神子の余分

朝山みどり

文字の大きさ
39 / 39

36 浄化

 ハイタック王国の瘴気の森は、なんとなく粘ついているように感じた。
 何度も訓練を積んだ自国の兵たちが周りを囲んでいるし、僕自身も矢に付与を施している。
 だから、道中に不安はないのだ。

 それなのに、矢をつがえる手のひらが汗で湿る。

「大丈夫だ」
 この声だ。フェルナンドの声で呼吸が楽になる。
 僕の状態を察して声をかけてくれた。

「うん、フェルナンド」
 嘘じゃない。
 最初のころに比べたら、瘴気の冷気にも慣れた。
 恐ろしいと思う気持ちも、もう少し奥に沈められるようになった。
 それでも、僕の後ろに立つフェルナンドの存在が、
 それ以上に心強いのはどうしてだろう。

「足元、抜かるんでる」
 僕が一歩踏み出そうとしたとき、
 フェルナンドが肩を掴んで引き留めた。
 見ると、濁った瘴気がしみ出た水溜りが、苔むした根の陰に隠れていた。
 一歩踏み外せば、膝まで嵌まっていただろう。

「ありがとう」
「俺はお前の護衛だ。守るさ」
 そう言いながらも、フェルナンドの指はまだ僕の肩から離れない。
 少し歩くたびに、背を押され、立ち止まれば気配が寄り添う。

 矢を一本つがえ、狙いを定める。
 瘴気の結節点を撃ち抜けば、浄化しやすくなるが、僕の弓の腕はまだまだだ。
 結節点が見えるのは僕だけだから、もっと練習しないと・・・
 僕はゆっくり息を吐き、腕を引き絞るが、腕が震えて狙いが定まらない。

「ルーク」名前を呼ばれただけだが、腕に力が戻った。背中に温かい手が触れた。

 矢が吸い込まれていった。

 瘴気がさーーっと晴れて行った。

 フェルナンドのおかげだ。

 フェルナンドが背中にいると、どれだけ瘴気が濃くても、胸の奥が静かになる。
 結節点も見つかりやすい。不思議だ。

 そう言えば、前に鎧熊を討伐したとき、チラッと思ったんだ。
 今日は効き目がいいって。

 あのときも、何かが守ってくれているようだった。
 僕の魔法がそれはうまく巻きついて、鎧熊の脚を拘束したのだった。

 あの頃、フェルナンドのことは、つきまとって来る面倒な人と思っていたけど・・・

「危ない」とフェルナンドが僕の体を後ろに引っ張ってくれた。
 瘴気の残りが、生き物のように僕を目指して飛んで来た。
 僕が避けて目標がなくなった瘴気の塊は行き場を無くしたのか?飛び散って消えた。
 あれに人間が覆われたらどうなるのか?想像してゾッとした。

 物思いにふけっている場合じゃなかった。

「ありがとう、ぼっとしてた」とお礼を言って、背を伸ばしてしゃんとした。

「ルーク。どうだ。この辺りは、もう大丈夫か?」と隊長から声をかけられた。
「はい・・・ちょっと待って下さい」

 僕はフェルナンドを気持ちから、追い出して瘴気を感じ取ろうとした。
 大丈夫、何もない。

「終わりました。ありません」と答えると隊長は改まって
「神子様、ありがとうございました」と頭を下げた。
 みるとフェルナンドも他の護衛も頭を下げている。

 うっと思ったら、フェルナンドが
「神子として応答しろ。皆、喜ぶ。安心する」と囁いて来た。

 フェルナンドが言うなら頑張るよ。

「こちらこそ、ありがとう。ここまで怖い思いも危ない思いもしなかった。あなた方にこのハイタック王国を救う義理はなかった。それなのにわたしのわがままに付き合ってくれた。本当にありがとう」と言うと僕も頭を下げた。

 隊長や護衛たちが引き上げの準備を始めるのを見て、僕は肩にかかったフェルナンドの手にそっと触れた。
 あたたかい。この手が、僕を何度も守ってくれたんだ。

「フェルナンド」

 呼ぶと、彼はいつものように何も言わず、ただ小さく笑った。
 僕はもう一度、森の奥を振り返った。瘴気は消えている。もう安心だとわかった。
 でも、まだ僕の中に残るものはある。

