15 / 22
15.目の前には……
しおりを挟む「ん……?」
ふっとシェラルが目を覚ますと、フカフカの高級ベッドの上に寝かされていた。身体には毛布が掛けられている。
「……ここは……」
シェラルは、そのままの体勢でキョロキョロと辺りを見回す。どうやら城の休憩室のようだ。
「……あぁ、そっか……。私、あのまま気を失って……。セリュード様がここまで運んで下さったのかしら? 後でお礼を言わないと――」
シェラルはゆっくりと上半身を起こし、頭を軽く振る。
「私、どれくらい気を失っていたの……? 今は何時かしら? 何にせよ早く帰らなきゃ。皆が心配しちゃうわ」
ベッドから起き上がろうとすると、外の廊下から微かに話し声が聞こえてきた。
それは男女が話している声で、徐々に近付いていて、こちらに向かって歩いてきているようだった。
「…………!」
……シェラルは、この二人の声に覚えがあった。
咄嗟にベッドから飛び降り、扉から死角になるベッドの脇に身を屈める。
(お願い、こっちに来ないで……! 入って来ないで……!)
身体を丸まらせながら、祈るように顔の前で手を組む。
しかし、無情にも休憩室の扉がカチャリと音を立て、開けられてしまった。
そして、すぐに閉まる音がする。
「……ここは本日使う予定はありませんし、誰も来ませんよ」
男の声の主は、予想していた通りディクスだった。
「ディクス様……。やっと二人きりになれましたわ……」
鼻に掛かった女の声の主は、先程のお茶会の主催であるエルモアだ。
「王女殿下……。僕も貴女とこうして二人きりになりたかった。こうして貴女を抱きしめたかった――」
「嬉しい、ディクス様……。二人きりの時は、いつものようにわたしを呼んで?」
「はい、エルモア……。離婚は成立したので、漸く貴女と一緒になれますね」
「えぇ、ディクス……。これからはいつまでも一緒ですわ」
シェラルはそれを聞きながら口に両手を当て、喉から出ようとする声を必死に我慢した。
(え? え? 何……なに? やっぱりエルモア様があの人の“運命の人”なの? でも、あの人には他に“好きな人”がいるのよね……? 分からない……一体どういう事……?)
バクバクと響く心臓の大きな音が彼らに聞こえないかと恐れつつ混乱している間にも、二人は、
「エルモア、貴女の瞳はいつも宝石のように輝いて美しいです……。いえ、どの宝石も貴女のその瞳には敵わない……」
「あなたの瞳もキラキラしていて、まるで夜空を照らしながら満面に光るお星さまのようですわ……」
と、身体が異様にむず痒くなる台詞を言い合っている。
(きゃあぁっ! 止めて止めてっ、身体中にブツブツと鳥肌がぁっっ!)
シェラルは、両手で肌を搔き回したくなるのを必死に我慢した。
ディクスは普段シェラルにも、蜂蜜をたっぷり入れたミルクのような甘い台詞を言うが、第三者の立場から聞くとこんなに鳥肌が立つものだったとは思わなかった。
それを日常茶飯事として聞いていた屋敷の使用人達に、今すぐに土下座して謝りたい衝動に駆られる。
(――だけど、ちょっと待って……? この様子だと、エルモア様とは“運命の人”で相思相愛って事よね……? でも、あの人にはエルモア様の他に“好きな人”がいて……。しかも、私と一緒に住んで“結婚生活”をしている……。――ちょっとちょっと、それってもしかして――)
シェラルはそこで、“一つの考え”に辿り着いた。
(――そうよ! これって二股より更に酷い三股じゃないっ!? 実際にやってる人がいるなんて……っ! しかもこんな身近に!?)
ディクスを『三股している最低男』と認識した途端、シェラルの心の奥底から、沸々と怒りが湧き上がってきた。
「――嫌だわっ! 三股なんて本当に有り得ないっ! 信じられないっ! 不埒よ! 女の大敵よっ! 絶大なる悪の大魔王よっ! 絶対に許せないわっ!! 誰か聖剣持ってきてっ!! この色魔不埒大魔王を木っ端微塵の更に跡形も無く成敗してやるんだからっ!!」
ガバッと勢い良く立ち上がり、シェラルは拳を握りしめ盛大に叫んだ。
……そう、口に出して叫んでしまった。
「…………あっ」
「「……っ?」」
驚いた表情の二人と目が合う。
「「…………」」
まさかシェラルがいるとは思っていなかったディクスとエルモアは、抱き合ったまま目を見開いて固まっていた。
(……ああぁ……やっちゃったーー!!)
シェラルは今すぐ駆け出して、部屋から脱兎の如く逃げたい思いで一杯になったのだった……。
1,590
あなたにおすすめの小説
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
いいえ、望んでいません
わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」
結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。
だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。
なぜなら彼女は―――
【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
捨てられた令嬢と、選ばれなかった未来
鍛高譚
恋愛
「君とは釣り合わない。だから、僕は王女殿下を選ぶ」
婚約者アルバート・ロンズデールに冷たく告げられた瞬間、エミリア・ウィンスレットの人生は暗転した。
王都一の名門公爵令嬢として慎ましくも誠実に彼を支えてきたというのに、待っていたのは無慈悲な婚約破棄――しかも相手は王女クラリッサ。
アルバートと王女の華やかな婚約発表の裏で、エミリアは社交界から冷遇され、"捨てられた哀れな令嬢"と嘲笑される日々が始まる。
だが、彼女は決して屈しない。
「ならば、貴方たちが後悔するような未来を作るわ」
そう決意したエミリアは、ある人物から手を差し伸べられる。
――それは、冷静沈着にして王国の正統な後継者、皇太子アレクシス・フォルベルト。
彼は告げる。「私と共に来い。……君の聡明さと誇りが、この国には必要だ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる