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お嬢様の事情と神を自称するオコジョ
しおりを挟むさて整理しよう。私の部屋じゃなくね。整理もするけどお迎えは明日だ。今日のところは物置きにガチガチに結界張った。
まず私、子爵家次女リリスはモブ悪侍女。その底意地の悪さから、家族に冷遇されるフェリシア様に付けられた。
次女で侍女なんっつて。
───下らない語呂合わせが出てしまう。ハッ、まさか前世は中年オヤジ!?
自分ごとは全然思い出せないのだ。数々の小説や漫画を読み漁っていたくらいしか。
この世界は読んだなかのどれかだった。タイトルは忘れた。ザマァを楽しみにしていたが未完だった筈。
終わってないのに何故特定できたのか、それはフェリシア様の瞳。
とんでもなく綺麗なアースアイなんである。ふちは深海色、メインは紫で神秘も神秘。
それを義母及び連れ子の義妹、実父までもが気味悪がった。
僻みブサイクはすっこんでどうぞ。
亡きお母様より受け継いだこの瞳が決め手となり、フェリシア様は帝国皇帝の血筋だと判明する。姉の娘の娘、なんて言うっけ。
姉君と親子ほど年の離れた弟だったので、皇帝の気分的にはフェリシア様母上が妹、フェリシア様が娘くらいと思われる。ややこし。
当時、帝国には我が王国の大使として侯爵閣下が在留していた。
継承争いが激化し内戦待ったなしの状況下、王国民に下された退避命令。侯爵の出発間際、友誼を結んだ帝国貴族が頼みごとをしてくる。
「どうか自分の娘を連れて行ってほしい」。
それが偽りだと互いに判っていながら、赤児を抱いた貴族は必死に訴えた。
貴族の妻は皇女の元家庭教師で、降嫁なされた皇女が身重であったという話も侯爵は知っていた。
そもそも赤児の瞳が唯一無二のアースアイ。帝国皇族のみに表れる証だ。
これは家族全てに出るものでもなく、眼の持ち主は皇家でとても尊重される。
当時それを持っていたのは後ろ盾もない末の弟皇子のみ。これが争いを大きくした。
新たなアースアイの姫君は更なる混乱を招くだろうと嫌でも想像がつく。
侯爵とっても悩んだ。調停には努力しつつ中立を保つよう王国の厳命があったから。
悩みに悩んだ彼を決断させたのは、貴族との友情と姫君の愛らしさである。夫妻は子宝に恵まれず、赤ちゃんの可愛さに二人して陥落したのだ。
国の代表としてはアレだが物語的には大正解。フェリシア様爆誕の立役者だもん。
……下手したら帝国から叛意ありと見做されてた。継承権に大きな影響を与える瞳の子供を匿うのだから。
国力差があり過ぎて旨味もないから侵略されずにいたのに、わざわざ火中の栗を拾ったようなもの。
象が無視していたのに、足元のネズミが爆弾持ってちょろちょろする感じかな。
設定した作者誰よって文句言いたくなる。
こうしてアルディアと名付けられ侯爵家養女として慈しまれた皇女の娘=フェリシア様の母上、はすくすくと成長し結婚、出産もした。だが自らの出自を知らぬまま儚くなられる。
お嬢様わずか七歳の時だ。お労しや。
最終的に争いに勝ったのは末の弟皇子で、姉君を大変慕ってらしたお方。アースアイもあったし必要なのは力をつける時間だった。
ただ終結までがあまりにも長すぎた。皇子も一度は亡命して雌伏の時を送り、帰国の機会がなかなか訪れなかった。
ようやく戻っても謀略暗殺の横行する荒れた期間が続く。
やっと国が落ち着いた頃には皇女も、皇帝がまだ存在を知らないその娘アルディア様も亡くなっていた。今も知らないままなのかな?
