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来るべき世界 その2
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「と、ともかく、治美に会って下さい!」
雅人は大慌てでドテラ姿のまま家を出ると、エリザのお屋敷に金子を連れて行った。
虫プロで机に向かってネームを描いていた治美を見つけると、雅人は彼女の耳元に口を寄せて小声で言った。
「例のあとがきを見て、未来人がやって来たぞ」
治美は雅人の言葉の意味が理解できず、一瞬動きを止めて雅人の顔を見つめていた。
それからおもむろに雅人の後ろに立つ金子の方を見た。
金子は黒縁の眼鏡を掛けていた。
間違いない。
それはコミックグラスだった。
「WELCOME TO SHOWA!」
そう叫んで治美は虫プロの入口に立つ金子に抱きついた。
部屋で作業中だった数名のスタッフが驚いて治美たちを見つめている。
「て、手塚先生。ここではなんですから、食堂に行きましょう」
雅人がそう言って、治美と金子を虫プロの外に連れ出した。
治美は新しい未来人の登場にウキウキと浮かれて地に足が付かない状態だった。
庭を歩いている間もひっきりなしに治美は金子に質問をし続けた。
「おじさま。お名前は?」
「金子です。金子俊夫です」
「まあ!素敵なお名前ですね!それでどちらから来られましたか?」
「東京です」
「まあ!東京ですか!それはそれは随分と遠い所から。時間、かかったでしょ?」
「ええ。8時間以上かかりました。まさか、こんなに遅くなるとは思いませんでしたよ」
「でしょうね。わたしたちの感覚では東京、大阪間は新幹線で3時間ですからね」
「この時代はなんと蒸気機関車ですからね。神戸に行くかどうするかかなり悩みましたよ。一大決心でここにやって来ました」
「わたしも来年は東京で仕事するつもりです。何度も汽車で移動するのはしんどいから、東京に住もうと思っているんです。どこか良い所知りませんか?」
「手塚さんが東京で住むならあそこでしょ」
「ん?どこかな?どこかな?」
「トキワ荘!」
「ですよね!」
治美と金子が一緒になって笑い合った。
二人は初めて出会った時から年齢の差をものともせず、とても気が合う仲間だった。
何がおかしいのかわからず、雅人はきょとんとして二人を見ていた。
三人が食堂に入ると、ちょうど家政婦の田中が後片付けをしていたので治美はお茶を頼んだ。
ちょっと前まで治美の仕事部屋にされて雑然としていた食堂も、今はすっかり片付き、昔のように明るく清潔感にあふれていた。
「どうぞ…」
田中が金子をジロジロと見ながら紅茶を差し出した。
(また、変なヤツが来た)
田中の顔にはっきりとそう書いてある。
金子は無精ひげも生やし、服装もリックサックも埃だらけで薄汚れていた。
田中が食堂を出ていくと、入れ替わりに横山が息せき切って入ってきた。
「新しい未来人ですって!?」
金子が慌てて立ち上がり、横山に向かってお辞儀をした。
横山は興奮して金子の手を取って握手をした。
「僕は横山浩一と言います。僕も令和元年の世界からタイムスリップした未来人です」
「か、金子俊夫といいます。私は令和3年からきました。昭和33年生まれの63歳です」
「63歳ですか……」
金子の年齢を聞いて横山は失望の色を隠せなかった。
「ねぇねぇ!雅人さん!横山さん!わたしの言った通りでしょ。絶対にわたしたち以外にも未来人はこの世界にいるって!だから単行本のあとがきに未来人にしかわからない文章を入れて呼び寄せましょうって」
「確かに治美の言ったとおりになった。たいしたもんだ!」
「あのう……」
金子が不安げに雅人に尋ねた。
「あなた方もみんな未来から来たのですか?」
「俺は違います。手塚先生と横山先生の二人は未来から来た人間で、ここで漫画を描いています」
「どうやって手塚さんはマンガを描いているのですか?あなたは私の知っている手塚治虫ではありません」
金子が治美に向かって問いただした。
「コミックグラスを使って内蔵されてるマンガをトレースしているのですよ」
「ああ、なるほど!マンガを模写していたのですね!なるほど!なるほど!しかし、それなら本物の手塚治虫はどこにいるのですか?」
「この世界の手塚先生は戦争中に亡くなりました。他の大勢の漫画家の方も亡くなっています。この世界はわたしたちのいた世界とは別世界です」
金子はハッとして思わず膝を叩いた。
「確かにこの世界には私の知ってるマンガがまったく存在しません!雑誌を見ても絵物語ばっかりだし、新聞にもサザエさんが載っていないので変だなあと思っていました」
治美がいきなり金子の手を握りしめて叫んだ。