 この神子の力はフェルナンドがいてこそだ。

 帰ったらちゃんと話そう。フェルナンドが何をしてくれているのか。
 どうしてこんなに心強いのか。

 馬を引いて来た兵士が声をかけてくれた。僕は頷き、弓を背に回す。

「戻ろう。ルーク」
「うん」
 肩に置かれた手が、今度は僕の背をそっと押した。
「帰ったら話したいことがある」
 僕はそう言って、フェルナンドの手を取った。
 未来を繋ぐために。これからはずっと二人だよ。の思いを込めて。


 二人の話はこれで終わります。ルークをしゃんとさせられなくて、途中で息切れしましたが、なんとか二人をしっかりと結びつけることが出来ました。

 読んでくださいましてありがとうございます。



感想 22

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(22件)

アポロ
2026.03.16 アポロ

さらっと最後まで読んでみましたが、やはり文章が気になってストーリーが入ってきませんでした。
単調な文章で、文末が「~した」「〜と言った」ばかりなのと、これは誰のセリフなのかと思うような場面や、展開が早く主人公が相手に徐々に惹かれていくシーンも特に無かった印象で終わりました。
文章が改善され、もう少し主人公の気持ちの部分が見れたり、情景が伝わるような感じになればもっと面白く感じるのかなと思いました。

解除
アポロ
2026.03.15 アポロ

まだ11ページまでしか読んでいませんが、
設定やストーリーとかではなく、文章の書き方が箇条書きのような印象で、物語として分かりにくいと思いました。
ストーリーが流れていくのではなくぶつ切りにされているようと言えばいいのか…な…?
結末が気になるので頑張って最後まで読もうとは思います!

解除
ねず
2025.09.10 ねず

面白くて一気読みしました
後半フレデリックがいきなり登場
フェルナンドは偽名だった?
と思ったけどそうじゃない
最終話ほぼフレデリック
面白かっただけに混乱😵‍💫してしまい
せっかくのラストが頭に素直に入ってこなくて残念な気持ちになりました😭

2025.09.10 朝山みどり

教えてくださりありがとうございます。
確認して訂正いたします。
本当に自分でも情け無い😢

解除

あなたにおすすめの小説

冷血宰相の秘密は、ただひとりの少年だけが知っている

春夜夢
BL
「――誰にも言うな。これは、お前だけが知っていればいい」 王国最年少で宰相に就任した男、ゼフィルス=ル=レイグラン。 冷血無慈悲、感情を持たない政の化け物として恐れられる彼は、 なぜか、貧民街の少年リクを城へと引き取る。 誰に対しても一切の温情を見せないその男が、 唯一リクにだけは、優しく微笑む―― その裏に隠された、王政を揺るがす“とある秘密”とは。 孤児の少年が踏み入れたのは、 権謀術数渦巻く宰相の世界と、 その胸に秘められた「決して触れてはならない過去」。 これは、孤独なふたりが出会い、 やがて世界を変えていく、 静かで、甘くて、痛いほど愛しい恋の物語。

追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜

あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。 行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。 異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

出戻り王子が幸せになるまで

あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
初恋の相手と政略結婚した主人公セフィラだが、相手には愛人ながら本命がいたことを知る。追及した結果、離縁されることになり、母国に出戻ることに。けれど、バツイチになったせいか父王に厄介払いされ、後宮から追い出されてしまう。王都の下町で暮らし始めるが、ふと訪れた先の母校で幼馴染であるフレンシスと再会。事情を話すと、突然求婚される。 一途な幼馴染×強がり出戻り王子のお話です。 ※他サイトにも掲載しております。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。

下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。 文章がおかしな所があったので修正しました。 大国の第一王子・αのジスランは、小国の王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。 ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄をするから受け入れてほしいと言われる。 理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、 「必ず僕の国を滅ぼして」 それだけ言い、去っていった。 社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。