ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或

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25.父と母に報告




 お兄ちゃんの胸を借りて思いっ切り泣いてスッキリした私は、顔を上げると涙を拭い、ベッドから立ち上がった。


「……もう大丈夫か?」
「うん、ありがとうお兄ちゃん。でも、服濡らしちゃった……ごめんなさい」
「そんなん気にすんな。洗えばいいことだしな」


 お兄ちゃんは笑うと、私の頭をワシワシッと乱暴に撫でる。


「馬車呼ぶから、気を付けて帰れよ。殿下は暫く学園に行けねぇから、オレもお前の傍にいてやれねぇ。必ずお前の信頼の置ける誰かと行動しろよ。十分気を付けてな」
「ふふっ。相変わらず心配性だなぁ、お兄ちゃんは」
「可愛い妹を心配して何が悪い」
「あははっ、ありがとう」


 私は笑うと入口に目を向け――そこで扉が開いていることに気が付いた。


「え――あぁっ!? 扉が開いてた!? ど、どうしよう……こんなとこ誰かに見られてたら、きっと良くない誤解されちゃう……!」
「今まで誰も気配を感じなかったし大丈夫だ。それに、ここは殿下の部屋だ。わざわざこんな場所で逢瀬するヤツはいねぇし、例え見られていても、泣いてたから慰めてたって言えば済む話だろ」
「あ……うん、そっか……そうだね」


 お兄ちゃんに見送られながら馬車に乗って家に帰った私は、出迎えてくれたレムに目が真っ赤なことを言及された。
 レムになら言っても大丈夫だと思い、一緒に自分の部屋に行くと、ユークリット様に【卒業前記念パーティー】の時に『婚約破棄』されるだろう旨を話した。

 ちなみに、モコは私のベッドでスヤスヤと気持ち良さそうに眠っている。


「……成る程。殿下に他に好きな人が出来て、それが殿下の“運命の人”だと。セイフィーラ様の入る余地は無いから、黙って身を引く……と」


 レムは相変わらずの無表情で静かに頷くと、懐から音も無く短剣を取り出し、スゥッと部屋を出ようとする。


「えっ――ちょ、ちょっと待って!? そんな物騒なモノを手に持って何処へ行くのレム!?」
「少しそこまで殿下を暗殺しに。仕留めたらすぐに戻って参りますので御安心を」
「全然御安心じゃないわっ!? 散歩しに行く感覚で怖いこと言うの止めてっ!? しかもユークリット様ってレムの主でしょ!? そんな人を暗殺していいのっ!?」
「浮気二股最低野郎など私の尊敬する主ではありません」
「浮気二股……!? ち、違うのよ! ちゃんとその事実を受け入れたから大丈夫よ!? だからその物騒なモノを早く仕舞って!」
「…………チッ」


 レムはあからさまに舌打ちすると、短剣を懐に仕舞った。


「……セイフィーラ様はそれでいいのですか?」
「えぇ、いいのよ。……私は大丈夫だから」
「……セイフィーラ様が納得していらっしゃるのなら、私は何も言いませんが……。旦那様と奥様には事前に伝えた方がいいと思いますよ。このことはベラトリクス家だけの問題ではないですから。王族も関係しますしね」
「えぇ、そうね……。分かったわ。今から話をしに行ってくるわね」


 私は頷くと、部屋を出てお父様がいる執務室に向かった。
 部屋の前まで来ると、私は大きく深呼吸をし、汗が滲む手でノックをする。


「お父様、セイフィーラです」
「セイフィーラ? ――あぁ、入りなさい」


 扉を開けると、丁度お母様もお父様の手伝いをしていた。


「おかえり、セイフィーラ。遅かったね。『王妃教育』が長引いたのかい?」
「只今戻りました、お父様、お母様。実は――」


 私は二人に、ポルック侯爵がユークリット様を暗殺しようとして捕まったことを説明した。
 余計な心配を掛けたくなかったので、私が関与したことは言わなかった。


「……そうか、あのポルック侯爵が……。愚かな野心は己の身を滅ぼすんだよ。全く馬鹿な真似をしたものだね」
「えぇ、本当に……」


 お父様とお母様が神妙に頷く。


「あの……お父様、お母様。もう一つお話があります」
「ん? 何だい?」


 私はコクリと唾を飲み込むと、ユークリット様との『婚約破棄』について話した。


「……ふむ。殿下はその転入生を好きになり、行動をよく共にするようになった。彼女は殿下の“運命の人”なので、お前は黙って身を引くことにした、と……」
「それについて、社交界でも噂になっていたのよ。城下町でも王城でも一緒にいる姿を見掛ける、お宅の娘さんは大丈夫かと、社交場に出る度言われたわ。殿下のことだから、何か理由があるのだろうし、貴女が心配すると思って何も言わなかったのだけれど、分かっていて、そこまで覚悟を決めていたのね……」


 え! そうなんだ……城下町のことは知らなかった……。

 ――あ! そう言えば、ゲームに『城下町デートイベント』があったわ!
 城下町を二人が周りを全く気にせずイチャイチャしながらデートするイベントだったから、セイフィーラがあまりにも不憫で記憶から抹消してたわ……。


「国王に抗議の文を送ろうか。第一王子は婚約者がいるにも関わらず、他の令嬢と逢瀬を重ねている……と」
「いいえ、お父様。そこまで事を荒立てたくはありません。私は素直に『婚約破棄』を受け入れる所存です。それで……あの、『婚約破棄』後、私を修道院送りにはしないで頂きたいのです……。勘当は受け入れますが、自分の力で生活していきたいのです」


 思い切って当初に考えていた願いを二人に告げると、彼らはキョトンとした表情になり、互いに顔を見合わせた。


「勘当……? 何故僕達がお前を勘当して修道院送りにするんだい?」
「え? そ、その……ベラトリクス家に恥をかかせたって――」
「何を馬鹿な。『婚約破棄』で傷付いて帰ってきた娘に、そんな残酷なことを言うわけがないじゃないか」
「そうよ? この件は王子殿下が悪いのであって、貴女は何も悪くないのだから。『婚約破棄』をされることによって、周りが貴女を色眼鏡で見るかもしれないけれど、全く気にすることはないのよ。堂々としていれば良いの。勿論、私達も貴女を全力で守るから。だって、貴女は私達の大事な娘ですもの。ねぇ、あなた?」
「あぁ、当然だよ」


 私は二人のその言葉に、枯れ果てたと思っていた涙がまた溢れ出してきたのだった……。





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