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第1章
魅惑のボーカル
しおりを挟むこれは信じられないけど本当の話。
自分でもたまに夢なんじゃないかって思うことがある。
そんな普通の高校生があのKPOPアイドルと付き合うまでのお話。
お茶でも飲みながら、軽く俺の話を聞いてくれたら嬉しい。
あれは、もう5年も前になる。
まさかこの時はアイドルなんかにハマるなんてありえないと思っていた。
学校帰りにふと見上げた電光掲示板で
彼に出会うまでは…
当時の俺は、18歳の高校3年生。
受験を数ヶ月後に控えた塾の帰り道、運悪く大きな交差点の信号に引っかかった。
何気なく見上げた東京の空は、ネオンの光に照らされて明るく、夜空の星の輝きを隠してしまうほどだった。
なかなか勉強で結果が出ず、模試の結果も思い通りにいかず、自分の光を見出せないでいた俺は、いつまでも見つからない星なんか探すのを辞めて、そっと目を閉じた。
その時…
~~♪
どこからともなく聞こえたその声に、俺はふと顔を上げた。
力強くも包み込むような優しい声。
高音は透き通り、低音は心地良い。
まるでオーケストラの演奏を聞いているかのような滑らかなハーモニーに、思わず声の主を探してしまう。
そこでやっと気がついた。
目の前の大きな電光掲示板に映し出されていたのは、あるアイドルだった。
生まれてこの方誰かを好きになったことなんてなかった俺は、当然アイドルにも興味はなかった。
所詮アイドルなんて、歌手には及ばないのだろう。そんな偏見もあって、そんな人たちにお金を使うような、いわばオタクを少し軽蔑していたくらいだった。
しかし、この時、この瞬間にそんな愚かな俺の考えは、消え去っていた。
思わず息を飲む声に切ないラブソング。
何かが俺の心にスッと入り込んで奥深くに眠っていた心を揺り動かされるような感覚。
あの人は一体…
その大きな広告の最後に、大きくIlios の文字が浮かび上がった。
俺は目の前の信号が青に変わったのにも構わず、携帯にあの文字を打ち込んでいた。
「イリ、オス…」
見ればそれは日本ではなく韓国のアイドルで、俺はさらに衝撃を受けた。
あんなに日本語が流暢なのだから当然日本人だと…いや、歌っていたメンバーが日本人とか?!?!
メンバーを調べても日本人は出てこなかった。
それから毎日Iliosの曲を聴くようになった俺が、ファンになるまでにそう時間はかからなかった。
「陸ってさいつも何聞いてんの?」
「ん?Ilios」
「イリオス?!」
友達は俺がKPOPアイドルの曲を聴いていることにひどく驚いていた。
それも無理はないだろう。
あれだけアイドルを馬鹿にしていた俺が今やファンなのだから。
「今すごい勢いあるもんなIlios。俺も聴いてみよっかな」
「あぁ。マジで聴いた方がいいよ」
そんな言葉に今度は目を丸くする友達。
俺だって自分が1番驚いている。
まさかアイドルの布教活動までするとは…
それほど俺にとっては衝撃的な出会いだったということだ。
こうして俺は初めて“推し”という存在ができたのだ。
Iliosのメインボーカル。
20歳のキム•イジュン。
あの日初めて心惹かれた声の持ち主だった。
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