吾輩は猫であった、名前はもうない

もりのくま

文字の大きさ
3 / 4
1章

2話

しおりを挟む
 俺が今暮らしているレイバード王国には複数のギルドが存在する。商業ギルド、鍛冶ギルドというような様々なギルドの中で俺が登録して仕事を受けているのが裏ギルドである。その名の通り表ざたにできない仕事、例えばこの間のような誘拐犯に対するおとり捜査などがある。といっても暗殺や強盗のような非合法の仕事ばかりやっているかといえばそんなことはない。大方の仕事は貴族が愛人の家に行くからその護衛をしてほしいというものや、夫が浮気をしているようだからその相手を探してほしいというような可愛らしい内容のものばかりだ。とは言っても荒事が多いため強面な男もそろい、ギルド内では喧嘩が絶えず、怒号も飛び交っている。そんなギルドの隅で俺は……

 数匹の猫に囲まれながら惰眠をむさぼっていた。

 この猫たちはミーアの飼い猫……というわけではなく使い魔というものらしい。この世界に来て最初に見たのはこの使い魔だったようだ。普通の猫はこの世界でも火を操ったりはできないらしい。なんだか安心した。

 ちなみにゴロツキ、もといこのギルドの構成員たちは俺には絡んでこない。理由は簡単、全員股間を蹴られてのたうちまわりたくないからだ。

 朝食を食べてから数時間、流石に腹が減ったので食事にしようと外に出ようとすると……

「おーい、ヴァンくーん。ギルマスが呼んでるニャー」

 ギルマスの部屋からひょっこりと顔を出したミーアに呼び止められた。分かった、と返事をしてそちらへ向かう。ちなみにヴァンというのは呼ぶ名前がないと困るだろうということでミーアがつけてくれた名前だ。なかなかしっくり来ていて気に入っている。

 扉の前に立つと謎の緊張感が襲い掛かってきた。前世であの男が言っていた「学校の職員室に入ろうとするときの緊張感」というのはこういう感じなんだろうか。まあ、このまま突っ立っていても仕方ないのでドアをノックする。

「入れ」

 低く野太い声が答える。ドアを開けると声のイメージ通りの怖い顔をした大男が椅子に座っていた。この男がこの裏ギルドのマスターだ。そのあたりで獣を狩ってそのまま丸かじりしていそうな容貌とは異なり、いや国や有力な貴族からの依頼も受ける大手ギルドだからだろうか、礼儀だったりそういったことに非常に厳しい。入ってきた当初は言葉遣いがなってなかったせいで、何度拳骨が落ちてきたことか……。

「なんのよ……ご用件はなんでしょうか」

 そんなににらみつけないでくれよ……思わず目線をそらしながら言い直す。

「まあいい、とりあえず座れ。ミーア、お前はもういいぞ」

 じゃあニャー、と手を振りながらミーアが部屋から出ていった。俺は高そうなソファーに腰掛ける。

「さて、早速だがお前に依頼が入っている」

「俺……僕にですか?一体どなたからです?」

 わざわざ俺に依頼が来るのは珍しい。何か訳ありの依頼だろうか。思わず顔をしかめてしまう。

「ああ、心配はしなくていい。信用できる筋の依頼だ」

「分かりました。依頼の内容は何でしょう?」

「お忍びのお出かけの護衛だ。護衛対象は……聞いて驚くなよ?」

 ギルドマスターは楽しそうに口角を上げる。楽しそうなのは結構なのだが目つきが悪すぎて顔がとても怖くなっている。

「この国の第一側妃、エリナ・レイバード様だ」

「……」

「おいおい、お前の考えてることはわかるが、そんなにいやそうな顔をするな。」

 俺はこの国のことについて別に詳しくはない。だが、前世の記憶から、不興を買うとすぐ首をはねるというようなイメージが一番に出て来てしまう。

「大丈夫だ、直接会ったことがあるが横暴なことはしない人だよ、あの方は」

 まあ、このギルドマスターがここまで言うのであれば大丈夫なんだろう。だが、王家であれば近衛兵など優秀な兵士に事欠かないはずだ。なぜこんな裏ギルドの出自の怪しい人間をつけるのだろうか。

「まあ、いい。何か質問は?」

「直接、依頼と関係のないことでも?」

 構わん、と返事が来たので先ほどの疑問をぶつけてみる。

「王都の派閥争いが関係するんだが……まあお前は興味はないよな。まあ、お前の納得のいく理由を言おう。推薦があったからだ。」

「推薦?いったい誰から……」

「ミーアだ。エリナ様の護衛はいつもあいつがやってたんだが、今回はほかの依頼と重なっちまってな。代役を立てるならお前しかいないと太鼓判を押していったぞ」

 彼女は普段の行動こそ、ちょっと……アレな部分もあるが、仕事については真面目だし、危機察知能力には目を見張る部分がある。それに彼女とは一緒に組んで仕事をしていることも多いし、俺がどのくらいできるのかよく知っているはずだ。そんな彼女が大丈夫という依頼ならきっと大丈夫だろう。そう考え、俺は答える。

「分かりました。期待に沿えるよう努力します」

 腕を組み、うなずきながらギルドマスターが答える。

「結構、仕事は明後日の朝からだ。詳しいことはミーアから聞いてくれ。以上、出ていいぞ」

 その言葉を聞いて部屋の外に出る。それから俺は遅い昼食を食べに外に向かうのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

処理中です...