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36 浄化
ハイタック王国の瘴気の森は、なんとなく粘ついているように感じた。
何度も訓練を積んだ自国の兵たちが周りを囲んでいるし、僕自身も矢に付与を施している。
だから、道中に不安はないのだ。
それなのに、矢をつがえる手のひらが汗で湿る。
「大丈夫だ」
この声だ。フェルナンドの声で呼吸が楽になる。
僕の状態を察して声をかけてくれた。
「うん、フェルナンド」
嘘じゃない。
最初のころに比べたら、瘴気の冷気にも慣れた。
恐ろしいと思う気持ちも、もう少し奥に沈められるようになった。
それでも、僕の後ろに立つフェルナンドの存在が、
それ以上に心強いのはどうしてだろう。
「足元、抜かるんでる」
僕が一歩踏み出そうとしたとき、
フェルナンドが肩を掴んで引き留めた。
見ると、濁った瘴気がしみ出た水溜りが、苔むした根の陰に隠れていた。
一歩踏み外せば、膝まで嵌まっていただろう。
「ありがとう」
「俺はお前の護衛だ。守るさ」
そう言いながらも、フェルナンドの指はまだ僕の肩から離れない。
少し歩くたびに、背を押され、立ち止まれば気配が寄り添う。
矢を一本つがえ、狙いを定める。
瘴気の結節点を撃ち抜けば、浄化しやすくなるが、僕の弓の腕はまだまだだ。
結節点が見えるのは僕だけだから、もっと練習しないと・・・
僕はゆっくり息を吐き、腕を引き絞るが、腕が震えて狙いが定まらない。
「ルーク」名前を呼ばれただけだが、腕に力が戻った。背中に温かい手が触れた。
矢が吸い込まれていった。
瘴気がさーーっと晴れて行った。
フェルナンドのおかげだ。
フェルナンドが背中にいると、どれだけ瘴気が濃くても、胸の奥が静かになる。
結節点も見つかりやすい。不思議だ。
そう言えば、前に鎧熊を討伐したとき、チラッと思ったんだ。
今日は効き目がいいって。
あのときも、何かが守ってくれているようだった。
僕の魔法がそれはうまく巻きついて、鎧熊の脚を拘束したのだった。
あの頃、フェルナンドのことは、つきまとって来る面倒な人と思っていたけど・・・
「危ない」とフェルナンドが僕の体を後ろに引っ張ってくれた。
瘴気の残りが、生き物のように僕を目指して飛んで来た。
僕が避けて目標がなくなった瘴気の塊は行き場を無くしたのか?飛び散って消えた。
あれに人間が覆われたらどうなるのか?想像してゾッとした。
物思いにふけっている場合じゃなかった。
「ありがとう、ぼっとしてた」とお礼を言って、背を伸ばしてしゃんとした。
「ルーク。どうだ。この辺りは、もう大丈夫か?」と隊長から声をかけられた。
「はい・・・ちょっと待って下さい」
僕はフェルナンドを気持ちから、追い出して瘴気を感じ取ろうとした。
大丈夫、何もない。
「終わりました。ありません」と答えると隊長は改まって
「神子様、ありがとうございました」と頭を下げた。
みるとフェルナンドも他の護衛も頭を下げている。
うっと思ったら、フェルナンドが
「神子として応答しろ。皆、喜ぶ。安心する」と囁いて来た。
フェルナンドが言うなら頑張るよ。
「こちらこそ、ありがとう。ここまで怖い思いも危ない思いもしなかった。あなた方にこのハイタック王国を救う義理はなかった。それなのにわたしのわがままに付き合ってくれた。本当にありがとう」と言うと僕も頭を下げた。
隊長や護衛たちが引き上げの準備を始めるのを見て、僕は肩にかかったフェルナンドの手にそっと触れた。
あたたかい。この手が、僕を何度も守ってくれたんだ。
「フェルナンド」
呼ぶと、彼はいつものように何も言わず、ただ小さく笑った。
僕はもう一度、森の奥を振り返った。瘴気は消えている。もう安心だとわかった。
でも、まだ僕の中に残るものはある。
この神子の力はフェルナンドがいてこそだ。
帰ったらちゃんと話そう。フェルナンドが何をしてくれているのか。
どうしてこんなに心強いのか。
馬を引いて来た兵士が声をかけてくれた。僕は頷き、弓を背に回す。
「戻ろう。ルーク」
「うん」
肩に置かれた手が、今度は僕の背をそっと押した。
「帰ったら話したいことがある」
僕はそう言って、フェルナンドの手を取った。
未来を繋ぐために。これからはずっと二人だよ。の思いを込めて。
二人の話はこれで終わります。ルークをしゃんとさせられなくて、途中で息切れしましたが、なんとか二人をしっかりと結びつけることが出来ました。