肉親にいずれは伝えなければ、と思いつつ敵味方の区別がつかず(生き残っていた例の貴族にも分からなかった)見極めを待った侯爵。いくら慕う姉君の娘とはいえ、二人目のアースアイに皇帝がどう出るかは誰にも分からない。
おまけに、本家たる帝室には一向に産まれぬアースアイがフェリシア様にまで出たからには慎重にならざるを得ない。
ルーツを伝えてあげられなかった侯爵はアルディア様の病没に寝込むほど落ち込んだ。
でもね、アルディア様は幸せだったと思うんだ。
優しい義両親に天使な娘。侯爵が亡くなるまでだが善き夫、善き父親を演じた男。
娘を案じながらも託せる人がいて、安らかな最期だったという。
アルディア様逝去から二年。領地に向かう道の落石事故で夫妻は還らぬ人となった。
そっからはっちゃけたアホ一人。
養女のアルディアがいなければ僕が養子になり侯爵子息だった! などと妄想を供述しており。
優秀さより優しさで婿を選んだ夫妻、涙目だよね。アースアイの話も知らない阿呆を選んだ面もあったかも。
お母様を愛してはいなかったけれど、騙し通し優しい夫を演じきったのだけは評価してやる。
だがそれから先は万死に値する。
愛人と連れ子を邸に迎え、常識ある使用人はクビにしお嬢様を虐げ始めたのだから。
調子こいてるがおまえ侯爵代理だからな!連れ子が侯爵令嬢を詐称してるの見て貴族は顔を顰めるか笑ってんだから!
あれ、小説でフェリシア様の出自は未出だったような? 何故私は知ったように語ってんだろ。
他にも、侯爵がアルディア様を預かった経緯も出てない気が……他と記憶混ざった?
まあいいや寝よう。
zzzzzzzzzzz……
「おい」
「お前だお前」
「起きろ」
うっさあ……、通りすがりの悪霊かな。
「そこのブス起きろ」
はぁ? 美少女には効かないんですが?
フェリシア様と生きる喜びで満たされる私、悪霊なんかに用はない。失せな!
「フェリシアはドブス」
「はぁあああ!? なんだゴルァ死にたいか目玉かっぽじって百万回転生し───、って痛ぁああ!?」
バチコーン! と小気味よく打たれベッドで蹲る。
「お前は呆れるほどフェリシア大好きだな」
見上げた先にはハリセンを担ぎ仁王立ちする白オコジョ。
「ダンジョン入り口辺りにいる経験値も入らなそうなザコ魔物にお前呼ばわり、かなしい……」
「本当に腹立つな貴様」
「なんですかぁ~フェリシア様貶したから呪うけど眠いからどっか行ってくださぁい~」
苛つきを示す尻尾フリフリがちょっと可愛いなんて思ってやらぬ!フェリシア様への暴言許すまじ。
「はあ……少しは驚け」
今更? 小説に転生して魔法の世界でモブ悪役でこれ以上驚けない。
待てよ、リリスなんて登場してたかな。
「名前なしの貴様はいた。フェリシアを虐め破滅する女だ。───ふっ、リリス・キャメロンか。『鉤鼻の悪魔』、お似合いだな」
あ、読心可能っすか。たしかに本来はこの時点でお助けキャラいないよね。
リリスはアダムの最初の妻で悪魔と言われてて、キャメロンは鉤鼻の意。外国の名前は散々調べたなーオタクの基本だよね。
悪いが私、鉤鼻じゃありませーん!
ちーっす美少女でっすオッスオッス!
ホホホ!
「…………この世界は何度もやり直している」
煽りスルーされた。よくある話ですね。
「ここは貴様も知る小説世界だ」
それもう知ってるし。で、なんでループってんの?
「作者がスランプで没を繰り返し、その度に世界はリセットされた。そんな傍迷惑な奴はあっさり死んだ」
没った分を繰り返し? そりゃ大変そう。
しかし異世界作っちゃう作家ってすごいね。けどフェリシア様が虐待受ける世界の創造者は鞭打ちだ。いやフェリシア様を産み出した恩人でもあり……うーん。
「作者は貴様だ、リリス・キャメロン!!」
ふぁ。
「頭に来るから詳細は省く。貴様の死で未完の世界は混迷を極めている。世界の意思が生まれ貴様に代わってリセットを繰り返し」
「だから貴様をとっ捕まえた! 上位神たる私が! わざわざ!」
「始末をつけろリリス・キャメロン。」
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