「金子さん!あなたもわたしたちと一緒にマンガ描きましょうよ!それがあなたの運命です!」
「えっ!?ええっ!?」
金子は狼狽して目を白黒している。
雅人は大慌てでドテラ姿のまま家を出ると、エリザのお屋敷に金子を連れて行った。
虫プロで机に向かってネームを描いていた治美を見つけると、雅人は彼女の耳元に口を寄せて小声で言った。
「例のあとがきを見て、未来人がやって来たぞ」
治美は雅人の言葉の意味が理解できず、一瞬動きを止めて雅人の顔を見つめていた。
それからおもむろに雅人の後ろに立つ金子の方を見た。
金子は黒縁の眼鏡を掛けていた。
間違いない。
それはコミックグラスだった。
「WELCOME TO SHOWA!」
そう叫んで治美は虫プロの入口に立つ金子に抱きついた。
部屋で作業中だった数名のスタッフが驚いて治美たちを見つめている。
「て、手塚先生。ここではなんですから、食堂に行きましょう」
雅人がそう言って、治美と金子を虫プロの外に連れ出した。
治美は新しい未来人の登場にウキウキと浮かれて地に足が付かない状態だった。
庭を歩いている間もひっきりなしに治美は金子に質問をし続けた。
「おじさま。お名前は?」
「金子です。金子俊夫です」
「まあ!素敵なお名前ですね!それでどちらから来られましたか?」
「東京です」
「まあ!東京ですか!それはそれは随分と遠い所から。時間、かかったでしょ?」
「ええ。8時間以上かかりました。まさか、こんなに遅くなるとは思いませんでしたよ」
「でしょうね。わたしたちの感覚では東京、大阪間は新幹線で3時間ですからね」
「この時代はなんと蒸気機関車ですからね。神戸に行くかどうするかかなり悩みましたよ。一大決心でここにやって来ました」
「わたしも来年は東京で仕事するつもりです。何度も汽車で移動するのはしんどいから、東京に住もうと思っているんです。どこか良い所知りませんか?」
「手塚さんが東京で住むならあそこでしょ」
「ん?どこかな?どこかな?」
「トキワ荘!」
「ですよね!」
治美と金子が一緒になって笑い合った。
二人は初めて出会った時から年齢の差をものともせず、とても気が合う仲間だった。
何がおかしいのかわからず、雅人はきょとんとして二人を見ていた。
三人が食堂に入ると、ちょうど家政婦の田中が後片付けをしていたので治美はお茶を頼んだ。
ちょっと前まで治美の仕事部屋にされて雑然としていた食堂も、今はすっかり片付き、昔のように明るく清潔感にあふれていた。
「どうぞ…」
田中が金子をジロジロと見ながら紅茶を差し出した。
(また、変なヤツが来た)
田中の顔にはっきりとそう書いてある。
金子は無精ひげも生やし、服装もリックサックも埃だらけで薄汚れていた。
田中が食堂を出ていくと、入れ替わりに横山が息せき切って入ってきた。
「新しい未来人ですって!?」
金子が慌てて立ち上がり、横山に向かってお辞儀をした。
横山は興奮して金子の手を取って握手をした。
「僕は横山浩一と言います。僕も令和元年の世界からタイムスリップした未来人です」
「か、金子俊夫といいます。私は令和3年からきました。昭和33年生まれの63歳です」
「63歳ですか……」
金子の年齢を聞いて横山は失望の色を隠せなかった。
「ねぇねぇ!雅人さん!横山さん!わたしの言った通りでしょ。絶対にわたしたち以外にも未来人はこの世界にいるって!だから単行本のあとがきに未来人にしかわからない文章を入れて呼び寄せましょうって」
「確かに治美の言ったとおりになった。たいしたもんだ!」
「あのう……」
金子が不安げに雅人に尋ねた。
「あなた方もみんな未来から来たのですか?」
「俺は違います。手塚先生と横山先生の二人は未来から来た人間で、ここで漫画を描いています」
「どうやって手塚さんはマンガを描いているのですか?あなたは私の知っている手塚治虫ではありません」
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「コミックグラスを使って内蔵されてるマンガをトレースしているのですよ」
「ああ、なるほど!マンガを模写していたのですね!なるほど!なるほど!しかし、それなら本物の手塚治虫はどこにいるのですか?」
「この世界の手塚先生は戦争中に亡くなりました。他の大勢の漫画家の方も亡くなっています。この世界はわたしたちのいた世界とは別世界です」
金子はハッとして思わず膝を叩いた。
「確かにこの世界には私の知ってるマンガがまったく存在しません!雑誌を見ても絵物語ばっかりだし、新聞にもサザエさんが載っていないので変だなあと思っていました」
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