剣舞踊子伝

のす

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第一章

6話

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春蕾は飛龍と体を重ねた翌日から、もう1週間も床に臥していた。
今朝も主治医が診察に来たが、あまり状況は変わらずで、夜鈴もほとんどつきっきりで看病にあたっていた。

しばらく勉強や剣舞の練習で睡眠時間が取れていなかった事や気候の変化、そしてあの夜のことが重なったのだろう。

熱が下がりきらず、春蕾はなかなか目を醒さなかった。









「……?」



暗闇の中、ぼんやりとした光が見える。それは人影か。顔ははっきりとは見えなかったが、聞き覚えのある声に春蕾は僅かに唇を動かした。

誰かに体を抱かれ、温かいものが喉の奥に流れ込んできたのが分かる。

これは夢か…現実か……。
その時はただ、僅かに感じた人肌が心地よく、その感覚に身を委ねるだけだった。








「春蕾様!」

「……?」

「春蕾様…お薬が効いたのですね!良かった…」


よく眠ったのか、少し体が楽になった気がする。
ゆっくりと体を起こすと、夜鈴が駆け寄り、よかったよかったと涙を流して喜んだ。


「昨日、突然飛龍様がいらっしゃって、名医に調合させた煎じ薬を下さったんですよ」

「飛龍が…?」

「はい!そちらに見舞いの品まで!」


見れば枕元に沢山の果実が置いてあった。どれもこれもこの国の真ん中ではなかなか手に入らない貴重なものばかり。
しかし、なぜ飛龍が私に?


「なぜ私のために………っ夜鈴!?無事なのか?」

「え?私ですか?」

「飛龍が来たのだろう?!」

「ええ…いらっしゃいましたが…。??何か悪い夢でも見られたのですか?」


夜鈴は不思議そうに首を傾げている。その様子からして、おそらく手は出されていないのだろう。あんなに踊り子に執着していたのに。

よく見れば、掛け布団の上に飛龍の羽織りが掛けてあった。

ますます不思議だ。
あの夜、探し求めていた女は手に入らず、その腹いせに私を抱いたのだから、当然嫌われているのだろうと思っていた。それなのに、この心遣いには理解が及ばない。


「夜鈴は休むといい。私はもう平気だから、少し外の空気を吸ってくる。ついでに飛龍に羽織りを返すよ」


頭の中でぐるぐるといろんな事を考えながら王宮内を歩く。
見えている草木は寒そうに枝を揺らし、それに呼応するように春蕾も体を震わせた。


「うぅ…やはり夜着のままだと寒かったか…羽織りを持ってこれば良かった。」


そう言いつつ、その手には飛龍の羽織り。
春蕾は2、3度あたりを見渡し、誰もいないことを確認してから腕を通してみた。

その反物は上級武官のそれらしい高級そうな細かい装飾が施されているもので、着心地がとても良い。少し袖や裾が長いが、春蕾もなかなか様になっていた。


「下級文官の君たち、木簡を持ってきてくれないか?ははは」


気分は上級文官。
いつかは春蕾だってこんな立派な反物を仕立てて、部下たちから憧れられる存在に…


「何してる」

「ぇ!あ、こ、これは…ぃゃ…その…ぇ、と…」

「お前にその羽織りは大きすぎる。まるで子供が着ているようだ」


突然聞こえた声に、春蕾は慌てて羽織りを脱いで、バツが悪そうにそっぽを向きながら突き返す。


「はいこれ。お返しします!」

「もう良いのですか?上級文官の司春蕾様?」


馬鹿にしたようにわざと敬語で話し、ニヤニヤと笑いながら顔を覗き込んでくるこの男は、やっぱり性格がものすごく悪い。
たった一度だけ見舞いに来たからといって見直すわけではないからな。


「っ…ええ!!こんな趣味の悪い反物、私には似合いませんから!」

「フッ…確かに全然似合ってないな」

「む」



飛龍は羽織を受け取るのと同時に、春蕾の耳に唇を寄せ、囁くような色気のある声で言う。



「体はもういいのか?」

「っ!!//ええまぁ!」

「耳まで真っ赤だぞ」

「寒いだけです!」



飛龍はクスクス笑ってそうかと離れた。
この男は一体どれだけ私をからかえば気が済むのだ。



「…あの……その節は、ありがとうございました」

「体調くらい自分で管理しろ。まぁ半分は私のせいか?」



飛龍は羽織りを着直すと、笑いながら去っていった。似合いすぎるのがまた腹が立つ。
気を遣われたのかと思ったら冷たくされ、あの男の本心がどこにあるのか全く読めない。読みたくもないのだが。

何なのだ、あの男は。嫌味な奴め。
大体、病み上がりの病人に対して体調管理しろだなんて白状にも程があるだろう。
それに、私が体調を崩した原因の一つはあの男のせいなのだからな。
特に最初の2、3日の腹痛は絶対に。


そんな事を考えていると、王宮の端まで来てしまったようだった。
引き返そう…そう思った時、洗濯中の下女達が話しているの声が聞こえてきた。


「飛龍様のお戯が最近めっぽう減ってしまったみたいなのよ。玉の輿に乗れるかもって騒ぎ立てていた女たちはみんな意気消沈してるって噂」

「あら、誰か良い人でも見つかったのかしら?」

「それがね、相手はあの剣舞の踊り子だとか。さぞかしご執心みたいよ」

「その踊り子は太子の妃だと噂で聞いたわ!」

「そうなの?!では禁断の関係なのかしら?太子の妃に手を付けたとなると、将軍のご身分もどうなる事か…」

「でも剣舞の踊り子の顔は誰も知らないのよ!どこの家の娘かも分からないって」



ガンっ


「痛っ…」

「春蕾様!こ、こんな所まで何かご用でしょうか?!」

「いや…何でもない…」

「病み上がりの体で歩かれてはお体に障ります。温かい茶を淹れますのでお部屋でお待ちを」

「あ、あぁ…」


下女たちに急かされるまま自室に引き返した春蕾は、部屋の前で夜鈴と鉢合わせた。


「夜鈴、休みはどうした?」

「私はじっとしていられない性格なので…それに、ちょうどさっき飛龍様がいらして、寒いから火鉢を用意しておけと…」


部屋の真ん中に火鉢を置かれ、すぐに温かい茶が用意される。少し体が冷えていたので随分と助かった。











「最近女遊びをしていないらしいな。男の方が良くなったか?」

「お前と一緒にするな劉帆。最近は忙しかっただけだ。」

「そうなんだ。噂で聞いただけだが、剣舞の踊り子と一夜を共にしたんだろう?」

「…」

「太子の妃に手を出すのは、さすがのお前でもまずいのではないか?」

「踊り子とは寝ていない」

「ではなぜ女遊びを辞めたのだ。まさか他に気に入った女ができたのか?」
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