REMAKE~わたしはマンガの神様~

櫃間 武士

文字の大きさ
19 / 128

マァチャンの日記帳 その1

しおりを挟む
 雅人と治美は相談して、手始めに手塚治虫のデビュー作、「マァチャンの日記帳」を描くことにした。

「それで『マァチャンの日記帳』ってどんな漫画なんだ?」

「マァチャンって男の子が主人公の、ほのぼのとした普通の日常を描いた4コママンガですよ」

「4コマ漫画か。だったらオチさえ面白ければ多少絵がヘタでもいけるな。最初の作品にはちょうどいい」

「そう言えば昔の4コママンガって、ちゃんと起承転結があって最後にオチがあるんですよね」

「4コマ漫画ってそういうもんだろ……?」

「わたしの知ってる未来世界の4コママンガは、とりあえず美少女が一杯でてきてキャッキャッウフフしているだけで特にオチも笑いもないですよ」

「へぇ……?きっと4コマ漫画が進化し、洗練された結果そうなったんだな。だが、今の時代の4コマ漫画はちゃんと最後に笑いがないと駄目だからな」

「大丈夫ですよ。デビュー作とはいえ天才手塚治虫の4コママンガですよ。面白くないわけがない!」




 勝手知ったる他人の家、雅人はエリザの部屋からわら半紙と鉛筆を持ってきて治美に手渡した。

「それじゃあ、そのマァチャンの漫画を描いてみてくれ」

「はーい!」

 治美はわら半紙に鉛筆で四つの駒枠を描くと、サラサラと4コマ漫画を描いていった。

「ほう……」

 いくら丸写しとはいえ迷うことなくあっという間に描いていく。

 治美には持って生まれた絵を描く才能がある。

(やはり治美は俺の血を引いてるんだなあ………)

