ネコミミ少女に転生したら殴り特化でした~剣も魔法も使えないのでとりあえず近づいて殴ることにする

八万岬 海

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3章 ― 急追するモノ

第67話-大地神ヨルズ

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 ヨルは痛みが引いてきた両腕の具合を確かめながら、目の前に立ちふさがるテュポーンにダメージを与えるべく、補助魔法を片っ端から重ねがけしていく。

deusデウスbronteブロンテpactumパクトゥムhumusヒュムス― rupes ルペスdensデンスphenomenフェノメンhastaハスタ!!――【攻撃強化インクルレズール】!! 【地壁テラ アーレア】っっ!! 【魔風弾ウェント クロブス】!! 」

 拳の強度向上、攻撃の威力を上げ、更に振り抜く速度を上げる風魔法も付与した。


『さっきから強化ばっかだな! こいよ! もうちょっとなぶってやるよ!」

「てぇぇぇいっっっ!!」

瞬間加速アッケレラーティオ】を発動してテュポーンの背後に回り込むと、全力でその後頭部に向けて拳をを振り下ろす。

 ゴンっ!と鉄の塊を殴ったような音をたて、ヨルの拳が跳ね返される。

『甘めぇ!』

 テュポーンの肩から生えている大蛇の口が開き、ヨルの腕に迫ってくる。
 ヨルはその背中を蹴り上げ、自ら飛び退って距離を取るが、左脚のブーツがその牙に引っ掛けられ裂けてしまう。

 ヨルは肩で息をしながら、使えなくなった左脚のブーツを脱ぎ捨てる。

(はぁっ……はぁっ……補助魔法をかけた拳で殴る程度じゃぁ……無理だったかぁ)

 いくらヨルが人間やセリアンスロープの中では強者だとしても、その辺りの魔獣を余裕で倒せるといっても、限度があるのだった。
 どれだけ力が強くても仔猫ではライオンに勝てない。

 そもそもテュポーンは、人間やセリアンスロープ、魔獣たちが住んでいるこの世界とは違う次元の生命体なのだ。

『へへへっ、追い詰められて、命の危機を認識して発情でもしてきたかぁ?』

 完全に着ている意味の無くなったシャツを脱ぎ捨て下着姿の上半身と素足となった左脚。
 そんなボロボロになったヨルを舐め回すように視線を送りながら、サタナキアはヨルを挑発する。


(よし、やっぱりこいつキモい。滅ぼそう)

 一応平和的に終わらせる方法を考えていたヨルだったが、腹を括った後は行動が早かった。

 ヨルは巾着に手を入れ、再び取り出した手の上には輝く三つのガラス玉が乗せられていた。

 そのガラス玉は、かつて魔猫屋の主人ヴェルが作ってヨルに寄越した神力を封じ込めた謎アイテム。

 以前ニザフル山でヨルが服用したときは、一時的に取り戻した神力でペドラドラゴンを屠ることが出来た。

「やっぱりこの大きさを口に入れるの怖いなぁー……」

 ヨルは小さな口を必死に大きく開き、そのガラス玉を一つ押し込んだ。


 ――ドクン

「かはっ……」

 前回と同じく、ヨルの口内に入った瞬間からガラス玉が光となりヨルの身体内に消えていく。

『なんだぁ?』

「ふーっ! ふぅーっ……!」

 ヨルは大きく息をつくと、残りのガラス玉も口へと運んだ。

 ――ドクン――ドクン

「ぐっ……ぅぁっ……ぁぁぁぁっっっ!! 【金剛アダマース】!」

 大きく叫び声を上げ、ヨルはその両腕の強度増加の神法を付与をした。


『お、おまっ、おまえ! その力はアイツの!?』

 突然消えた様に見える速度で、驚愕に目を見開くテュポーンの正面に飛び込む。
 そのままの勢いでヨルはサタナキアからの魔力を容赦なく使い魔法を組み上げた。


「――ぶっ飛べぇっ! 【神雷嵐鎖ソール テンペスタース――瞬爆エクリクスィ】ッッ!」


 テュポーンの顔面にヒットしたヨルの拳から無数の雷撃がその巨躯を駆け巡る。

『ごぁぁっっっ!!』

 テュポーンを中心に半径数メートルにだけ雷が落ち続けるような現象が発生する。
 野太い叫び声を上げながら倒れるテュポーンは、自身の体に受けたダメージには目もくれず、相変わらず信じられないものを見たように見開かれている。



