イージスの盾

櫃間 武士

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第4章「ジョニー、娘と添い寝する」

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「ハッ!夢だったのか!」

 ベッドの上で俺は飛び起きた。

 びっしょりと寝汗をかいている。

 時計を見ると、もう昼過ぎだ。

 眠ったのが早朝だったので、まだ寝足りなかった。

「おはようございます。パパ」

 セラベラムがあどけない姿でベッドの上で横になっている。

 俺は無言で大きく背伸びをすると、ベッドから降りた。

「さあて、腹ごしらえでもするかな」

 俺はマグカップにインスタントコーヒーの粉末と水を入れ、そのまま電子レンジで温めた。

「お湯ぐらい沸かせばいいのに……」

 俺は冷蔵庫から卵とハムを取り出し、フライパンでハムエッグを作り始めた。

「タンパク質はいっぱい取ってくださいね。私達の増殖には必要不可欠ですから」

 俺はトースターに食パンを放り込んで、タイマーのスイッチを回した。

「どうして返事してくれないのですか?」

 セラベラムが下から俺の顔を覗き込んで聞いてきた。

 俺は無視して、食事の準備を続けた。

「何か怒っているのですか?」

 俺はテーブルにつき、焼きあがったトーストにバターを塗った。

「――――私が見えないふりして、すべてなかったことにしようとしても無駄ですよ!」

「うるせぇな!」

 図星を指され、俺は顔を真っ赤にしてテーブルを拳で叩いた。

「勝手に俺の身体の中に入って住み着きやがって!おめぇは、台所に住み着いたゴキブリが話しかけてきたら、仲良く暮らすのか!?」

「ひどいです!私をゴキブリ扱いするなんて!」

 セラベラムの大きな瞳が悲しそうにしぼみ、涙ぐみそうになり唇を噛みしめている。

 俺の同情を買おうとして、泣き顔まで覚えたか。

 俺は少々罪悪感を覚えたが、こいつらは宇宙から来たウィルスだ、同情する必要はないと自分に言い聞かせた。

「今だって私、パパが死なないように一生懸命頑張っているのですよ」

「何のこった……?」

 俺はトーストにかぶりつきながら横柄に尋ねた。

「そのパン、毒が入れられています」

 俺はプッと口の中のトーストを吐き出した。

「大丈夫ですよ。パパの消化管粘膜は栄養素だけを吸収し、有害な物資はそのまま排出しますから。人間の身体は、位相幾何学的トポロジーには口から肛門までつながったただの一本の管です。この管の表面を私達が覆って、パパをしっかり守っています」

 セラベラムは誇らしげに、かつ少し恩着せがましく能書きを垂れた。

「誰の仕業だ!?いや。決まってる。フィフス・ストリートだな」

「昨夜、パパが留守中に仕掛けたのでしょうね」

「他に何か仕掛けられていねぇのか!?」

「どうでしょうかねぇ……。私、ゴキブリみたいな物ですし、パパのお役に立てるかしら?」

 セラベラムが小悪魔の表情を作り、嬉しそうに首を傾げた。

 こいつ、ウィルスの分際で、宿主を手玉にとるつもりだな。

「テレビの中にカメラが仕掛けられていて、この部屋が盗撮されています。パパが死ぬところを撮影したかったのでしょうね」

「フン!」

 俺は手の甲をテレビに向けて、中指を立ててファックサイン見せつけてやった。

「また!そうやって敵を煽るようなことをする!」

 セラベラムは、母親が子供たしなめる様な口調で俺を叱った。

「本当に止めていただけませんか。これ以上、敵を増やさないでください。パパは『イージスの盾』なんて恰好つけてますが、守る方の身にもなって下さい」

「ここまで来たら、俺が殺されるか、俺がフィフス・ストリートを倒すかのどちらかひとつだ」

「そんなこと言っていないで、国外に逃げたらいかがでしょうか?日本なんかどうですか?アニメ、お好きなのでしょ。マリーさんとよりを戻して一緒に旅行に行きましょう。お金なら、私が銀行のネットワークを操作して、いくらでもご用達いたします」

 なかなか魅力的な提案で、俺の心がぐらつかなかったと言えば嘘になる。

 いやいや!こいつ、天使の恰好をしているが、悪魔のささやきだ。

「これからフィフス・ストリートのアジトに殴り込みをかける!死にたくないヤツは逃げろ!いいな!これが最後の忠告だぜ!」

 俺はテレビに向かって金属バットを突きつけた。

「フィフス・ストリートをぶっ潰す!!」

 俺はフィフス・ストリートに宣戦布告をした。

 セラベラムはやれやれと言う表情で首を左右に振った。

 と、セラベラムが頭をテレビの中に突っ込んだ。

「何をしてるんだ、お前?」

「テレビの中にプラスチック爆弾が仕掛けられています。毒殺に失敗したのでスイッチを入れたようですね。あと、1分で爆発します」

「それぐらい、止めろよ」

「時限装置がデジタルではなくアナログですから、私には無理です」

「どれぐらいの大きさなんだ?」

「爆発したらパパは無傷でしょうが、このフロアーの他の住民はほぼ全滅でしょうね」

 さらっと恐ろしいことを言うヤツだ。
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