人妻ですがヒロインを装い学園に潜入捜査しています(続・ヒロインですが隠しキャラっぽいのがぐいぐい押して来ます)

とうこ

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ヒロイン、再び学園に

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 その日、カタルナ王立学園にひとりの少女が編入してきた。
 艶やかなピンクブロンドを地味な三つ編みにし、丸いデカダサ眼鏡をかけている。明らかに誰かのお古っぽい制服を着た冴えない少女だ。
「あ、あのう、編入手続きはどこで、」
 おどおどと話しかけられた生徒は舌打ちする。
「……平民が話しかけるな!」
 どんと突き飛ばされ尻餅をつく少女に、生徒は苦々しく吐き捨て立ち去る。
「あ、わたし平民じゃ……、」
 言葉は半端に途切れ唇に消えていく。



 俯いて肩を震わせる少女。誰かが見れば傷つき涙を堪えているように見える筈だ。
 だが彼女はそんなタマではなかった。



 〝これよこれ!! これぞシンデレラ型乙女ゲー!! どこでもドアマッティーな女の子が一発逆転ホームランの醍醐味!〟
 歓喜に笑いを噛み殺す少女の名はマリア・グレイシアン。だが現在はガトー男爵家の養女となったばかりのマリーである。
 ガトー男爵の知人の忘れ形見マリーは、義母と義妹にいびられ奨学金を受ける事でやっと入学できた───という設定。素性は嘘だがイビリは本当のこと。


 ガトー男爵は気の毒にも、マリアの養子先に指定されてしまったのだ。妻と娘の性格が非常に悪いという理由だけで選ばれた生贄。
 妻と別れたいが怖くて無理という事情を突き、全てが終われば追い出しに協力すると約束してある。元々男爵には想いあった恋人がいたが、現在の妻に押し切られてしまった。媚薬を盛られ既成事実を作られたのだ。
 恋人は独身のまま家庭教師で身を立てている。互いに三十四歳、今ならまだ間に合うかもとグレイシアに唆され、男爵は今回の件を受けたのだった。


 よく考えれば、性格の善し悪しに関係なくいきなり養女を引き取れば誰でも反発するだろう。そこは気の毒とマリアは思うが、虐めを躊躇わない母娘にはその気持ちも薄れるというもの。さてどうやって仕返ししよう。



 事の始まりは一ヶ月前。
 マリアは怒っていた。そりゃもう怒っていた。怒りが大きくて爆笑しそうになる程。
 ソファで足を組み、笑顔でふんぞり返り夫を睥睨する。
 妻の機嫌が最悪であると察したノエルは、沈黙の圧に耐えきれなかった。


「───何か言ってくれ」
「認知なさい、そんで私と別れて」
 無表情ながら絶望的な気配を漂わせるノエル。
「何かの間違いなんだ」



 ノエルは相変わらずパートタイム国王を辞められないでいる。問題だらけのカタルナ国だったがとりあえず経済に集中し、状況はかなり改善された。
 それがひと段落したところに問題が起きた。一部で国王の息子と噂されている少年の出現だ。


「隠し子の心当たりは?」
「……分かっているとは思うが、自称王子は十七歳だ。さすがに私も九歳で子は作れない」
「あら、グレイシアなら不可能ではないでしょう。ねえソウジュ?」
 守護獣の筈のソウジュは、ちいさな蛇くらいになりマリアに纏わりついている。
 なんならノエルより懐いて見える。
「……私が主なんだが」
 
 
 守護獣とはいうがかれらは自由だ。次男のカズサとハヤテは遊び友達だし、三男アレスターへの百葉ひゃくようの接し方は保護者目線寄り。ソウジュは頼れる相棒とノエルは考えていたが、ちょっと自信がなくなってきた。
 契約での縛りでなく初代が「心配だから子孫のそばにいてやって」と頼んだ、それだけ。守護獣の気分でここにいてくれている。過去にはそっぽを向かれた者もいた。
 かれらはいつでも異世界に帰れる。



「条件を飲めば別れないわ」
 妻の提案をノエルは散々渋ったが、結局は同意せざるを得なかった。
 マリアが学園に潜入し、王子らしき生徒を調査する。それが離婚回避の条件だった。


