないのだ。
そのため彼らは召喚術でどうにかなるであろう、大地神ヨルズの信頼している配下を復活させようとしているのだった。
「我々、穏健派は高い魔力を持つという勇者を待ち続けているのですが、エイブラムたち急進派は神ヨルズの信頼している配下の力を手に入れるべきだと主張し出したのです」
「信頼している配下……?」
一度目は聞き間違いかと思ったその単語が再び出てきたことで、ヨル自身が記憶を思い出そうとする。
しかし最後まで独り身だったヨルズには、何人か居た友達以外に親しい配下などと呼ばれる神や神獣はいなかった。
(あれ……わたし、ぼっち?)
そんな事を考えて、頭を抱えるヨルを置いてけぼりにフランツ司教は続ける。
「我々の所持しております聖典にはこう記されております」
『――母なる大地神ヨルズは自ら選定なされた信頼の置ける配下、悪魔サタナキア、魔蛇テュポーン、魔眼エキドナを従えていた――』
「その聖典に従い、彼らはその配下を復活すべく行動し「酷い風評被害っ!!」 ――はい?」
「あ、いえ、すいません何でもないです」
(まって! どうして私がアホどもを配下にしなきゃならないのよ! 誰よこんなアホみたいな話を残したのは!)
『アネさん……あ、あっしもダメですかい?』
(…………ぷーちゃんは許可しましょう)
『――ありがとうごぜえます!』
たっぷり数秒悩んだ挙げ句、また調子に乗るかなと思いながらもヨルは渋々OKを出した。
「ヨルさん、エイブラム大司教はエトナ火山に向かっております。もし向かわれるのなら、お気をつけください。あの山は凶暴な魔獣の巣窟ですから」
「どうして初めて会った私にここまで話をしてくれたのですか?」
話が進むにつれ、ヨルの中で積もり出した一番気になることを尋ねる。内容次第ではフランツ司教の話も全て信用するわけにはいかなくなる。
「そうですね……敢えて言うなら貴女がノトー枢機卿の御息女だからでしょうか」
「ノトー枢機卿……?」
「私が若い頃、絶望の淵にいた所を救って頂いたセリアンスロープの女性です」
――――――――――――――――――――
「もし山に向かわれるのでしたら、護衛をお付けください」
「わかりました。今日はありがとうございました」
ヨルは今更、帽子をつけたままだだったと思い出し、マフラー部分をほどき、ニット帽をとって、改めてフランツ司教へ頭を下げる。
「……やはり良く似てらっしゃいます」
「こんど、詳しいお話を聞かせてください」
「えぇ、是非」
優しく微笑むフランツ司教へ丁寧に御礼を告げ、ヨルは席を立つ。そして最後に扉の前でフランツ司教へと振り返り、フランツ司教に最後の質問をする。
「あの……最後に一つ。そのふざけた……いえ、教会の聖典っていうのは誰が記したとかわかるんですか?」
「二千年前、ティエラ教会を設立されたというヴァルキュリア・ゲイラヴォル様が書かれたものです」
(ヴェルっーー!! あんたって子はーっ!! 何してくれてるのーっっ!!)
それは、魔猫屋と呼ばれる万屋の店主であり、戦友にして、ヨルズの捜索を命じられていたヴェルの本来の名だった。
「あの人、大司教だったんですか……って、二日前……?」
ヨルがこの街に到着する前日である。
フランツ司教が言う情報の方が正しいとするなら、王都のギルドにある資料室でヨルが見たあの記事の内容は何だったのか。
「あの、前にも聖騎士団はエトナ火山に向かったことはあるのですか?」
「先月、本国から調査隊として聖騎士団三名と文官が一名エトナ火山に向かいましたが、文官だけが一人戻ってきました。聖騎士団の三名は魔獣にやられ全滅したそうです」
ヴァルに聞いていた話からアル達のことだと思いこんでいたが、あの記事はその調査隊のことだったのだろう。ならば、朝に話しをしていた修道女が知らないのも無理はなかった。
「弟からの報告では、聖騎士団はほとんどがエイブラム大司教の傀儡となっているそうです」
「操られているということですか?」
手段はわからず本人の意識もはっきりしているが、本来とは違う任務に全員従っているののが証拠だという。
「彼らの任務というと――勇者の捜査……?」
「……そこまでご存知なのですか」
「ちょっと耳に挟みまして」
フランツ司教の説明によると、エイブラム大司教を筆頭とする急進派は数年前から各地で脅迫紛いの手段で魔力の高いものを集めており、時には拐ってきたりしている違法なことを始めたそうだ。
「ガラムの冒険者ギルドに潜入していたのは、魔力の高い魔法使いを拐うため?」