読んでくださいましてありがとうございます。
何度も訓練を積んだ自国の兵たちが周りを囲んでいるし、僕自身も矢に付与を施している。
だから、道中に不安はないのだ。
それなのに、矢をつがえる手のひらが汗で湿る。
「大丈夫だ」
この声だ。フェルナンドの声で呼吸が楽になる。
僕の状態を察して声をかけてくれた。
「うん、フェルナンド」
嘘じゃない。
最初のころに比べたら、瘴気の冷気にも慣れた。
恐ろしいと思う気持ちも、もう少し奥に沈められるようになった。
それでも、僕の後ろに立つフェルナンドの存在が、
それ以上に心強いのはどうしてだろう。
「足元、抜かるんでる」
僕が一歩踏み出そうとしたとき、
フェルナンドが肩を掴んで引き留めた。
見ると、濁った瘴気がしみ出た水溜りが、苔むした根の陰に隠れていた。
一歩踏み外せば、膝まで嵌まっていただろう。
「ありがとう」
「俺はお前の護衛だ。守るさ」
そう言いながらも、フェルナンドの指はまだ僕の肩から離れない。
少し歩くたびに、背を押され、立ち止まれば気配が寄り添う。
矢を一本つがえ、狙いを定める。
瘴気の結節点を撃ち抜けば、浄化しやすくなるが、僕の弓の腕はまだまだだ。
結節点が見えるのは僕だけだから、もっと練習しないと・・・
僕はゆっくり息を吐き、腕を引き絞るが、腕が震えて狙いが定まらない。
「ルーク」名前を呼ばれただけだが、腕に力が戻った。背中に温かい手が触れた。
矢が吸い込まれていった。
瘴気がさーーっと晴れて行った。
フェルナンドのおかげだ。
フェルナンドが背中にいると、どれだけ瘴気が濃くても、胸の奥が静かになる。
結節点も見つかりやすい。不思議だ。
そう言えば、前に鎧熊を討伐したとき、チラッと思ったんだ。
今日は効き目がいいって。
あのときも、何かが守ってくれているようだった。
僕の魔法がそれはうまく巻きついて、鎧熊の脚を拘束したのだった。
あの頃、フェルナンドのことは、つきまとって来る面倒な人と思っていたけど・・・
「危ない」とフェルナンドが僕の体を後ろに引っ張ってくれた。
瘴気の残りが、生き物のように僕を目指して飛んで来た。
僕が避けて目標がなくなった瘴気の塊は行き場を無くしたのか?飛び散って消えた。
あれに人間が覆われたらどうなるのか?想像してゾッとした。
物思いにふけっている場合じゃなかった。
「ありがとう、ぼっとしてた」とお礼を言って、背を伸ばしてしゃんとした。
「ルーク。どうだ。この辺りは、もう大丈夫か?」と隊長から声をかけられた。
「はい・・・ちょっと待って下さい」
僕はフェルナンドを気持ちから、追い出して瘴気を感じ取ろうとした。
大丈夫、何もない。
「終わりました。ありません」と答えると隊長は改まって
「神子様、ありがとうございました」と頭を下げた。
みるとフェルナンドも他の護衛も頭を下げている。
うっと思ったら、フェルナンドが
「神子として応答しろ。皆、喜ぶ。安心する」と囁いて来た。
フェルナンドが言うなら頑張るよ。
「こちらこそ、ありがとう。ここまで怖い思いも危ない思いもしなかった。あなた方にこのハイタック王国を救う義理はなかった。それなのにわたしのわがままに付き合ってくれた。本当にありがとう」と言うと僕も頭を下げた。
隊長や護衛たちが引き上げの準備を始めるのを見て、僕は肩にかかったフェルナンドの手にそっと触れた。
あたたかい。この手が、僕を何度も守ってくれたんだ。
「フェルナンド」
呼ぶと、彼はいつものように何も言わず、ただ小さく笑った。
僕はもう一度、森の奥を振り返った。瘴気は消えている。もう安心だとわかった。
でも、まだ僕の中に残るものはある。
この神子の力はフェルナンドがいてこそだ。
帰ったらちゃんと話そう。フェルナンドが何をしてくれているのか。
どうしてこんなに心強いのか。
馬を引いて来た兵士が声をかけてくれた。僕は頷き、弓を背に回す。
「戻ろう。ルーク」
「うん」
肩に置かれた手が、今度は僕の背をそっと押した。
「帰ったら話したいことがある」
僕はそう言って、フェルナンドの手を取った。
未来を繋ぐために。これからはずっと二人だよ。の思いを込めて。
二人の話はこれで終わります。ルークをしゃんとさせられなくて、途中で息切れしましたが、なんとか二人をしっかりと結びつけることが出来ました。
読んでくださいましてありがとうございます。
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