 全ての手続きは話を聞きつけた三男の従者、ガーシュが引き受け面白そうだと嬉々としていた。
「私も陰ながら付き添いましょう」
「あなたアレスターの従者でしょ」
「ご心配なく、自由な身です」
「ガーシュには正式な役職はないんだ」
「???」
「座敷童子のようなものと───、いや、良く言い過ぎか。親戚のおじさんとでも」
 おじさんて。どう見てもノエルより歳下。だが座敷童子というくらいなら普通ではないのだろう。
 食えない男だが有能だとマリアは思っている。ガーシュが一緒と聞きノエルが明らかに安堵していた。
 悪ノリ従者と怒りに燃える元ヒロインの組み合わせは最悪とも知らずに。



 そうしてマリア言うところの「シンデレラ型ドアマットヒロイン計画」が爆誕した。
 調査するのに全く必要ではない部分に注力し、ガーシュと詰めていった。
 誰も止める者がいないのでやりたい放題である。
 



 ドアマットヒロインをトレースし、気弱で優しい少女を演じるマリアは心から楽しんでいた。
 家に帰れば義母と義姉から嫌がらせを受け大人しく従っている。ただし心の債権ノートにしっかり記録していた。
 倍返しなんて優しいことは言わない。親切には親切、悪意には悪意で三倍くらいで返すのが彼女の流儀。
 事情を知る男爵が青くなって庇うのが、義母たちの苛立ちに拍車をかけていた。



「どう見ても学生にしか見えないわね、まあまだ十七だしそれに──、」
 姿見で制服姿をざっと確認し独りごちる。
 マリアは既婚だがまだ純潔である。夫は十八という年齢に拘り、それ以下に手出しすると弟にロリコン呼ばわりされると頑なだ。


 前世記憶のあるマリアにはよく理解できた。日本の影響が強いグレイシアならではだろう。同い年ならまだしも歳の差は八つ。やや強引に結ばれた婚姻と併せて考えれば、気が引けるのも分かる。
 一方でこのヘタレが、と苛立ちもあった。
 じゃなんで猛スピードで結婚したのと問えば「誰にも取られたくなくて焦った」と返されマリアは撃沈した。天然怖い。


 自分が今回の件で何故ここまで怒りを抱くのかマリアには分かっていない。
 十八の誕生日まで半月という時期に、夫婦仲に暗雲が立ち込めていた。



「養女? ヒロイン?? ……なんだこの計画案は」
 

 作戦名 マリーがウォッチ・プロジェクト

 1 本計画は「ドアマット型ヒロイン」をベースに実施する。

 2 マリア・グレイシアンは身分を隠しカタルナ国男爵家、ガトーの養女マリーとなる。詳細は別ページ。

 3 マリー・ガトーはカタルナ王立学園に編入しターゲットに接触、観察し行動方針を決定する。


 まだまだ続く計画案をノエルは丁寧に読み込んでいくが、頭痛を覚えざるを得ない。
「なぜ養女に?」
「あのふたりは組ませちゃダメだろ。なんでこれ許可したの」
 カズサがもっともな意見を述べる。
「許可も何も、既に始めているからな……」
「……あー、夫婦喧嘩中?」
「誤解だと言ったが機嫌が直らないままだ」


 義姉の性格は悪いが理不尽ではない。隠し子の件は明らかに冤罪にも関わらず、腹を立てているとすれば。
(……自分が知らない兄さんの過去に嫉妬? いやまさかね)
「これ以上マリアの機嫌を損ねたくない。カズサ、ドアマットヒロインとは?」
「それは女性向け作品用語で」
 この内容からして、マリアの憂さ晴らしを兼ねているのは確かだ。
 ドアマットの定義を兄に説明しながら、俺は何をさせられてるんだろうとカズサは虚しくなった。



「……これはもしかして、また『攻略対象』を落としていくのか」
「それは十九ページを見て。ターゲット以外には必要以上には接触しないらしい」
「だがマリアの魅力には抗えないぞ。あちらから来る」
「───一応、認識阻害のかかる眼鏡着用だから。彼女は浮気しないよ、倫理観はきちんとしてる」
 いやどうだろう。多分大丈夫。彼女の倫理観が仕事しなくなるのは、敵に対する報復の場合だ。
 人妻としての節度は保つはず。



「どうだろうな。私からの一方的政略結婚だ。歳も離れているし、マリアからすればおじさんかも知れない」
 弟の顔が宇宙猫になっているのも気づかずノエルはどんどん悲観的になる。
 うぜえ。口に出したいが兄がまた落ち込むのはもっとうざい。
 弟アレスターのツェリ症候群と同じだ。こんなところが似なくていいのに。
 カズサの虚しさは増すばかりだった。




 ドアマットごっこは楽しいが、乙女ゲーの主要部分、つまり攻略はやる気がない。
 だがターゲットとは出会っておきたい。なるべく自然な形で。だからテンプレをこなし誘き寄せようとした。



