母獣列島

櫃間 武士

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廃村

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○山道。昼。
 汗だくになって奥深い山道を登っていくスーツ姿の県警の刑事、越智絵里香。
絵里香「これは…思ったよりキツイわね」


〇絵里香の回想。女岩島の診療所。
 村上 杏奈と絵里香が村長の妻、橘 房江と話している。
 住民票を見ている絵里香。
絵里香「藤原 瑶子。旧姓、森山 瑶子。死んだ藤原 太志の妻で育人の母親…」
房江「藤原 太志はもともとこの島の生まれやったんが、中学を卒業するとすぐに島を飛び出たんや。その後、本土で何しとったか知らんけど、十年前に突然、四歳の子供を連れて島に戻ってきたんや」
杏奈「その子供が育人ね」
房江「太志のやつ、女房が死んだんで仕方なく島に戻って来たようなこと言うとったわ」
絵里香「それで先生、私にどうしろと?」
杏奈「育人の生まれた村に行って、あの子の出自を調査して欲しいの。越智さんは刑事だからお手の物でしょ」
絵里香「それは育人のためになることですか?」
杏奈「ええ。育人の出生の秘密を知ることは、育人の夢を叶えるためには必要不可欠よ」
絵里香「了解しました。橘さん、育人の母親の死因はご存知でしょうか」
房江「それが、はっきりせんのよ。太志は生前、女房は殺されたとか自殺したとか言うとったそうや」
杏奈「少なくとも、病死というのは嘘ね」
 回想、終わり。


○山奥の廃村。昼。
絵里香(野首村。この村で育人は十四年前に生まれた)
 放置され崩壊が進んだ住居が続くメインストリート。
 集落内でも、家屋の形状をとどめているもの、瓦礫しか残っていないものと状態は様々。
絵里香(野首村に人が住み着くようになった始まりは、神社の神官が移住してきたことだった。以後、千年以上に渡って神官がこの村の神社を守っていた。育人の母親はその神社の神主の娘だ)


〇寂れた神社。
 ボロボロの鳥居を見上げながら潜り抜ける絵里香。
絵里香(本当にこんな所に人が住んでるのか)


〇荒れ果てた社務所。
絵里香「森山さん!森山 静雄さん!いらっしゃいますか!」
 外から大声で呼びかける絵里香。
 静まりかえった家屋。
 と、ガタガタとガラス扉を開く老人。
森山「何や、あんた……?」
絵里香「(警察手帳を見せて)森山 静雄さんですね。娘さんのことでお伺いしたいことがあります」
森山「瑶子の?」


〇同、応接間。
 内部は意外と片付いている。
 絵里香にお茶を出す森山。
森山「太志が死んだやと!?」
絵里香「ええ。事故に遭いまして」
森山「それであいつは!?育人はどうした!?」
絵里香「育人君は里親に引き取られ、元気に暮らしています」
森山「いかん!育人は外に出したらいかん!」
絵里香「お孫さんでしょ?」
森山「あいつは人間やない!あやかしの子供や!!」
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