私、自立します! 聖女様とお幸せに ―薄倖の沈黙娘は悪魔辺境伯に溺愛される―

望月 或

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26.あなたの苦しみを私に下さい

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「お前、『浄化魔法』と料理で兵士達全員の心と胃袋を掴んだんだって? アイツらが口々に言ってたぜ。『あの聖女様を連れてきてくれてありがとうございます!』、『彼女は正真正銘の「聖女」です! 一生ついていきます!』、ってさ。たったの一日でだぜ? すげーなぁお前」


 夜、二人きりの天幕の中にて。

 楽な格好に着替えながら、セリュシオンは簡易布団の上にちょこんと正座で座るフレイシルにそう言った。

 ちなみに夜は、魔物も夜目が効かないらしく活動がほぼなくなるので、少数の見張りを交代制で配置している。

 焦りながら手と頭を横に振る彼女にセリュシオンは笑うと、布団の上に寝転び、間も置かず彼女を引っ張り腕の中に閉じ込めた。


「晩飯、すげー美味かったぜ。ごちそーさん。お前、いい嫁さんになれるぞ」


 フレイシルの耳元で囁くように言い、セリュシオンが赤くなった彼女の首筋に唇を寄せ、啄むように幾つも口付けをする。
 フレイシルは、擽ったさに身悶えながら思った。


 あれ? 止めて欲しいって言ったのにまたしてる! どうしてっ?


「きっとお前なら、毒に掛かったヤツを自ら治しに行くだろうなとは思ってたけど、まさか今日のうちに全員治すとは思ってもみなかったぜ……。ホント、お前の魔力量半端ねぇな……」


 ちなみに、魔物から受けた毒を『浄化魔法』以外で治す方法は飲み薬と塗り薬があるのだが、高価な上に完治に時間が掛かり、毒が深いと効果が薄くなるという、色々と不都合な点が多いものなのだ。

 一方『浄化魔法』は、毒が深ければ深いほど魔力を消費するがすぐに治療出来るので、それを使うことが出来る『聖女』は、国民達から崇拝され尊敬の念を向けられていた。


「アイツらには、お前が『浄化魔法』を使えるってこと、ぜってぇ他言無用にしろって伝えとくな。お前もその方がいいだろ? 目立ちたくねぇもんな?」


 フレイシルはそれに、大きく頷いた。


「お前のことを説明しなきゃいけなかったとは言え、勝手にアイツらに言って悪かったな」


 フレイシルはセリュシオンの謝罪に、今度は大きく横に首を振る。

 セリュシオンは小さく笑うと、フレイシルのネグリジェの肩部分を少しはだけさせ、その肩にもキスをした。
 チクリ、と一瞬痛みが走り、フレイシルは怪訝に首を傾げる。
 セリュシオンの唇はそのまま鎖骨に向かったけれど、時々痛みを伴い、何をされているのか分からないフレイシルは、彼の手をギュッと握りしめた。


「ん? あぁ、アイツらに嫉妬したから痕付けてんの。コイツはオレのモンだってシルシ。ま、見えないとこに付けるから安心しろよ」
「っ!?」
「アイツらと仲良くなるのは勿論いいことだけどな、これ以上仲良くなり過ぎんじゃねぇぞ。オレが嫉妬で狂ってお前に――っと、これは流石に口に出して言えねぇな……」


 何するのっ!?


 ……とは訊いたらいけない気がして、鎖骨にも痕を付けているセリュシオンを、チクチクする痛みに耐えながら見ていたフレイシルだった……。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 セリュシオン達が国境近くに来てから五日が経った。
 魔物達の攻撃は勢いが衰えるどころか、日に日に増していった。

 いつの間にか料理当番はフレイシルになり、通常の当番である兵士に手伝って貰いながら、精の出る料理を作っているけれど、連日の魔物達の激しい襲撃に、やはり皆疲れは取れないようで……。


