24 / 47
24.大事な女
しおりを挟むアディに見送られながら馬車に乗ったセリュシオン達三人は、国境付近で降り、兵士達が駐在する場所へと向かった。
到着すると、今は魔物達の活動が止まり、全員駐在場所でそれぞれ休憩を取っているところだった。
セリュシオンの姿を捉えた兵士達は、一斉に立ち上がり一礼をする。
「セリュシオン様、お疲れッス!!」
「おぅ、お疲れ。どんな状況だ?」
「今は襲ってきた魔物達をあらかたやっつけて、残った魔物は一時退散をし、そのまま動きが止まっています。しかし、あの様子じゃまたすぐに来るでしょうね」
「分かった、それまで身体を休めていてくれ」
「了解ッス!」
「それと、お前らに伝えたいことがある」
セリュシオンは兵士達をグルリと見回し、よく通るバリトンの声を張り上げ言った。
「知っての通り、オレの中には強大な魔物がいる。その魔物はいつオレから飛び出してくるか分からねぇし、オレ自身が魔物になる可能性もある。それを抑えてくれるヤツを連れてきた。コイツがいれば、オレの中の魔物は大人しくしてるから安心して欲しい。そして、コイツはオレの“大事な女”だ。チョッカイ掛けたりコイツを侮辱するヤツはオレが心底許さねぇ。よーく覚えとけよ」
フレイシルの肩をグッと抱き寄せ、そう宣言したセリュシオンに、彼女はギョッとした顔ですぐ隣に立つ彼を見上げた。
そして心の中で叫んだ。
“大事な女”――って、ソレ思いっ切り誤解される言い方ではっ!?
案の定、兵士達からざわめきと戸惑いの空気が流れ始める。
「あ、あの……領主様。聖女様がその役目をされていたのではないのですか? 聖女様じゃなくて、えっと……そのお嬢さんが……?」
「あぁ。お前らには伝えるが、あの聖女は“ニセモノ”だ。一年間の“浄化”は全く意味がなかった。結果、オレは半分以上魔物化し、マジでヤバいところを“浄化”して元に戻してくれたのがコイツだ。オレを信じて付いてきてくれるお前らに、嘘はぜってぇに言わねぇよ」
「領主様……」
兵士達は顔を見合わせると、やがてコクリと頷いた。
「……分かりました。領主様を信じます」
「ありがとな。そんなお前らもオレが全員守ってやっからよ、大船に乗ったつもりでいてくれ」
「そんなこと言って、実は泥船でしたーとか言わないで下さいよ~?」
「はっ、バーカ、んなわけあるか。うるせっての」
兵士達の気さくな冗談に、太陽のような眩しい笑顔を浮かべるセリュシオンを、フレイシルは目を細めて見つめていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ここがお前とオレの天幕だ。基本はここで過ごしてくれ。駐在場所内なら自由に動いて構わないが、日中は外に見張りをつけておくから、天幕の外に出る時は必ずソイツと行動を共にしてくれ」
フレイシルは、セリュシオンが告げる注意事項に大きく頷いた。
「コイツが見張り兼護衛のシードだ。風の魔法が使えて、その魔法で、遠くにいる者にでも風に乗せて言葉を伝えることが出来る有能者だ。――シード、フレイシルを頼んだぞ。お前だから任すことが出来るんだ。少しでも何かあったらすぐにオレに知らせてくれ。フレイシルは喋れねぇが、ただそれだけだ。コイツと接すれば分かるが、何も問題ねぇよ」
「了解ッス! ありがたきお言葉ッス! 全力でフレイシルさんをお護りするッス!!」
「おぅ、頼んだぜ。――フレイシル、オレとカイは早速偵察に行ってくる。少しでも困ったことがあればシードに言え。すぐにオレにも伝わるから」
フレイシルは頷き、無事の祈りを込めて、セリュシオンの手を両手でギュッと握った。
彼がフッと笑い、フレイシルの身体を包み込むように抱きしめる。
「……行ってくる。イイコにしてなよ?」
セリュシオンは上半身を屈めるとフレイシルの耳元で低く囁き、彼女の頬に唇を寄せた。
「……っ!!」
頬を手で押さえ顔を真っ赤にさせたフレイシルに、セリュシオンは可笑しそうに笑い、手をヒラヒラと振って離れていった。
「……ほえぇー。セリュシオン様、ホントにフレイシルさんが好きなんスねー。あんなに優しい顔のセリュシオン様、初めて見たッスよー。人前でのハグやチューも、そんなコト絶ッ対にしない人なのに。聖女様と一緒にいる時は、ずーーっと不機嫌で仏頂面だったッスから」
「っ!?」
フレイシルはシードの言葉に、顔を赤くさせたまま首をブンブン横に振る。
「何を謙遜してるッスかー。あんなセリュシオン様を見たら、全員そう思うッスよ? ――けど、最初に言っとくッスね。ここにいる殆どの奴らは、フレイシルさんに不信感を持ってるッスよ。セリュシオン様はああ言ってたけど、それでも奴らは子供達の毒を次々に浄化している、“心優しき麗しき聖女様”の姿を信じてるッスからね。聖女様に心酔している奴だっているッスよ。そこへパッと出のフレイシルさんを信じろなんて無理な話ッス。いくらボク達が尊敬し信じるセリュシオン様がそう言ったとしても、ッス」
正直過ぎるシードの話に、フレイシルは思わず苦笑してしまった。
なるほど確かに、自分を見る他の兵士達の視線が冷たく感じる。けど、暴力を振るわれないだけ全然いい。
フレイシルは頷くと、手帖にサラサラと文字を書いてシードに見せた。
「へ? 『教えてくれてありがとう、シードさんは優しい人ですね』……って? はえぇ、そんなこと初めて言われた――じゃなくて、書かれたッス! いつもバカ正直過ぎる! って皆に怒られるッスから」
フレイシルは吹き出したように声なく笑うと、シードも草原色の頭を掻きつつ笑う。
彼女は再び手帖に書くと、シードに見せた。
「えっと、『怪我人の収容場所に連れて行って欲しいです』――ッスか? 女の子が行くにはあまり良い所じゃないッスよ……。気分悪くなるかもッス。それでも行くッスか?」
フレイシルは迷いなく頷くと、シードは
「うーーん……仕方ないッスね。セリュシオン様には、フレイシルさんの希望は極力叶えろって言われてるッスから」
と息をつき、「こっちッスよ」と収容場所に向かって歩き出したのだった。
1,494
あなたにおすすめの小説
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
〖完結〗時戻りしたので、運命を変えることにします。
藍川みいな
恋愛
愛するグレッグ様と結婚して、幸せな日々を過ごしていた。
ある日、カフェでお茶をしていると、暴走した馬車が突っ込んで来た。とっさに彼を庇った私は、視力を失ってしまう。
目が見えなくなってしまった私の目の前で、彼は使用人とキスを交わしていた。その使用人は、私の親友だった。
気付かれていないと思った二人の行為はエスカレートしていき、私の前で、私のベッドで愛し合うようになっていった。
それでもいつか、彼は戻って来てくれると信じて生きて来たのに、親友に毒を盛られて死んでしまう。
……と思ったら、なぜか事故に会う前に時が戻っていた。
絶対に同じ間違いはしない。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全四話で完結になります。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!
屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。
そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。
そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。
ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。
突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。
リクハルド様に似ても似つかない子供。
そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる