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1.押し付けられた縁談
しおりを挟む――いつか。
あの、大空を飛べたなら。
雲より高く、飛べたなら。
私は、どんな気持ちになるだろう?
開放感? 爽快感? ……“自由”になれる、嬉しさ?
――行けたら……飛べたら、いいな。
何のしがらみも束縛もない、“自由”な大空へ――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「イヤよっ! あたし、大好きな人がいるんだもの! その人と結婚するの! お父様の言う何たらって人と絶対に結婚なんてしないわっ!」
――また、出た……。
私は、頬を膨らませてプイッと横を向く妹を見ながら、小さく息をついた。
私の名前は、フィンリー・ウィンザル。二十三歳で、ウィンザル男爵家の長女だ。
ブラウン色の肩まで伸びた髪と瞳をした、極々平凡な貴族の娘だ。
そして、目の前でワガママを言って両親を困らせている二歳年下の妹は、プリヴィ・ウィンザル。
ピンクブラウン色のウェーブの入った長い髪と瞳の色で、誰が見ても可愛いと感じる容姿をしている。
私は、昔からこの妹に何でも奪われてきた。
母のお古だけど、お気に入りだった人形やぬいぐるみ。
友達から貰った、大切な飾り物や装飾品。
――私の好きだった人さえも……。
妹が悪いことをすると嗜めるのだけれど、途中で必ず泣いて両親を呼び、私は二人に叱られるのだ。
「お姉ちゃんなんだから我慢しなさい」
「お姉ちゃんなんだから妹に譲りなさい」
「お姉ちゃんなんだから妹に優しくしなさい」
……そればかりを繰り返して。
父と母は、妹にとにかく甘かった。
愛嬌のある顔の妹に、平凡な顔の私。どちらを可愛がるかと言えば、それは明らかなことだった。
そういうことが毎回続き、その度に両親に一方的に怒られて責められることが次第に辛くなり、やがて諦めてしまい、何も言わなくなった。
両親は私の肩を持つことは今まで一度だってなかった。いつも妹の言うことを聞き、いつも妹の味方だった。
私の『居場所』は、この家には無くなってしまっていた――
「で、でもな、プリヴィ。ルバロ子爵家当主自らの希望なんだよ。きっと可愛いお前に一目惚れして指名して下さったんだ。ルバロ子爵家と縁を持つことは、我が家にとって、とても利益になるんだ。だから――」
「イヤったらイヤッ! あたしは運命的に出会って一目惚れした大好きな人と結婚するの!! ――あぁ、だったらお姉ちゃんに嫁がせたらぁ? お姉ちゃんの容姿じゃこの先売れ残るのは分かってるんだしぃ、これがいい機会なんじゃない?」
意地悪な笑みを私に向け、プリヴィは言った。
「……あぁ、確かにそうだな……そうするか。先方には、『プリヴィは先に良縁が出来た』と伝えておこう。――フィンリー、そういうことだから、お前がプリヴィの代わりにルバロ子爵家に嫁ぐんだ。分かったな?」
「…………」
――ほら、また。
私の意見なんて、全く聞こうともしないんだ。
いつも『いいえ』が許されず、『はい』の選択肢しかないんだ……。
「アナタの為なのよ、フィンリー。良かったじゃない、行き遅れにならなくて。――ちょっと、何黙ってるのよ! 返事は?」
母がそうキツい口調で急かしてくる。
………………。
――それで、いいかもしれない。
この家から出られるのなら。
妹ばかりが可愛がられる事実が、昔からとても辛かった。
家や両親の手伝いを積極的に行っても、お礼も褒めることも何もなくて。
買って貰ったドレスを着てお披露目する遊んでばかりの妹に、表情をだらしなく緩ませ、沢山の賛美の声を掛け続ける両親。
……私のドレスは、いつも母のお古だった……。
妹だけでなく、私も見て欲しかった。両親から愛情を向けられたかった。
「愛している」と抱きしめて欲しかった。
私も二人の娘なのに。
ほんの少しでも気に掛けて欲しかったのに……。
でもそれは、妹がこの家にいる限りは期待出来ないだろう。
『居場所』がない私は、ルバロ子爵家に嫁いで、新たな『居場所』を見つけるのもいいかもしれない……。
もう、私を蔑ろにするこの家にはいたくない――
「……分かりました」
私が頷くと、両親はホッとしたような顔になり、妹は当たり前だという風に鼻で嗤った――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
数日後、町で妹と腕を組む長身の男性の姿を見掛けるようになった。
その男性は、腰まで真っ直ぐに伸びた艷やかな黒髪を持ち、黒曜石のような神秘的な瞳をしていて、妹が一目惚れするのも分かるくらい、見惚れるほどの美形だった。
いつも眉間に皺を寄せ気難しい顔をしているけれど、彼に向かって笑顔で喋り続ける妹の、絡めた両腕を全く振り払わないところを見ると、ただ単に照れているだけなのかもしれない。
――好きな人と恋愛結婚か……。貴族に生まれた女にとって、それが出来たらどんなに素敵なことだろう……。
けれど、妹はそれが出来る立場にある。両親のお蔭で。
その尻拭いをさせられるのは、いつも私だ。
腕と腕をくっつけ男性と寄り添い合う妹を遠くでぼんやりと見つめながら、私は知らずに深い溜め息をついていた……。
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