気がついたら無理!絶対にいや!

朝山みどり

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第37話 秘密

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アリスは野菜の皮をむくと言うことを知らなかった。
「自信たっぷりにスープを作ったら美味しかった」とか言ったのに。

海の一族はがっかりするアリスを慰めながら、皮を向いて切った。

アリスも切るくらいは出来た。アレクが手出ししようとするのをデイビスとラズベリーが止めていると三人とも台所から追い出された。

ちなみにアリスは野菜を洗うと皮が取れると思っていたとかで、それを聞いた一族は優しく微笑んだ後、アリスのいない所で爆笑した。

鍋に野菜を入れて混ぜるのは慣れているから出来るとアリスが主張して、周りをハラハラさせたが、アリスのスープは出来上がった。

味見して一族は意外に美味しくて驚いた。食事に出すには少ないということで、おやつの時間に並べられた。

最初に長老のもとに運ばれた。バターを塗ったカリカリトーストと一緒に得意満面のアリスが運んだ。

「長老様、出来ました。手伝って貰いましたが。やっとお礼が出来ます。ここに来て『食べろ、食べろ』って言って貰えてほんと、嬉しかったです」とアリスがちょっと涙ぐんでお礼を言うと

「うん、アリちゃん。アリちゃんの気持ちはよくわかってた」と長老も涙をこぼした。
「いかん、いかん、せっかくだ楽しく食べよう」とスープとパンを食べて

「美味しいね。アリちゃん。上手に」と言うと残りは黙って食べて

「美味しかった。アリちゃんはどこか行きたいところあるかい?」と聞いた。

「ビザンの天の山に登りたい」とすぐにアリスは答えた。

「天の山」と長老はつぶやくと

「確かに行ってみたいな」とアリスに言った。

「でしょ、そこの果物を持って来たかったけど遠くてね」とアリスが言うと長老は優しく微笑んだ。


長老のところから戻って来たアリスに
「アリス、マグロが取れたって、今日も一緒に食べよう」と誘いが来た。

「あぁ美味しそう。だけどアレク様は忙しいから」とアリスが断っている頃

アレクは長老に呼ばれて部屋を訪ねていた。

緊張して部屋に入ったアレクを

「アレク殿、アリス様を助けていただいたお礼をしたいと思いまして」と長老が迎えて
「どうもありがとうございました。アリちゃんはほんとに可愛くて、家族です。娘であり妹であり孫です。感謝しております」と言うと深く頭を下げた。

やがて頭を上げた長老はアレクに椅子をすすめ自分も腰掛けた。そして後ろに立っている若者を孫だと紹介した。孫は頭を下げたが名乗らなかった。

「アリちゃんは天の山に登りたいそうだ」と長老がいきなり言った。

「そうですか!思ったよりあそこが気に入ったのですね。もう、体力は人並みですが、女性が登るのは無理ですね。でももう一度見に行こうかな」とアレクが答えると

「連れていけると言えば?」

「え?」

「川を上って行ける。我らは出来る」

「我らは水を操れる」

「気がつかなかったか? ビザンからの帰り」

「あーー穏やかだった」とアレクは思い当たった。

「アリちゃんがビザンに行ったのは気づかなかった。どういう事情か、教えて貰っても?」

「ある雨の夜、アリスを拾った」とアレクは話し始めた。


「なるほど、アリちゃんを海の上に連れて行ったのはよかった。多分、少し回復が早かっただろう。アリちゃんは我らと一緒に食事をとった。我らはアリちゃんに元気を出して欲しいといつも思っていた。そしてそんな思いを込めてお土産を渡していた。

アリちゃんは美味しかったとお礼を言うし、アリちゃんの面倒を見てる男にも分けていると言っていたな。そいつらも美味しいと言っているとお礼を言っていると・・・

そして、今回アリちゃんはお礼をくれた。思いを込めてくれた。ご馳走してくれた。海の一族と深く結びついた。
我らを使って良い。使ってくれ。天の山に行こう」と長老が言うと

「その、河を遡ることが出来るのか?」とアレクが震える声で言うと

「出来るぞ・・・そうだ・・・出来る。使っていいぞ?」と長老が目を細めて言うとアレクは

「軍を運べるのか?」とつぶやいた。

「運べるぞ」と長老がそのつぶやきを拾って答えた。

「そのときは・・・頼む」とアレクが言った。こめかみから汗が落ちた。

「あぁやるべき時にやれるようだな。アリちゃんを頼むに足る男だ」

「任せてくれ」とアレクは答えたが、自分の声が掠れているのに驚いた。


その夜もアレクとデイビスは酔い潰され、翌朝、得意顔のアリスに朝食の味噌汁をすすめられた。

なんとか、味噌汁と白いご飯を食べた二人は、海の一族と別れて王都に戻った。

アレクは特務部からの報告を聞くだけの、のんきな生活を送り、余った時間をアリスと遠乗りに行ったり町を歩いたり楽しく過ごした。


北の町で火事が起きた。その知らせを聞いて国王が炊き出しを命じた。次の順番はダイナ公爵家。ポーレットの実家だった。

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