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24.大事な女
しおりを挟むアディに見送られながら馬車に乗ったセリュシオン達三人は、国境付近で降り、兵士達が駐在する場所へと向かった。
到着すると、今は魔物達の活動が止まり、全員駐在場所でそれぞれ休憩を取っているところだった。
セリュシオンの姿を捉えた兵士達は、一斉に立ち上がり一礼をする。
「セリュシオン様、お疲れッス!!」
「おぅ、お疲れ。どんな状況だ?」
「今は襲ってきた魔物達をあらかたやっつけて、残った魔物は一時退散をし、そのまま動きが止まっています。しかし、あの様子じゃまたすぐに来るでしょうね」
「分かった、それまで身体を休めていてくれ」
「了解ッス!」
「それと、お前らに伝えたいことがある」
セリュシオンは兵士達をグルリと見回し、よく通るバリトンの声を張り上げ言った。
「知っての通り、オレの中には強大な魔物がいる。その魔物はいつオレから飛び出してくるか分からねぇし、オレ自身が魔物になる可能性もある。それを抑えてくれるヤツを連れてきた。コイツがいれば、オレの中の魔物は大人しくしてるから安心して欲しい。そして、コイツはオレの“大事な女”だ。チョッカイ掛けたりコイツを侮辱するヤツはオレが心底許さねぇ。よーく覚えとけよ」
フレイシルの肩をグッと抱き寄せ、そう宣言したセリュシオンに、彼女はギョッとした顔ですぐ隣に立つ彼を見上げた。
そして心の中で叫んだ。
“大事な女”――って、ソレ思いっ切り誤解される言い方ではっ!?
案の定、兵士達からざわめきと戸惑いの空気が流れ始める。
「あ、あの……領主様。聖女様がその役目をされていたのではないのですか? 聖女様じゃなくて、えっと……そのお嬢さんが……?」
「あぁ。お前らには伝えるが、あの聖女は“ニセモノ”だ。一年間の“浄化”は全く意味がなかった。結果、オレは半分以上魔物化し、マジでヤバいところを“浄化”して元に戻してくれたのがコイツだ。オレを信じて付いてきてくれるお前らに、嘘はぜってぇに言わねぇよ」
「領主様……」
兵士達は顔を見合わせると、やがてコクリと頷いた。
「……分かりました。領主様を信じます」
「ありがとな。そんなお前らもオレが全員守ってやっからよ、大船に乗ったつもりでいてくれ」
「そんなこと言って、実は泥船でしたーとか言わないで下さいよ~?」
「はっ、バーカ、んなわけあるか。うるせっての」
兵士達の気さくな冗談に、太陽のような眩しい笑顔を浮かべるセリュシオンを、フレイシルは目を細めて見つめていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ここがお前とオレの天幕だ。基本はここで過ごしてくれ。駐在場所内なら自由に動いて構わないが、日中は外に見張りをつけておくから、天幕の外に出る時は必ずソイツと行動を共にしてくれ」
フレイシルは、セリュシオンが告げる注意事項に大きく頷いた。
「コイツが見張り兼護衛のシードだ。風の魔法が使えて、その魔法で、遠くにいる者にでも風に乗せて言葉を伝えることが出来る有能者だ。――シード、フレイシルを頼んだぞ。お前だから任すことが出来るんだ。少しでも何かあったらすぐにオレに知らせてくれ。フレイシルは喋れねぇが、ただそれだけだ。コイツと接すれば分かるが、何も問題ねぇよ」
「了解ッス! ありがたきお言葉ッス! 全力でフレイシルさんをお護りするッス!!」
「おぅ、頼んだぜ。――フレイシル、オレとカイは早速偵察に行ってくる。少しでも困ったことがあればシードに言え。すぐにオレにも伝わるから」
フレイシルは頷き、無事の祈りを込めて、セリュシオンの手を両手でギュッと握った。
彼がフッと笑い、フレイシルの身体を包み込むように抱きしめる。
「……行ってくる。イイコにしてなよ?」
セリュシオンは上半身を屈めるとフレイシルの耳元で低く囁き、彼女の頬に唇を寄せた。
「……っ!!」
頬を手で押さえ顔を真っ赤にさせたフレイシルに、セリュシオンは可笑しそうに笑い、手をヒラヒラと振って離れていった。
「……ほえぇー。セリュシオン様、ホントにフレイシルさんが好きなんスねー。あんなに優しい顔のセリュシオン様、初めて見たッスよー。人前でのハグやチューも、そんなコト絶ッ対にしない人なのに。聖女様と一緒にいる時は、ずーーっと不機嫌で仏頂面だったッスから」
「っ!?」
フレイシルはシードの言葉に、顔を赤くさせたまま首をブンブン横に振る。
「何を謙遜してるッスかー。あんなセリュシオン様を見たら、全員そう思うッスよ? ――けど、最初に言っとくッスね。ここにいる殆どの奴らは、フレイシルさんに不信感を持ってるッスよ。セリュシオン様はああ言ってたけど、それでも奴らは子供達の毒を次々に浄化している、“心優しき麗しき聖女様”の姿を信じてるッスからね。聖女様に心酔している奴だっているッスよ。そこへパッと出のフレイシルさんを信じろなんて無理な話ッス。いくらボク達が尊敬し信じるセリュシオン様がそう言ったとしても、ッス」
正直過ぎるシードの話に、フレイシルは思わず苦笑してしまった。
なるほど確かに、自分を見る他の兵士達の視線が冷たく感じる。けど、暴力を振るわれないだけ全然いい。
フレイシルは頷くと、手帖にサラサラと文字を書いてシードに見せた。
「へ? 『教えてくれてありがとう、シードさんは優しい人ですね』……って? はえぇ、そんなこと初めて言われた――じゃなくて、書かれたッス! いつもバカ正直過ぎる! って皆に怒られるッスから」
フレイシルは吹き出したように声なく笑うと、シードも草原色の頭を掻きつつ笑う。
彼女は再び手帖に書くと、シードに見せた。
「えっと、『怪我人の収容場所に連れて行って欲しいです』――ッスか? 女の子が行くにはあまり良い所じゃないッスよ……。気分悪くなるかもッス。それでも行くッスか?」
フレイシルは迷いなく頷くと、シードは
「うーーん……仕方ないッスね。セリュシオン様には、フレイシルさんの希望は極力叶えろって言われてるッスから」
と息をつき、「こっちッスよ」と収容場所に向かって歩き出したのだった。
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