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小さな花壇の大きな問題 (1)
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「……私、このままじゃいけない気がするの」
自室で様々な書類に埋もれたルーチェは深々とため息をついた。彼女の膝の上には、庭園の見取り図が置かれている。
庭園を美しく調えるための采配は王妃――もちろん、実際の作業は専門家である庭師達の手によって行われる――ため、王太子妃となったルーチェがいずれその役を引き継ぐのは決定事項だ。
そして、その準備として南の庭園の一角、花壇の一つを好きにしてもいいと言われて、何を植えようか考えているところなのだが、なかなかいい考えが浮かんでこない。
ルーチェが任されたのは花壇の一つだけだから、その場所だけ庭園の他の場所と大きく趣の異なるものにするわけにもいかないし、だからといって王妃が決めたそのままでは芸がない。王妃も「ルーチェらしさ」を期待しているのだろうから。
「わかりました! 頑張ります!」
と、話を受けた時には、王妃相手に元気よく返事をしてみたものの、いざ何を植えればいいのだろうということになると見当もつかなかった。
庭園の見取り図を眺めながらああでもない、こうでもないと考えているだけなら楽しいけれど、実際に命令を下す段になるとためらってしまう――ルーチェ自身が、自分は勉強不足だと感じているからなおさらだろう。
南の庭園は、ランドルフの遊び場であった巨大な迷路――賭けをしていた時期にルーチェが逃げ込んだこともあった――のある場所でもある。その他にも、大きなブランコが置かれていたり、動物の彫像が並べられていたりと、比較的遊び心溢れる趣の庭園だ。
先日、貴族の未婚女性ばかり集めたティーパーティーを開いた時に南の庭園を使ったけれど、結婚間近という適齢期の女性達もブランコを楽しんでいたことを思い出す。
今後ルーチェがたくさんの女性を招待する機会が増えるのなら、見た目が華やかな花を育てた方がいいような気もするのだが――。
近頃、安眠効果のあるハーブを集めたポプリを、愛らしい陶器のケースに入れて、枕元に飾るのが流行している。陶器のケースをコレクションするのも流行中で、ルーチェの手元にも、献上されてきた品がいくつかあった。
そうなると、ポプリを作るのに使えるようなハーブを育てるのもいいかもしれないという気もしてくる。観賞用の花と比較すればたしかに地味だが、見た目にも可愛らしい花が多い。
(……どうしよう、かしら)
ランドルフに相談するのもいいけれど――ここ数日、彼は他国の使者といろいろ話し合わなければならないことがあると言って、早朝から夜まで会談の行われている部屋に閉じこもっている。そんな彼に、「南の庭園の花壇に何を植えたらいいと思う?」なんて相談を持ちかけるのは気が引けた。
「……やっぱり、庭師に聞くのがよさそうね」
ルーチェのところまで来てもらってもよかったのだが、仕事の手を止めさせるのは悪いと思ったし、実際に庭を見ながらの方が話が早いとも思ったから、庭師のところまで会いに行くことに決める。
庭師に相談しながらあれこれ検討した結果、何種類かのハーブを取り合わせて植えようということで方向性を決めた。
「ネメディス子爵領のラベンダーが、最近人気が高いんですよ。今までの品種よりも、少し香りが強くてね。ルーチェ様の花壇に植えてみてはいかがですか?」
城のハーブ園で育てている分だけでは足りないハーブは、王都にあるハーブ店から取り寄せているのだが、昨年あたりからネメディス子爵領から送られてくるラベンダーの人気が高まっているらしい。今のところ、城のハーブ園には植えられていないそうだ。
「それは素敵ね。でも……来週から、ネメディス子爵家の令嬢が侍女として出仕してくることになっているの……ネメディス子爵領から買って問題ない?」
王宮に商品を納めるとなると、大変名誉なことである。様々な利害関係が絡んでくるために慎重にならなければならないだろうということは、ルーチェが小さな領地しか持たない家の出だからこその発言だった。
ルーチェの侍女として、子爵家の令嬢が出仕してくる上にさらに新しい品種を納品するということにもなれば、子爵家と王家の距離が近づくことになる。面白くないと思う人物がたくさんいるであろうことは、簡単に想像できた。
「問題ないと思いますよ。今までにもおなじようなことはありましたからね」
庭師からはそう返ってくる。他にもいろいろと確認しなければならないことはあるけれど、ラベンダーについてはネメディス子爵領から取り寄せることに決めた。
自室で様々な書類に埋もれたルーチェは深々とため息をついた。彼女の膝の上には、庭園の見取り図が置かれている。
庭園を美しく調えるための采配は王妃――もちろん、実際の作業は専門家である庭師達の手によって行われる――ため、王太子妃となったルーチェがいずれその役を引き継ぐのは決定事項だ。
そして、その準備として南の庭園の一角、花壇の一つを好きにしてもいいと言われて、何を植えようか考えているところなのだが、なかなかいい考えが浮かんでこない。
ルーチェが任されたのは花壇の一つだけだから、その場所だけ庭園の他の場所と大きく趣の異なるものにするわけにもいかないし、だからといって王妃が決めたそのままでは芸がない。王妃も「ルーチェらしさ」を期待しているのだろうから。
「わかりました! 頑張ります!」
と、話を受けた時には、王妃相手に元気よく返事をしてみたものの、いざ何を植えればいいのだろうということになると見当もつかなかった。
庭園の見取り図を眺めながらああでもない、こうでもないと考えているだけなら楽しいけれど、実際に命令を下す段になるとためらってしまう――ルーチェ自身が、自分は勉強不足だと感じているからなおさらだろう。
南の庭園は、ランドルフの遊び場であった巨大な迷路――賭けをしていた時期にルーチェが逃げ込んだこともあった――のある場所でもある。その他にも、大きなブランコが置かれていたり、動物の彫像が並べられていたりと、比較的遊び心溢れる趣の庭園だ。
先日、貴族の未婚女性ばかり集めたティーパーティーを開いた時に南の庭園を使ったけれど、結婚間近という適齢期の女性達もブランコを楽しんでいたことを思い出す。
今後ルーチェがたくさんの女性を招待する機会が増えるのなら、見た目が華やかな花を育てた方がいいような気もするのだが――。
近頃、安眠効果のあるハーブを集めたポプリを、愛らしい陶器のケースに入れて、枕元に飾るのが流行している。陶器のケースをコレクションするのも流行中で、ルーチェの手元にも、献上されてきた品がいくつかあった。
そうなると、ポプリを作るのに使えるようなハーブを育てるのもいいかもしれないという気もしてくる。観賞用の花と比較すればたしかに地味だが、見た目にも可愛らしい花が多い。
(……どうしよう、かしら)
ランドルフに相談するのもいいけれど――ここ数日、彼は他国の使者といろいろ話し合わなければならないことがあると言って、早朝から夜まで会談の行われている部屋に閉じこもっている。そんな彼に、「南の庭園の花壇に何を植えたらいいと思う?」なんて相談を持ちかけるのは気が引けた。
「……やっぱり、庭師に聞くのがよさそうね」
ルーチェのところまで来てもらってもよかったのだが、仕事の手を止めさせるのは悪いと思ったし、実際に庭を見ながらの方が話が早いとも思ったから、庭師のところまで会いに行くことに決める。
庭師に相談しながらあれこれ検討した結果、何種類かのハーブを取り合わせて植えようということで方向性を決めた。
「ネメディス子爵領のラベンダーが、最近人気が高いんですよ。今までの品種よりも、少し香りが強くてね。ルーチェ様の花壇に植えてみてはいかがですか?」
城のハーブ園で育てている分だけでは足りないハーブは、王都にあるハーブ店から取り寄せているのだが、昨年あたりからネメディス子爵領から送られてくるラベンダーの人気が高まっているらしい。今のところ、城のハーブ園には植えられていないそうだ。
「それは素敵ね。でも……来週から、ネメディス子爵家の令嬢が侍女として出仕してくることになっているの……ネメディス子爵領から買って問題ない?」
王宮に商品を納めるとなると、大変名誉なことである。様々な利害関係が絡んでくるために慎重にならなければならないだろうということは、ルーチェが小さな領地しか持たない家の出だからこその発言だった。
ルーチェの侍女として、子爵家の令嬢が出仕してくる上にさらに新しい品種を納品するということにもなれば、子爵家と王家の距離が近づくことになる。面白くないと思う人物がたくさんいるであろうことは、簡単に想像できた。
「問題ないと思いますよ。今までにもおなじようなことはありましたからね」
庭師からはそう返ってくる。他にもいろいろと確認しなければならないことはあるけれど、ラベンダーについてはネメディス子爵領から取り寄せることに決めた。
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