「それもあったようですが、樹海には魔力の高い魔獣が多数おります。それを使い更に魔力の高い魔獣を召喚し、その魔獣を使い更に……ということを実験していると聞いています」
エイブラム大司教は冒険者ギルドに賄賂を送りサブマスターとしてガラムに潜入した。しかしフランツ司教たち穏健派は、彼を監視するために弟のアドルフにガラムへ移ってもらったそうだ。
アルに森で出会った時に現れた正体不明の魔獣はエイブラム大司教たち急進派が召喚し、アドルフはエイブラムにバレないよう勇者探索の任で各地に先入していたアルフォルズたちに傭兵ギルドの依頼として魔獣退治を頼んだということだった。
「そもそも、どうしてエイブラム達は魔力を集めているのですか?」
「大地神ヨルズ様の復活を成そうとしているのです」
「ぶはっ!」
含んでたお茶を思い切り吹き出すヨル。吹き出された側のエイブラムは気にする事なくハンカチで顔を拭き、話を続ける。
「驚かれるのは無理もありません。しかし聖典には神ヨルズに復活頂くには強い魔力が必要で、そのために強大な魔力を持つ勇者クラス、もしくは神ヨルズの信頼している配下を使うのが最も可能性が高いと記載されておりました」
そもそも勇者とは人類やこの世界が滅亡の危機を迎えた際に神々が遣わせる存在である。千年、二千年単位で現れるものではないのだ。
そのため彼らは召喚術でどうにかなるであろう、大地神ヨルズの信頼している配下を復活させようとしているのだった。
「我々、穏健派は高い魔力を持つという勇者を待ち続けているのですが、エイブラムたち急進派は神ヨルズの信頼している配下の力を手に入れるべきだと主張し出したのです」
「信頼している配下……?」
一度目は聞き間違いかと思ったその単語が再び出てきたことで、ヨル自身が記憶を思い出そうとする。
しかし最後まで独り身だったヨルズには、何人か居た友達以外に親しい配下などと呼ばれる神や神獣はいなかった。
(あれ……わたし、ぼっち?)
そんな事を考えて、頭を抱えるヨルを置いてけぼりにフランツ司教は続ける。
「我々の所持しております聖典にはこう記されております」
『――母なる大地神ヨルズは自ら選定なされた信頼の置ける配下、悪魔サタナキア、魔蛇テュポーン、魔眼エキドナを従えていた――』
「その聖典に従い、彼らはその配下を復活すべく行動し「酷い風評被害っ!!」 ――はい?」
「あ、いえ、すいません何でもないです」
(まって! どうして私がアホどもを配下にしなきゃならないのよ! 誰よこんなアホみたいな話を残したのは!)
『アネさん……あ、あっしもダメですかい?』
(…………ぷーちゃんは許可しましょう)
『――ありがとうごぜえます!』
たっぷり数秒悩んだ挙げ句、また調子に乗るかなと思いながらもヨルは渋々OKを出した。
「ヨルさん、エイブラム大司教はエトナ火山に向かっております。もし向かわれるのなら、お気をつけください。あの山は凶暴な魔獣の巣窟ですから」
「どうして初めて会った私にここまで話をしてくれたのですか?」
話が進むにつれ、ヨルの中で積もり出した一番気になることを尋ねる。内容次第ではフランツ司教の話も全て信用するわけにはいかなくなる。
「そうですね……敢えて言うなら貴女がノトー枢機卿の御息女だからでしょうか」
「ノトー枢機卿……?」
「私が若い頃、絶望の淵にいた所を救って頂いたセリアンスロープの女性です」
――――――――――――――――――――
「もし山に向かわれるのでしたら、護衛をお付けください」
「わかりました。今日はありがとうございました」
ヨルは今更、帽子をつけたままだだったと思い出し、マフラー部分をほどき、ニット帽をとって、改めてフランツ司教へ頭を下げる。
「……やはり良く似てらっしゃいます」
「こんど、詳しいお話を聞かせてください」
「えぇ、是非」
優しく微笑むフランツ司教へ丁寧に御礼を告げ、ヨルは席を立つ。そして最後に扉の前でフランツ司教へと振り返り、フランツ司教に最後の質問をする。
「あの……最後に一つ。そのふざけた……いえ、教会の聖典っていうのは誰が記したとかわかるんですか?」
「二千年前、ティエラ教会を設立されたというヴァルキュリア・ゲイラヴォル様が書かれたものです」
(ヴェルっーー!! あんたって子はーっ!! 何してくれてるのーっっ!!)
それは、魔猫屋と呼ばれる万屋の店主であり、戦友にして、ヨルズの捜索を命じられていたヴェルの本来の名だった。
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