上 下
16 / 25

茶番の始まり

しおりを挟む
フレデリックが遺産の横領と年金の横領を告訴したと聞いたブルークリフ伯爵は驚いた。フレデリックが遺産の事を知っているとは思わなかったからだ。

『魔力なし』が理由で廃嫡された平民なんて取るに足らない存在だ。あんなやつに金なんてもったいない。

私が有効に使ってやってるんだ。むしろ感謝して欲しいくらいだ。受け付けた担当者が気を聞かせてもみ消したと知らされて、今後の面倒を考えてフレデリックを殺して置くことにして、執事に言いつけた。

その後、学院の野営訓練で魔獣が普段より大量に発生して、護衛の騎士団と冒険者に犠牲者がでたり学院生にけが人がでた。

フレデリックはこのどさくさで殺されたと伯爵は信じて、ごみを消したとほっとした。


それなのにまた、フレデリックは役所に現れた。今度は窓口で騒いで帰ったと聞いた。騒いだだけらしいが・・・

担当者が恥ずかしい目に会ったらしい。


これ以上の面倒はごめんだ。自宅に呼び寄せて始末することにして、自宅に来るように連絡をいれた。

フレデリックはさっそく第二王子に知らせた。

第二王子は自宅ではなく王宮で会えばいいと会場を借りるよう手配させたが、ブルークリフ伯爵から泣きつかれたエース公爵の指示で職員はこれを認めなかった。

日にちを変えてもう一度提出したが、これも先約があるからと断られた。


三度目は第二王子の侍従も一緒に行ったが、断られた。

「平民の訴えですよね。それも魔力なしの。こういうのに関わるなんて少し考えが足りないのでは?会場なんて必要ないのでは?昼休みに騎士団の訓練場を借りると言うのはどうでしょうか?多分、伯爵様ご本人はいらっしゃらないと思いますが」と馬鹿にして言った。

「それはいいね、昼休みなら野次馬も集まるだろうから、効果的だよね。さすがオリバー君。いい助言をありがとう。手続きをして」

「はいはい」とオリバーは許可書をフレデリックに渡した。


その夕方から王城では謎の生物が看板を胸から下げて飛び回った。


『MM月DD日 昼休み 騎士団の訓練場においてブルークリフ伯爵が故伯爵夫人の遺産と年金を正当な相続人から奪い取った件について話し合いをします 野次馬大歓迎

尚、会場の使用については職員のオリバー君が許可を出してます』


オリバー君は上司に呼びつけられて、叱責された。命令に従ったのにと不満が残った。

ブルークリフ伯爵はエース公爵の助言で無視することにした。

騎士団、魔法師団は謎の生物の正体をさぐるべく追い回した。


生物は巧みに追っ手をかわし飛び回った。しまいには看板だけが飛び回った。

国王と王妃はお茶にかこつけて王子を呼んでこの件を話し合った。

第一王子も第三王子も看板を見に行っていた。第二王子はフレデリックに相談された事を包み隠さず正直に話した。

「書類を見せて貰いましたが、すべて本物です。フレデリックが言っている事は本当です。彼は平民ですのでもみ消すのもありかと思いました。王族としては正直で清廉であることは必ずしも正しいことでないことは承知しておりますが、わたくしはあくまで補佐の立場です」といいながら、国王に意味ありげな視線を送った。

「ただ補佐ですから、手を汚すのは厭いません」と王妃の目を見た。

「フレデリックは平民ですが、グリニッジは隣国の公爵令息です。味方にしておきたいかと。今後の為に」

第二王子はこれ以上の発言がまずいとわかっていた。今は口をつぐむ時だ。

「なるほど、そうだな。ジョージは見学に行くんだな」

「はい、もちろんです」

「おまえも行くといい」「あなたも行くといいわ」国王と王妃がこう言って王子三人は行くことになった。

「それでは当日現地で落ち合いましょう」とジョージはいつものように先に部屋を出たが、部屋を出た所で待っていた国王の侍従に案内されて別室へ姿を消した。


国王が退出するのを見送ったリチャードが部屋を出ると追いかけてきた国王の侍従に別の部屋へ案内された。


そのまま残った王妃はテリウスに明日、お茶に来るように誘った。





しおりを挟む

処理中です...