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26.逢いたかった人
――その夜。
私はモコを抱きしめベッドに転がりながら、今日あったことを思い返していた。
……やっぱり、『婚約破棄』されて両親に勘当され修道院行きの流れは、無理矢理な展開だったのね……。
だって、ゲームでも娘を深く想う立派な父と母だったのよ? それが手のひらを返したように、鬼のような形相で勘当を言い渡して……。
[王子ルート]のシナリオライター……貴方、話を強引に作り過ぎよ……。よくそれで上司からオッケーが出たわね? 信じられないわ……。
お父様とお母様は、『婚約破棄』後、私達の様々な話題が落ち着くまで、ここから遠い場所にある別荘で暮らしてもいいって仰ってくれたわ。
それもいいかもしれない。レムとお兄ちゃんとモコで暮らすのはきっと楽しいに違いないわ。
レムとお兄ちゃんは案外相性が良さそう。二人の性格をよく知る私がそう思うんだもの、間違いはないわ。
……うん。私、ユークリット様がいなくても大丈夫。
ゲームのように、私は独りぼっちじゃない。それがこんなにも心強い――
不意に、急激に眠気が襲ってきた。その睡魔に抗えず、私は自然と瞼が下がり、眠りの世界へと誘われていったのだった――
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
目を開けると、そこは見たことのない丘の上だった。
空は快晴で、丘には様々な色の花が咲き乱れている。
「え……ここは……? 私、確か自分のベッドで眠って……。もしかして夢かしら?」
キョロキョロと周りを見渡すと、一番高い丘の上に、一人の女性が佇んでいるのが見えた。
「……っ!!」
私はその姿を捉えると、一目散に女性に向かって走り出す。
彼女の近くまで来て立ち止まると、私は息を切らしながら、改めてその後ろ姿を食い入るように見つめた。
杏色の艷やかな長い髪。ほっそりとした身体の女性は、凛とした姿勢で前を見ている。
……あぁ……。この女性は……。
この人は――
「――セイフィーラ……」
私がそう呟くと、その女性は振り向き、私に向かって杏色の瞳を細め、微笑んだ。
「ご機嫌よう。会いたかったわ。もう一人の私――」
セイフィーラは私に向き直ると、もう一度綺麗な笑みを浮かばせた。
「……な、何で……?」
「神様が貴女に会わせてくれたの。私が会いたいと願ったから。『少しならいいよ』って」
セイフィーラはそう言いながら、呆然とする私に一歩近付く。
「貴女は、私の行く末を憐れみ、本気で泣いて、本気で怒ってくれた。私の“本当の想い”を分かってくれた。とても嬉しかったのよ……。ありがとう」
「……セイフィーラ……」
「私……生前は覚えていなかったけれど、何度も同じ生を繰り返していたの。途中までの結末はどれも違っていたけれど」
「……っ!!」
それは――プレイヤーが“違う結末”を求めて、何度もゲームをプレイしたから……?
「貴女には、私の“本当の結末”を話すわ。まず、私が【卒業前記念パーティー】に殿下に『婚約破棄』をされ、両親に勘当されて修道院に送られた時のことよ」
それは……【ハッピーエンド】の方ね……。“ハッピー”だなんて、ユークリット様とリルカだけに向けられた言葉だわ……。
「修道院で作った子供服や小物を孤児院に届ける役目をしていた私は、そこで一人の男性に出会ったの。私達は会う度話すようになり、やがて彼から告白してくれて、私達は付き合うようになったの」
「え!?」
「そこの修道院は、他の院より規則が寛大で、恋愛も許されていたし、結婚して修道院を出ることも出来たわ。やがて私達は結婚して、修道院を出て二人で暮らし始めたの。そして可愛い子供達が出来て、可愛い孫達も出来て……。とても幸せな一生だったわ」
うそ……。セイフィーラも【ハッピーエンド】だった……?
「別の生で、私が【卒業前記念パーティー】の前日に、殿下に別れを言った時のことも話すわね」
それは……【バッドエンド】の方だ!
「家に帰った私は、両親に殿下と別れたことを打ち明けたわ。両親は殿下とカストラル公爵令嬢の噂を知っていて、私を慰めてくれたわ。そして、落ち着くまで別荘にいなさいと、私を別荘まで送ってくれたの」
……あぁ……やっぱり。
お父様とお母様はセイフィーラのことが大好きなのよ……。
「別荘で暫く暮らしていた私は、そこにある丘の上で、一人の男性に出会ったの。私達は会う度他愛のない話をして、やがてお互い恋に落ち、付き合うようになった」
……!! この流れって……!!
「結婚した私達は、丘の上にある、小さな家を買って二人で暮らし始めたわ。そこからはさっき言った結末と同じ。どちらの生も、彼は同じ人物だったわ。私には殿下とは違う、別の“運命の人”がいたのよ。その人は、生涯私だけを愛し、大切にしてくれたわ。私もその人だけを愛して……。私、本当に幸せだったのよ?」
そう言って美しく微笑むセイフィーラを見、私の涙腺が崩壊した。
「よ、良かった……。ほ……本当に……本当に良かった……っ!!」
大声で泣きじゃくる私を、セイフィーラがそっと抱きしめてくれた。
「ありがとう、私の為に泣いてくれて……。だから、貴女も大丈夫よ。絶対に幸せになれるから。相手が誰であろうとも、必ず」
「セイ、フィーラ……っ! 私、あなたのことが大好きで……っ!」
「えぇ、分かってるわ。だから私は、貴女の前に現れたの。私の“本当の結末”を貴女に知って欲しくて。――貴女に、安心して欲しくて」
「う、うぅ……っ」
「さぁ、胸を張ってお行きなさい。貴女のこと、私はずっと見守っているから」
私は指で涙を拭うと、セイフィーラに向かって大きく頷いた。
「はい……っ!」
セイフィーラは微笑み、私をもう一度抱きしめてくれた。
そこで、不意にグラリと視界が暗転した。
目の前で微笑む彼女の名前を呼ぼうとしたけれど声が出ず、私の意識はそこで途切れたのだった――
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