「フレイシルちゃんの料理がなかったら、既に戦線離脱してたよ俺……」
「ホントだよ……。フレイシルさんの料理がここでの一番のやる気の元だな。しかし魔物の数が減るどころか増してるってどういうことだよ?」
「セリュシオン様とカイ様がいなかったら、確実に僕達やられているよな……。明日もまた増えてたら、もう堪ったもんじゃないよ……。流石に気力が……」


 夕ご飯後、兵士達の愚痴と不安な声が聞こえ、心配そうにフレイシルがそちらを見ていると、シードが彼女のもとにやってきた。


「そろそろ天幕に戻るッスよ。――あぁ、アイツらの話を聞いてたんスか。きっと魔物達は、セリュシオン様の中にいる魔物の『頭領』を取り戻そうと必死なんじゃないスかね?」
「っ!!」
「魔物の中で一番強い『頭領』が戻れば、今よりずっと人間界を攻め易くなるッスからね。そんなこと、ボク達が絶対にさせないッス。けどこの状況がずっと続くと結構ヤバいッスかも」
「…………」


 天幕に着き、手を振ってシードと別れる。夜はセリュシオンが一緒の為、朝まで見張り兼護衛の任務は解除されるのだ。
 フレイシルは天幕に入ると、布団の上に正座になって思考する。



 このままだと、兵士達の士気が下がり続け、怪我人が続出してくるだろう。最悪死亡者も――
 そんなことにはなって欲しくない。この数日間で、ここの人達も、自分にとって大切な人達になったから。

 魔物の勢いが止まらない原因が、辺境伯の中の魔物なら、その元凶をどうにかするしかない。


 ――方法は、“一つだけ”ある。
 けれどこの方法は、間違いなく絶対に辺境伯に反対される。
 相談してしまったら、彼は反対した上に警戒してしまい、この方法はもう二度と出来なくなってしまうだろう。



 だから、彼に内緒で“実行”に移さなければ――



 その時、疲労した表情のセリュシオンが天幕の中に入ってきた。


「フレイシル、今日も美味い飯ありがとな……」


 上着を脱ぎながらセリュシオンは言うと、すぐに布団の方に来て寝転ぶと同時に、フレイシルの手を取り抱きしめる。
 彼女の顔に何度か口付けを落とした後、首筋に顔を埋め、そのまま気絶するように眠ってしまった。

 昨日も一昨日もそうだったのだ。朝早くから夜遅くまで魔物と応戦し、グッタリとしながらフレイシルを抱きしめ、すぐに眠りの世界に入る。
 彼女を自分の腕の中に閉じ込めるのを忘れないのは流石というべきか。


「…………」


 フレイシルは、セリュシオンが深い眠りに入っていることを確認すると、ゆっくりと、気付かれないように彼の腕から離れた。
 そして上半身を起こすと、彼の方を向きちょこんと正座をする。


 ――“浄化”には、二つの方法があるのだ。

 一つは、『治療』して浄化する方法。
 これは先にも伝えた通り、深い毒になればなるほど魔力を多く使用するが、すぐに治すことが出来る。

 もう一つは、『吸収』して浄化する方法。
 相手の体内にある有害な毒を自分の体内に吸収し、そこで浄化を試みるのだ。
 魔力をあまり使わないし、吸収するので相手の毒は完全に消えるが、代わりに自分に危険が伴うので、あまり使われない方法だ。


 この『吸収』を、辺境伯の中にいる魔物に使えば――
 魔物は存在自体が有害な毒みたいなものだし、きっと上手くいくだろう……。


 フレイシルは両手をセリュシオンにかざし、瞳を閉じ集中する。
 彼の身体の中心に、ドス黒い大きなもやがある――

 フレイシルはそれに狙いを定め、『吸収』を試みた。
 気持ち悪い、吐き気を催すほどの邪悪な気配が自分の中に入ってきたのを感じた。


「……っ!!」


 途端、激痛と苦しみがフレイシルの身体を支配する。


 このとんでもない辛さと、辺境伯はずっと戦ってきたんだ……。


 フレイシルは痛みと苦しみに何とか耐え、脂汗を流しふらつきながらも、そろそろと天幕を出て行った。




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