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125.待ち望んだ瞬間
「とっ、父さんっっ!?」
私は慌ててイシュリーズさんの腕から抜け出すと、膨大な黒い炎を身に纏っている父さんの背後からお腹に両腕を回して、グッと抑えつけました。
うわっ、怒りの所為か身体がめちゃくちゃ熱い!?
「だっ、ダメだよ殺しちゃあ!? この人にはちゃんと罰を受けてもらわなきゃいけないんだからっ!」
「離せ柚月っ!! このオレに無断でお前の腰を触ってイヤらしい目つきで見てたのもめっちゃくちゃ気に食わねぇし、コイツには個人的な恨みもあるから、もうボッコボコのバッキバキのグッチャグチャに――」
「ヒィッ! 何その擬音の数々!? それ絶対死んじゃうヤツーー!!」
「――や、【闇堕ち】っ!? 何故だ、討伐されたはずじゃ……っ!?」
灰城戒が、頬を殴られて赤く大きく腫れているのにも、私達のやり取りにも意に介さず、驚愕の顔で父さんを見ています。住民の皆さんも、黒髪の父さんの登場でどよめきが大きくなっていました。
父さんは一つ大きな息を吐くと、背後にいた私の肩を抱いて口を開きます。
「――そうだな、【闇堕ち】のオレは倒されたよ。今ここにいるのは、元《雷の聖騎士》のシデン・ライジンだ。髪と目の色は戻らなかったけどな。お前にはオレ達家族の人生を狂わされ、今すぐにでもメチャクチャにブチ殺してぇ気持ちで一杯だが、娘はお前に罪を償うことを望んでいるらしい。オレは娘の意思を尊重する。殺されなかったのをありがたく思えよ」
「……娘、だと……? 君がこの男の娘!? ちょっと待て、二十年前のあの時死んだはずでは……。それに、さっきと随分印象が違う……。髪の長さも違うし、どこかで見た気が――」
――あっ、しまった! 《雷の聖騎士》は解除していないけど、“お姐サマモード”がいつの間にか解除されてた!
さっきの父さん暴れ騒動で集中力が途切れた所為だ!
もう、父さんのバカ! どこまで誤魔化せるかな……。
「……先程の私は《聖女》が降臨した姿の私で、こちらが素の私です。灰城戒さん、あなたは《勇者》という立場なのに、殺人、そして魔物を使って殺人幇助をしました。四つの国の王の許可に則り、あなたに刑を下します」
「……ふん、好きなようにすればいいさ。けど失態を犯しても、僕が唯一の《勇者》である事は一生変わらないからな。《勇者》が牢獄の中にずっといるって、王国での体裁が悪いんじゃないかぁ? 『《勇者》を牢屋に入れるなんて』って、他国では非難されるかもなぁ? この国にはいられなくなっても、他国で暮せばいい。何せ“この世界”の《勇者》だからなぁ、僕は」
ニヤニヤしながらそう切り返す灰城戒に、私はニッコリと笑顔で応戦しました。
「えぇ、そうですね。なので、あなたの《勇者》の肩書きを剥奪し、代わりに新しい《勇者》を召喚します。あなたにはここではない、別の場所に行ってもらいます」
「……はあぁっ!?」
私の発言に、灰城戒は思いっきり素っ頓狂な声を上げました。
「何言ってんだ!? そんな事出来るわけが――」
「出来るんですよ、《勇者》交代が。ただ、これも四つの国の王の許可が必要となるのですが、あなたの罰の許可と一緒に既に書いて頂いています」
私は懐に隠してあった別の四枚の書類を取り出し、金印が分かるように灰城戒にしっかりと見せつけます。
「《勇者》交代に際し、重要な条件である神の許可は、私が事前にもらっています。そしてもう一つ、《勇者》交代の際は神ではなく、私達の方で異世界に住む《勇者》を選出し、その者で良いか四つの国の王と神に許可を得なくてはいけないのですが、これも滞りなく終わっています」
「なっ……?」
神様には、あの“夢の中”で全て許可をもらっているからね。
《勇者》交代の方法は、神様から教えてもらいました。
こちらの世界で、接点も何もない異世界に住む《勇者》を選ぶなんて不可能に近いし、神様と国王達に色々と許可をもらわなきゃいけないから結構面倒で……。
だから《勇者》交代という方法があっても全く使われず、こちらも情報が風化していって、誰もその方法を知らなかったのでしょう。
「あとは、召喚士が召喚術を使えば、あなたは別の場所に飛び、代わりにこの世界に新しい《勇者》が召喚されます」
私はそう灰城戒に伝え終わると、呆然と口をまん丸く開けて突っ立っている召喚士さんへと足を向けました。
「――召喚術、やって頂けますか?」
「あっ……。でも、でもぼくは、あなた達にとてもひどいことを――」
固く目を閉じてホロホロと涙を流す召喚士さんの頭に、ポンッと大きな手が乗せられました。
私の後に続いてやってきた父さんが、召喚士さんの頭をグリグリッと撫でます。
「お前は脅されて魔物を召喚したんだ。しかも大切な両親を人質にされてたんだろ? お前は何も悪くねぇよ。逆にこれまで大変だったな……。オレ達家族は誰もお前を恨まない。なっ、柚月」
「うん、もちろん! あなたが罪を背負うことはないですよ。罪と言うなら、あなたは長い間、今まで沢山苦しんできました。もう、十分罰は受けています。これからは何も気にせず、自分の思うがままに生きて欲しいことが、私からの願いです。ご両親といつまでも仲良くね?」
「……うっ、は、はい……! あっ、ありがと……う、ありがとう……う、うぅっ」
父さんと私の言葉に、再び彼の目からブワッと涙が溢れ出してきます。
「それにね、新しく召喚される《勇者》は――」
私が召喚士さんにコソッと耳打ちすると、彼は泣きながらパッと笑顔になりました。
「……っ! 全身全霊捧げる気持ちでやらせて頂きますっ!! 必ず、絶対に成功させますからっ!!」
そして、召喚士さんは涙を拭いてキッと真剣な表情を作ると目を閉じ、両腕を広げて何やら呪文を唱え始めました。
すると、各国の王に書いてもらった《勇者》交代の許可の書類が光り出して次々と合わさっていき――何かの文字がビッシリ書かれた一枚の紙になりました。
召喚士さんは、空中に浮かぶその紙に書かれている呪文を淀みなく唱えていきます。
「やっ、止めろ止めろ止めろッ!! 僕はまだここで《勇者》をやるんだッ!! 豪遊と栄華を続けるんだあぁッッ!!」
私は、ギャーギャーと喚いて地面を転がっている灰城戒を静かに見下ろすと、祈るように呟きます。
「今から行く場所で、皆をたくさん……たくさん苦しめた分、精一杯罪を償って下さい。さようなら、灰城戒さん――」
召喚士さんから少し離れた場所と灰城戒の真下に、ブゥン、と光る魔法陣が表れ、それは段々と輝きながら眩しくなっていき――
青白い光がパァッと辺りを包み込み、それが次第に消えていくと、灰城戒の姿はどこにもいなくなっていました。
そして――
「あら、ここは……?」
聞き覚えのある声に、私はバッと勢い良く振り返ります。
「……柚月? あらあら、ふふっ。お久しぶりね。元気そうで安心したわ。あの時は声しか聞こえなかったんだもの。――あら、髪の色と瞳が金色ね。それにその斧……。お父さんの跡を継いだのかしら? よく似合ってるわよ」
母さんが魔法陣の真ん中に座り込んで、こちらを見て優しく微笑んでいました――
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