『まっ、まさかお前はぶふっっ!』

 倒れたテュポーンの胸元に膝立ちをしたヨルは続け様に拳を叩き入れる。

『あぶっーお、おまーーやめっぶぺっ……!』

「はぁぁっっ――【紅玉流弾カーネリアン バレット】!」

『おごっ!? ごっがががっっっ』


 ヨルは左手でテュポーンの肩から生えた蛇の頭を握り、右拳で本体の顔面をマシンガンの如く拳を叩き入れる。


『ぜばぁぁ……ぐはっ……』

 ヨルは右拳に付与した魔法の効力が無くなるとおもむろにテュポーンの身体から飛び降り、テュポーンの太い首を右脚を大きくあげて踏み付ける。
 そしてテュポーンの顔面に小さな掌をそっと被せた。


 ヨルの瞳はいつもの緋色スカーレットから天色スカイブルーへと変化していた。

『ぁっ……』

 その眼に射通されたテュポーンは、先程までの態度からは想像できない情けない声をこぼす。

「――【大地ノ嘆キフムス マエロル】」

 静かに紡がれた神法は、音もなくテュポーンの全身に作用する。


『ぅごがぁっっっ!! 俺の身体がぁっ! 固まっ……るっ……!!』

 テュポーンの身体が金剛石ダイヤモンドの様な鉱石で覆われて、顔面以外の身体の動きを封じ込める。
 そして、体表面の石化が終わると、次にじわじわと体内に向け進行してゆく。


「ねぇ――さっき、誰が誰の何って言ったのか聞こえなかったんだけれど」

 テュポーンの首筋を右脚で踏みつけながらグリグリと動かすヨル。
 尻尾をふりふりさせ、ネコ耳もピクピク動いている。
 そしてその顔は、目つき以外はとても可愛らしい笑顔だった。


『アネさん! 大丈夫で……ひぃっ!?――あっ……あぁぁ』

 様子を見にきたサタナキアが思わずその顔をみて粗相をしてしまっても仕方の無いことだろうか。

 ヨルの身体からはヴェルのアイテムで強制増幅されたヨルの神力がオーラのように立ち上っていたのだった。


「ぷーちゃん! どうし……うわっ!」
「アサヒナ殿!」

 地面でピクピクしているサタナキアの背後に、アサヒナとアルも顔を出す。
 どうやら聖騎士団の退避が終わり、サタナキアを追ってきた様だった。

「「ヨル!」」

 アサヒナとアルの声が重なるが、当のヨルはその声には気がつかない。


「ほら、私のこと何て言ったの? んー?」

 ヨルは相変わらず尻尾をふりふりさせながら、脚をグリグリしながらテュポーンの目を見て語りかけ続ける。

『あっ、す、すみま……ごめんなさ』

 首から上しか動かないテュポーンは、すっかりその目に涙を浮かべてている。
 ヨルぐらいなら一口で飲み込めるような口をパクパクさせ、顔中にダラダラと冷や汗が流れている。


「ごめんじゃなくて、ほら、もっかいゆって?」

『その……神ヨルズ……様とは……知らな……』

「時間切れ。【大地ノ神鎖フムス カテーナ】!」

 ヨルの手から光でできた金色の鎖が出現し、音もなくテュポーンの顔面に巻きつき締め上げる。

『――――っ!!』

 顔を埋め尽くした金鎖の間からは絶望色に染まったテュポーンの片目だけが見えていた。

「もう一度、おやすみなさい」

 ヨルは憤懣ふんまんやるかたない様子を隠さず、その金鎖を両手で握りしめると尻尾をブワっと膨れさせる。

『――――!!』

 テュポーンが何か言うが、ヨルは問答無用で金鎖をグッと握り直し、背負投のように鎖の先に着いているモノを投擲する。

「――はぁぁっっ!! 吹き飛べぇぇぇっっっ!!」



 金鎖で簀巻きにされたテュポーンはバネ人形のような勢いで山頂の遥か上空まで吹き飛んでいく。
 ただし長さの制限のない金鎖は、未だヨルの拳と繋がっている。



「てぇぇぇぇぇいっっ!!」

 空中でその軌道を強制的に下に向けられたテュポーンは、頭からエトーナ火山に吸い込まれるように叩きつけられた。
 衝撃で火山全体が震え、辺りを衝撃が襲う。


「うわっ! アルフォルズ、屈め!」

「こっちの岩陰に!」

 隕石が落ちたように吹き上げられた岩石が雨のように降ってくるのを、二人は岩陰に避難してやり過ごす。



「ふぅ……スッキリした! って、アルとアサ何してるの?」

「お前なぁ……」
「さすがヨルはやることが派手だな!」
 
「あは、二人共もうちょっと待ってて。【瞬間加速アッケレラーティオ】!」

 ヨルは再び加速魔法を起動させ、その場から姿をかき消したのだった。
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