事故から目覚めた最愛の妻は言った。「何故いるの? 貴方とはもう離婚してるのに。貴方の浮気の所為で」

望月 或

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15.目の前には……

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「ん……?」


 ふっとシェラルが目を覚ますと、フカフカの高級ベッドの上に寝かされていた。身体には毛布が掛けられている。


「……ここは……」


 シェラルは、そのままの体勢でキョロキョロと辺りを見回す。どうやら城の休憩室のようだ。


「……あぁ、そっか……。私、あのまま気を失って……。セリュード様がここまで運んで下さったのかしら? 後でお礼を言わないと――」


 シェラルはゆっくりと上半身を起こし、頭を軽く振る。


「私、どれくらい気を失っていたの……? 今は何時かしら? 何にせよ早く帰らなきゃ。皆が心配しちゃうわ」


 ベッドから起き上がろうとすると、外の廊下から微かに話し声が聞こえてきた。
 それは男女が話している声で、徐々に近付いていて、こちらに向かって歩いてきているようだった。


「…………!」


 ……シェラルは、この二人の声に覚えがあった。
 咄嗟にベッドから飛び降り、扉から死角になるベッドの脇に身を屈める。


(お願い、こっちに来ないで……! 入って来ないで……!)


 身体を丸まらせながら、祈るように顔の前で手を組む。

 しかし、無情にも休憩室の扉がカチャリと音を立て、開けられてしまった。
 そして、すぐに閉まる音がする。


「……ここは本日使う予定はありませんし、誰も来ませんよ」


 男の声の主は、予想していた通りディクスだった。


「ディクス様……。やっと二人きりになれましたわ……」


 鼻に掛かった女の声の主は、先程のお茶会の主催であるエルモアだ。


「王女殿下……。僕も貴女とこうして二人きりになりたかった。こうして貴女を抱きしめたかった――」
「嬉しい、ディクス様……。二人きりの時は、いつものようにわたしを呼んで?」
「はい、エルモア……。離婚は成立したので、漸く貴女と一緒になれますね」
「えぇ、ディクス……。これからはいつまでも一緒ですわ」


 シェラルはそれを聞きながら口に両手を当て、喉から出ようとする声を必死に我慢した。


(え? え? 何……なに? やっぱりエルモア様があの人の“運命の人”なの? でも、あの人には他に“好きな人”がいるのよね……? 分からない……一体どういう事……?)


 バクバクと響く心臓の大きな音が彼らに聞こえないかと恐れつつ混乱している間にも、二人は、


「エルモア、貴女の瞳はいつも宝石のように輝いて美しいです……。いえ、どの宝石も貴女のその瞳には敵わない……」
「あなたの瞳もキラキラしていて、まるで夜空を照らしながら満面に光るお星さまのようですわ……」


 と、身体が異様にむず痒くなる台詞を言い合っている。


(きゃあぁっ! 止めて止めてっ、身体中にブツブツと鳥肌がぁっっ!)


 シェラルは、両手で肌を搔き回したくなるのを必死に我慢した。
 ディクスは普段シェラルにも、蜂蜜をたっぷり入れたミルクのような甘い台詞を言うが、第三者の立場から聞くとこんなに鳥肌が立つものだったとは思わなかった。

 それを日常茶飯事として聞いていた屋敷の使用人達に、今すぐに土下座して謝りたい衝動に駆られる。


(――だけど、ちょっと待って……? この様子だと、エルモア様とは“運命の人”で相思相愛って事よね……? でも、あの人にはエルモア様の他に“好きな人”がいて……。しかも、私と一緒に住んで“結婚生活”をしている……。――ちょっとちょっと、それってもしかして――)


 シェラルはそこで、“一つの考え”に辿り着いた。


(――そうよ! これって二股より更に酷いじゃないっ!? 実際にやってる人がいるなんて……っ! しかもこんな身近に!?)


 ディクスを『三股している最低男』と認識した途端、シェラルの心の奥底から、沸々と怒りが湧き上がってきた。


「――嫌だわっ! 三股なんて本当に有り得ないっ! 信じられないっ! 不埒よ! 女の大敵よっ! 絶大なる悪の大魔王よっ! 絶対に許せないわっ!! 誰か聖剣持ってきてっ!! この色魔不埒大魔王を木っ端微塵の更に跡形も無く成敗してやるんだからっ!!」



 ガバッと勢い良く立ち上がり、シェラルは拳を握りしめ盛大に叫んだ。

 ……そう、口に出して叫んでしまった。


「…………あっ」
「「……っ?」」


 驚いた表情の二人と目が合う。


「「…………」」


 まさかシェラルがいるとは思っていなかったディクスとエルモアは、抱き合ったまま目を見開いて固まっていた。


(……ああぁ……やっちゃったーー!!)


 シェラルは今すぐ駆け出して、部屋から脱兎の如く逃げたい思いで一杯になったのだった……。


 

 
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