成瀬 慶 140字小説

成瀬 慶

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最後の試合

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最後の試合
PKまでもつれ込んで
両チームともヘロヘロだった
あとは
運と気力だけだった
そして負けた
彼は一人
誰もいなくなった客席へ
私はその背中を追った
夢から覚めたような顔でフィールドを見つめている
声をかけた
「愁・・・大丈夫?」
ありきたりな言葉で
声をかける

【続く】

私は彼の横に座る
「帰らなかったのか?」
”君のサッカーへの情熱は私が一番知っている
それを失ってしまった君を
一人残して帰れるわけない”
「PKは運だよ
じゃんけんと一緒」
そういった私に
彼は感情的に怒鳴った
それは
私にではなく
まるで
自分自身を責めるような言葉で
声が震えていた

【続く】

ふと
彼の顔を見ると
ボロボロと大きな涙がこぼれ落ち
まるで子供の様に泣き始めた
私は彼の前に立ち
抱きしめた
ヒクヒクと声を出して泣く彼の涙が
私のシャツの胸元にしみる
”悔しかったね”
”頑張ったね”
どんな慰めの言葉も効かないことは
私がよく分かっている

【続く】

だって
私たちは幼馴染
小さなころから
一緒にボールを追いかけた仲間
昔から一番近くで貴方を見ていたんだから
同じ思いなんだ
だから今日は
今日だけは
許してください
彼の一番近くに寄り添えることを・・・
彼には大切な彼女がいることを知っていながら
私は友情という言い訳で
彼を抱きしめる

【完】

【narusegoto】
『君と僕』
12話の唯香のきもちです

※たまにあるのですが
140字でおさまらないで
何話かに分けて一つの話にすることがあります
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