吾輩は猫であった、名前はもうない

もりのくま

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1章

1話

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 あれから3年……

 俺は……裏通りのあるボロ屋敷の中で手足を縛られて転がされていた。

 同じ部屋には百人いれば百人が「この人たちは犯罪者です」と答えそうなほど悪そうな男たちが数人、酒を飲んで大騒ぎしている。

 ――腹減ったなぁ。せめてさらわれるときに持ってた串焼きぐらい食べとくんだったなぁ……

 誘拐された人間としてはかなりずれたことを考えながら、バカ騒ぎをしている彼らを眺めていると、リーダー格らしき酔っ払った男が近寄ってきた。

「オメ~もよ、災難だったなあ。俺たちみたいなのに捕まって。恨むんだったら夜にあんなところに出歩いてた事と自分の見目の良さを恨むんだな」

 ガッハッハッ、と笑う男たちに背を向ける。野郎に見た目を褒められても全く嬉しくない。

「ふん、無視か。まあ、いいさ。どうせお前は奴隷オークションにでもかけられて、変態貴族のところに「アニキ、大変です!」……どうした?」

「衛兵隊の奴らが入ってきてます!」

 その場にいた男たちに動揺が走る。さすがというべきなのかアニキと呼ばれたあの男が舌打ちをしながらいち早く動き出した。

「……おい!このガキを人質にして逃げるぞ!」

 そういって、男は首根っこをつかんでくる。そんな男の顔に対して、前もって縄を外し、自由になった両手で渾身の肘打ちをお見舞いしてやった。そして、隠し持っていたガラスの破片で足を縛っているロープを切る。そして流れるようにほかの連中の急所――身長差的に股間しか狙えないのだが――を蹴り上げて制圧する。

 床一面にのたうち回っている男たちを見ながら、そろそろ追加の一発が必要か……などと考えていると扉が開き、見知った顔が入ってくる。

 俺よりも頭一つ高いが、女性としては小柄な体格、茶色の髪と目、そして最も目立つのが髪の上に生えている猫耳と揺れる二本の尻尾。彼女の名前はミーア。猫又であるらしい。

 たしか猫又というのは物語の中では妖怪として語り継がれている生物のはずだが、この世界では存在する。他にも見たことはないが、ドラゴンやフェンリルといった生物も存在するらしい。さすが異世界。

「ミーア、遅い。」

 近くにいた男の股間を再度蹴り上げる。

「ごめんニャ、衛兵の奴らがトロトロしてたのニャ。……こりゃ、ずいぶんと派手にやってるニャー」

 そういいながら、急所を蹴り上げられて、泡を吹いている男を木の棒でツンツン、とつついている。外見だけはかわいらしい美少女なのだが……

「いやー助かったニャ。これでたまってたツケも返せるし、女の子も抱きに行けるニャー。」

 ダメ人間(猫又?)だった。博打好き、酒好き、女好きのダメ男(女だが)の三拍子がそろっている。この悪癖さえなければ素直に尊敬できるのだが、なんというかもったいない。まあ、別に彼女自身尊敬されたいとは思っていないだろうが。

 これまでの悪行を思い出し、ため息をついていると、全身を鎧で包んだ男たちがドアから入ってきて床に転がっている男たちを縛り上げていく。彼らがミーアと一緒に来たという衛兵だろう。これだけ重装備なら動きが遅くなるのもうなずける。

 すると、縛り終わったところで壮年の男が俺たちに近づいて敬礼する。

「お二人ともご協力感謝いたします。この度の「そんな御託はいらんニャ。さっさと金をよこすニャ」……」

 にべもないミーアの言い方に衛兵の男は黙りこくってしまう。まあ、この部分はミーアに同意だ。金さえもらえれば別に感謝なんてされなくてもいい。

 男は袋を取り出し、汚いものを見るかのような目をこちらに向けながら渡してくる。それを受け取ると、この場に残る意味もないのでミーアと共にさっさと現場を後にする。

「さ、晩御飯にするニャ。おなかすいたニャー。」

 伸びをしながらそういうミーアに返事をしながら、すっかり暗くなって人通りのない帰り道を歩いていく。

 ――転生してからはや3年。ある程度危険な仕事をしながら、そこそこのお金をもらい自由に暮らす。そんな生活を俺はなかなか気に入っていた。

 この日常はもうすぐ崩れてしまうことになるのだが……
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