母獣列島

櫃間 武士

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惨劇

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〇森山 静雄の回想。神社の境内。
 額から血を流し、仰向けに倒れた育人が泣きじゃくる。
育人「うぇーん!!」
 瑶子が大慌てで駆け寄る。
瑶子「育人!しっかりして!!」
育人「うぇーん!!痛いよう!」
母親「この馬鹿垂れがあ!!」
 母親、石を投げた男の子を思い切り殴り倒す。
 もんどりうって地面に倒れる男の子。
 驚いて、泣くのも忘れる男の子。
育人「ばかあ!!みんな、死んじゃぇ!!」
 泣き叫ぶ育人。
 その声を聴いた女達の目の色が変わる。
 鬼女の形相で誰彼構わず掴みかかってゆく。
森山(現場は地獄絵図のようじゃった。女たちは互いに殺しあった。目をえぐり、腕を折り、耳を引きちぎり、喉首を噛みちぎった)


○同、野首村集落。
 一人の女が鎌を振り回し、喚きながら集落の中を駆ける。
森山(生き残った女は鎌を取ると、何も知らない村人達を殺して回った)
 村のあちらこちらに血まみれの無残な死骸が転がる。
森山(女は最後には猟銃で撃ち殺された。じゃが、その時にはほとんどの村人は殺されとった)
 硝煙の立ち昇る猟銃を持って呆然と立ち尽くす太志。
 震えながら撃たれた女を見下ろす森山。
 血塗れの鎌を握りしめたまま、撃ち殺された瑶子の死体が横たわる。
太志「瑶子………」
 森山 静雄の回想終わり。


〇社務所、居間。
 森山の話を聞いている越智絵里香がゴクリと生唾を飲む。
森山「奇蹟的に生き残った子供の話では、育人の命令を聞いたおなご達は一瞬で獣のように狂ってしまったそうじゃ。育人は人間やない。山神様が産み捨てたあやかしに違いない!」
森山「太志のやつは育人を連れて、黙って村から逃げて行きおった。ほかの村人も村を捨て、今ではわし一人がこうして神社を守っておる」
 森山、絵里香に詰め寄る。
森山「育人はどこにおるんじゃ!あいつを野に放ってはいかん!育人を始末するのじゃ!!」


〇集落。夕刻。
 スマホで話している絵里香。
絵里香「――以上が育人の祖父から聞いた話です。村上先生」
 絵里香の背後、社務所に火がついて燃えている。


〇社務所、居間。
 頭から血を流し、うつ伏せに倒れて死んでいる森山の姿。
 燃え盛る炎に包まれる。


〇集落。
 スマホで話している絵里香。
絵里香「はい。祖父の口は塞いでおきました。今から、島に戻ります」


女岩島めいわじま診療所。
 スマホで話している村上 杏奈。
杏奈「ちょっと待って……」
 横にいた育人が杏奈に耳打ちする。
 杏奈、ニヤニヤ笑う。
杏奈「育人が町でおもちゃを買って来て欲しいって。BB弾ピストルって分かる?」
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