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28.最悪のバッタリ
しおりを挟む今日はレクサールさんが外せない用があって一日出掛けるというので、私はお城でお留守番だ。
「アッシュルドを俺の部屋の前で待機させるから、君は必要な時以外部屋から出ないでくれ。兄上が何をしてくるか分からないからな」
「えっ? アッシュルドさん、廊下でずっと立ちっ放しですか? それは申し訳ないです……。私と一緒にお部屋にいるのは駄目なんですか?」
「…………」
「フィ……フィンリー様っ! わっ、私は大丈夫ですからっ! レクサール王子の顔をご覧下さい! 『二人きりになったら殺す近付いても殺す』という表情をしていますよ確実に! 殺されるより立ちっ放しの方が格段にいいです! どうか立ちっ放しにさせて下さい!!」
「え、えぇ……?」
「…………」
「――こ、これ以上睨まれる前に、私は部屋の前に立っていますから! 何かあれば呼んで下さいね!」
「あっ、アッシュルドさんっ!?」
出掛ける前にそんなやり取りがあって、私は一人、レクサールさんの部屋で黙々と作業をしていた。
そして、筆記具をテーブルに置きキョロキョロする。
「……部屋から出るなと言われても……」
……お手洗いには行きたくなるんだよね……だって人間だもの……。
私はそっと扉を開けると、姿勢良く立っているアッシュルドさんに声を掛けた。
「アッシュルドさん、すみません……。少しお手洗いに行ってきてもよろしいですか?」
「はい、勿論いいですよ。念の為に付いていきますね。少し離れてですが」
「えっ!? いえいえ大丈夫です! すぐに戻ってきますから! 本当にっ! はいっ!」
お手洗いを待っていられるのは女として恥ずかしい……っ!
「……ふむ、そこまで仰るのなら……。何かあったらすぐに大声で呼んで下さいね?」
「はい、分かりました。行ってきます」
私は早足でお手洗い場に向かい、用を済ませる。
そして急いで戻ろうとお手洗い場を出たところで、誰かにぶつかってしまった。
「ごっ、ごめんなさい! 前を見てなくて――」
慌てて謝り、ぶつかった相手を見上げ――私の身体が石化したようにピシリと固まった。
「ん……? アンタは……アイツの“番”じゃねぇか」
全然大丈夫じゃなかったーーっ!!
よりによって元凶出たーーーっ!!
「……こ、こここんにちは、お兄さん」
「あぁ? オレはアンタの兄貴じゃねぇよ。ガーロッドって名がある」
「あっ……はい、すみませんガーロッドさん……。あ……えっと、私はフィンリーと申します。どうぞよろしくお願いします……それでは失礼します」
自己紹介をして早々に退散しようと、クルリと踵を返し歩き出そうとしたら、肩を大きな手でガシッと掴まれ引き止められる。
「なぁ……おい待てよ、もう行っちまうのか? はっ、つれねぇなぁ? 折角だし、ちょいとお話しようぜ? なぁ、弟の“番”サンよ?」
ヒェッ! 言い方! 言い方が怖過ぎる……っ!
兄弟で何でそんなに喋り方が違うの……っ。
しかも貴方、王子様ですよね? そんなゴロツキのような喋り方する王子様なんて聞いたことがありせん!
それにお話って何ですか?
「どうしてそんなにレクサールさんを殺したいのですか」
って、伺ってもいいんですか?
訊いた瞬間殺されそうなんですが……っ!
「な、なな何でしょうか……?」
「アンタ、アイツの弱点って知ってるか?」
「え、弱点……?」
何だろう、レクサールさんの弱点って?
いつも穏やかで落ち着いているから、無敵な印象はあるけど……。
「チッ、知らねぇか。一つは分かってんだよ。アンタだってことが」
「え……」
私がレクサールさんの弱点?
「アンタ一人だし、今が絶好の機会なのも分かってんだよ。けどさ、人質取るなんて卑怯なマネしたくねぇじゃん? 殺るなら面と向かって堂々としねぇとさ」
あ、意外に真面目な人だった。
今の雰囲気なら、あのことを訊けるかも……!
「あ、あの。どうしてそんなにレクサールさんを殺したいのですか? 実の弟なのに……」
恐る恐る尋ねると、ガーロッドさんの切れ長の瞳がギロリとこちらを向いた。
ヒェッ! やっぱり訊かなきゃ良かった……?
「そんなの決まってんだろ。お袋の仇だよ。アイツを産んで代わりに死んじまってさ。お袋、さぞ悔しかったに違いねぇんだ。親父ともすっげぇ仲良かったし、若かったし、まだ生きたかったに違いねぇ。それをアイツが……。オレが無念のお袋の代わりにアイツを殺す。そう心に固く決めたんだよ」
「…………」
……黄金色に輝く瞳から、断固たる強い意志を感じる……。
そんなの、レクサールさんは何も悪くないのに……。
けれど、私が何を言ったって彼の心に響かず、レクサールさんを殺すのを止めないだろう。
彼の“番”なら止められるかもしれない。でも、彼にはまだ“番”がいない……。
……お母様の“本当の気持ち”が分かれば、もしかしたら彼の頑なな心が溶けるかもしれないのに……。
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