 そう考えると、何とも言えない不思議な感情が胸に湧き起こった。

 たちまち野球帽を逆さにかぶり、長ズボンに長袖シャツ、手袋をした可愛らしい男の子の絵を治美は描きあげた。

「ふーん………。この子がマァチャンか。可愛い絵だな」

「ありがとうございます!」

「でも、なんで手袋してるんだい?」

「やっぱり、あれかしら……」

 治美は口元を手で隠しながら小声で言った。

「―――ミッキーマウスの影響ですよ」

「なるほどな。手塚治虫はディズニーの影響を受けているんだ。でも、ディズニーとは違った魅力があるな。なんというか可愛いな」

「そうでしょ!手塚先生の絵柄は日本の萌えマンガの元祖なんですよ!日本の萌え文化は手塚先生から始まったのですよ!」

 また治美が熱弁をふるいそうになったので、雅人は話を戻した。


「第一話は書初めかきぞの話か」

「はい。このマンガが掲載されたのが正月でしたから」


「マァチャンの日記帳」、記念すべき第一話はこんな内容だ。

 起:壁に「マァチャンの弱虫」と悪口が落書きされている。

 承:まだ字の読めないマァチャンが年長の少年に何と書いてあるか尋ねると、「マァチャン」と書いてあると教えられる。

 転:マァチャンはそれを真似て家で書初めをする。

 結:「マァチャンの弱虫」と書かれた書初めを見て呆れるお父さん。


「ほのぼのとした楽しい漫画だな。しかし、今は春だ。正月の話は載せてもらえないな」

「ですよね!わかりました。春か夏の話を描いてみますね」

 そう言うや否、治美はあっという間に数本の4コマ漫画を描いてみせた。

 鉛筆書きとはいえかなりのスピードだ。

 雅人は初めて目にする手塚作品をじっくりと読んでみた。

 最後のコマのオチを読んで、ニヤリと何度も口元がほころんだ。

「絵も可愛いしなかなかユーモラスだ。面白いな」

「面白いですか?」

「面白いよ?どうして…?」

「―――実はわたし、内容がよくわかんないですよ。セリフがみんな手書きのカタカナで、読みにくいんですよね」

「なるほどな。終戦の翌年の作品だからな。まだ旧仮名遣いなんだよ。当時の子供は最初にカタカナから教わったんだ」

「キュウカナヅカイ……?」

「知らないのか?ちょっと待ってろ」

 雅人はわら半紙に「ヰ」と書いて見せた。

「これは『イ』と読む」

「ああ!見たことあります!えーと、『ウヰスキー』の『イ』!」

「じゃあ、これは?」

 雅人はわら半紙に「ヱ」と書いて見せた。

「『ヱヴァンゲリヲン』の『え』!」

「なんだ。結構、読めるじゃないか」

「全部、カタカナだと読みにくんですよねぇ……」

 治美は一つの文章を書き始めた。

「ミナサンヘ マングワノ セカイニモ ヘイワガキマシタヨ。イママデノ センサウチュウノ アラッポイ マングワナンカデハ ナク ナゴヤカナ オハナシヲ ヒトツ ミナサンニ オオクリシマセウ」

 治美は絵を描く時と違って非常に苦労して書き終えた。

「これ、『マァチャンの日記帳』の予告文なんです。わたしにはわけがわかりません。ちょっと読んでみてください」

「えーと……、『皆さんへ。漫画の世界にも平和が来ましたよ。今までの戦争中の荒っぽい漫画なんかではなく、和やかなお話を一つ、皆さんにお送りしましょう』」

「『マングワ』って『マンガ』のことだったの!?」

 治美はケラケラと大笑いした。

「じゃ、これは?これは?」

 面白がって、治美は次々と漫画のセリフを書き、雅人はそれを読み上げていった。

「ヲヂチヤン」

「おじちゃん」

「カヒダシ」

「買い出し」

「スエーター」

「セーター」

「テフテフ」

「蝶々」

「ニフガクシケンノレンシフダヨ」

「入学試験の練習だよ」

 その後、「買い出し」とか「DDT」とか「進駐軍」とか治美には存在自体、理解できない単語も一杯でてきた。

「掲載されたのが昭和21年だから昭和29年の今だと時代が合わない話が多いな。もったいないがそういった話は省くしかないな」

「ふーん。同じ昭和の古い時代だと思っていましたが、昭和21年と昭和29年でもかなり違うんですねぇ」

 雅人はズボンのポケットから手帳を取り出し、カレンダーを見た。

「今週の木曜日、29日は天皇誕生日で学校は休みだ。その日なら一日中手伝えるから、それまでにできるだけ4コマ漫画を模写しておいてくれ」

「そう言えばもうすぐゴールデンウイークですよね?あれ、この時代にもゴールデンウイークってあります?」

「二、三年前から大型連休をゴールデンウイークって呼ぶようになったよ。確か映画会社が言い出したんだ」

「だったらゴールデンウイークにたっぷり手伝ってもらえますね」

「ああ。そのつもりだ」

「そうだわ!雅人さん!」

 突然、治美が雅人の両手を握りしめた。

 雅人は思わずドキッとした。

「な、なんだよ!?」

「肝心なことを聞くのを忘れていました!『少国民新聞』って今でもあるんですか!?」

「『毎日小学生新聞』のことだろ。名前は変わってるが今もあるよ」

「あっ!『毎日小学生新聞』ですか!そっか!そっか!わたしの時代にもありましたよ!そっかあ!古いンですねぇ。……ところで『少国民』ってどういう意味です?」

「戦時中、小学校のことを国民学校と呼んだんだよ。それで小学生は少国民って呼ばれた」

「なるほど!なるほど!つまり『少国民新聞』は小学生新聞ってことですね」

「そうそう……!」
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

借景 -profiles of a life -

黒井羊太
ライト文芸
人生は、至る所にある。そこにも、ここにも、あそこにも。 いつだったかの群像・新人文学賞一次通過作。 ライト文芸大賞に参加してます。

Millennium226 【軍神マルスの娘と呼ばれた女 6】 ― 皇帝のいない如月 ―

kei
歴史・時代
周囲の外敵をことごとく鎮定し、向かうところ敵なし! 盤石に見えた帝国の政(まつりごと)。 しかし、その政体を覆す計画が密かに進行していた。 帝国の生きた守り神「軍神マルスの娘」に厳命が下る。 帝都を襲うクーデター計画を粉砕せよ!

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...