REMAKE~わたしはマンガの神様~

櫃間 武士

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ぼくはマンガ家 その2

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「――――手塚治虫は15万頁を何年ぐらいで描いたのかな?」

「えーと、デビューが1946年1月1日で、亡くなったのが1989年2月9日ですから……、43年かしら?」

「へ、へぇ………!」

 雅人は平静を装いながら頭の中で暗算をしていた。

(43年間、1日も休まず毎日10枚描かないと15万頁にならないぞ!?よくわからんが、漫画ってそんなに簡単に描けるものなのか?)

「アニメの数はちょっとわからないですね。60ぐらいかしら?」

「漫画映画を60本も!?」

「いえ!本数じゃないですよ。作品数です」

「ろ、60作品!?」

「安心してください。自主制作の短編も含めた数です。ママがそんなアニメを観ているわけないですから除外できます。本当はわたしは非営利目的の実験アニメの方が好きなんですがね。『ある街角の物語』、『展覧会の絵』、『ジャンピング』、『おんぼろフィルム』、『森の伝説』。どれも名作揃いでタイトルを口にするだけでワクワクしてきますね。でもママが観たのはきっと普通のテレビアニメだと思いますよ」

「テレビアニメとはどういう意味だ?」

「手塚先生は日本で初めて1話30分のテレビアニメを作って毎週放映しました」

「30分のアニメを毎週放映するだと!?」

「はい。手塚先生が存命中に作った30分枠の連続テレビアニメは『鉄腕アトム』、『ワンダースリー』、『ジャングル大帝』、『悟空の大冒険』、『リボンの騎士』、『どろろ』、『ふしぎなメルモ』、『海のトリトン』、『ワンサくん』、『ミクロイドS』、『ジェッターマルス』、『ドン・ドラキュラ』、『青いブリンク』の13作です。これは外せませんね」

「――――『鉄腕アトム』は全部で何話作ったんだ?」

「えーと、日本初のテレビアニメ『鉄腕アトム』は1963年1月1日から1966年12月31日まで放送して全193話です。『鉄腕アトム』は後にカラー版が1980年10月1日から全52話放送されました。あとですね、『ジェッターマルス』ってのもありまして……」

 雅人は頭がクラクラしてきて、治美が何を言っているのか聞いていなかった。

 漫画を15万頁も描きながらアニメーションも60作品も作っただと!?

 ふざけるんじゃねぇ!

 手塚治虫は化け物か!!

「アニメってテレビで放映する30分の漫画映画のことだったのか?」

「それで思い出しました。二時間アニメもテレビで放映しました。もしかしたら、ママが観たのはそっちかもしれませんね。24時間テレビアニメってのを毎年夏休みに放映していたそうですよ。
『100万年地球の旅 バンダーブック』、『海底超特急マリンエクスプレス』、『フウムーン』 、『ブレーメン4』 、『プライム・ローズ』、『大自然の魔獣バギ』、『三つ目がとおる』、『ボーダープラネット』。
 そして遺作のひとつとなった『手塚治虫物語 ぼくは孫悟空』 ……。わたしはDVDで観ただけですが、手塚先生は放映後も気に入らない所は手直ししたって聞きますから最初の放映版も観たかったなあ」

「俺は漫画映画というから、映画を何本か作っただけだと思ってた」

「そうか!ママが観たのは映画の可能性もありますね!えーと、『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』が公開された年はママがまだ7歳か。日本初の成人向けのアニメ映画『アラビアンナイト 千夜一夜』、『クレオパトラ』はママがまだ生まれる前。『哀しみのペラドンナ』は……手塚先生はノータッチだったわね。劇場版アニメは除外してもいいとおもいますよ」

 治美が例のごとく嬉々として手塚治虫の話をしている間、雅人の脳裏には高村光太郎の詩の一節が浮かんできた。

(僕の前に道はない。僕の後ろに道は出来る……)

 何もないこの昭和二十九年の日本で、雅人たちは紙と鉛筆だけでこれだけの作品を創ってゆかねばならないのだ。


「なあ、治美。本当に手塚治虫は一人でこんなに沢山の漫画映画を作ったのか?」

「いやだなあ!一人で作れるわけないでしょう!アニメというのは大勢のアニメーターが絵を描いて作るんですよ」

「そ、そうだよな!手塚治虫は原作だけで、漫画映画はどこか外部の会社が作ってくれたんだよな」

「いえ。手塚先生は自分で虫プロダクションというアニメ制作の会社を設立しました」

「漫画家が自分でアニメ会社作るんだ!」

 本当に治美のいた世界にはこんな人間が存在していたのだろうか。

 いや、こんなの人間業じゃない。

 本物の神様だ!

(俺はとんだ安請け合いをしてしまったのではないのか)

 絶望のあまり雅人は泣きたくなってきた。

 雅人の顔が青ざめていたのだろう、治美が心配そうに覗き込んできた。

「大丈夫ですか、雅人さん?」

「いや、ちょっと想像以上に作品数が多かったので面喰ってしまっただけだ」

「やっぱりわたしなんかが手塚治虫になろうなんて不可能なのかな……」

 雅人の動揺に気づき、治美がしょんぼりとうなだれてしまった。

 いけない!

 雅人は自分を奮い立たせた。

「治美!手塚治虫も同じ人間だ。けっして神様なんかじゃないぞ。手塚治虫がどうしてそんなに沢山の漫画や漫画映画を作れたと思う」

「そりゃあ手塚先生は天才ですから……」

「それは違うよ、治美。天才の一言で片づけるな!手塚治虫が漫画と漫画映画を心から愛していたからだ。自分の人生を賭けて努力し続けたからそれだけの作品を残せたんだ。お前も手塚作品を愛しているんだろう。お前の手塚愛は世界一だ!お前ならばきっと手塚治虫になれると俺は信じている!」

「わかりました!わたし、頑張ります!」

 雅人は治美に向かって励ましながら、自分自身にも強く言い聞かせていた。

 雅人の脳裏に再び高村光太郎の詩の一節が浮かんできた。

(僕の前に道はない。僕の後ろに道は出来る。ああ、自然よ。父よ……)
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