 なのに前よりも攻略対象っぽいのがホイホイ引っ掛かる。チョロすぎて面白くもなんともない。
 今更同年代の男にチヤホヤされても、マリアには全然響かないのだ。
 その理由は考えないようにする。
 ただ男が寄ってくる=テンプレがこなせる、なのでいい状況ではあった。



「きゃ、っ……」
 食堂で水をかけられて怯むマリア。むろん演技。不器用さと不遇を強調するため三つ編みは髪がピンピン跳ねている。さらさらヘアーに付け毛を使ってハネを作っているのだ。
(何これただの水じゃない! 甘い、甘いわ、泥水やスープとか色が付く汚れるものにしなさいよ。全くお嬢様はこれだから!)と内心で虐めにダメ出しをしている。
(やる事が半端なのよ! そんな細い体でぶつかられても困るの。倒れる演技もしなきゃいけないのに)
 細くても体幹を鍛えているマリアは令嬢アタックなど蚊に刺された程度にしか感じない。教科書破りは下らないが腹が立つ。本を破る行為が許し難い。
 自分ならばもっとネチネチと精神に来る攻撃をするのに。彼女らに虐め指導をしてやりたくなる。


「あら、この寒い時期に水浴びが趣味なの? 下々の考えは分からないわね」
「あ、わたし、あの」
 真っ黒な腹の中など微塵も感じさせない、産まれたての仔鹿のように頼りない少女。彼女を哀れみながら令嬢たちには逆らえず足早に通り過ぎる同級生。
 これぞテンプレート。
 マリアの中で「テンプレの歌」がラップ調で流れ始める。
 Hey,yo,テンプーレ乙、火に油っそれはテンプゥラ、火の用心でも寺炎上それはテンプゥル、金閣寺、本能寺、yoo yo! 火の元放火魔下克上にっ注意ーー!
 ……少し疲れてるわね、と自重する。
 


「アドリアナ様、その平民は寒そうですのでこちらを差し上げては?」
 程々に冷めた紅茶のカップが差し出されている。
「わ、わたし養女なので……、平民とは違くて、」
「みっともない言葉遣いだこと」


 頭からかけられる紅茶。クスクス笑う令嬢たちは、マリアの脳内で売れないラッパーが親指立てて紅茶はグッジョブ! してるなんて知る由もない。
「ああ! 制服が……、義母さんに怒られちゃう……、」
 ぐすぐすと泣き真似を始めるマリアに令嬢の溜飲が下がる。
「お分かり? 身の程知らずにもわたくしたちの婚約者に近づくのはもう」
「何をしているの?」
 穏やかな声に虐め令嬢たちは凍りついた。


 現れたのは美しい少年だが、グレイシア兄弟を見慣れたマリアからすれば普通の範疇と言える。
 この世界で一番の美形はカズサじゃないかと考えているが、どこかの小国におそろしく綺麗な王子がいると聞く。是非一度並べてみたい。


 呑気に美形について思考を巡らせていると、テンプレ真っ最中。
「あ、し、ショーン様。これは彼女がぶつかって来たのです」
「そうです! 危うくアドリアナ様がお怪我をなさるところでした。そうよね?」


 本命がかかった、真面目にやろう。前世で海釣りも嗜んだマリアは焦らずゆっくりリールを操る。
 巻いて緩めて、バレを防ぎ泳がせて。気づかれないよう手繰り寄せる。
「───わたし、ぶつかっていません……」



 これまで何度も虐めを受けたが、針にかかる男は外道──狙っていない魚──ばかり。
 絶好のアタリを手放すもんか。




「大変だったね」
 連れてこられたガゼボで、手渡されたハンカチを遠慮しつつ受け取る。
 顔を拭うふりでさりげなく眼鏡を外すと、ショーンが息を飲む気配がした。
 認識阻害つき眼鏡姿からの超美少女は効果抜群だ。
 追撃にアクアマリンの瞳を潤ませ上目遣いに語りかける。
「ショーン様は、尊いお方と聞きました。マリィに関わるのはよくないです」
 ちょっとIQが低下した喋りを心掛ける。
「ああ、気にしないで」
 否定も肯定もないがこの場合、大抵の人間は勝手に察する。ああやっぱり、と。詐欺師の手口だ。
「あ、あのう。ホントなんですか。王子さまって、えっと……ショーンさま、カッコ良くて、その、」
 邪気を押し隠し無邪気を装って小声で尋ねる。平民が好奇心を抑えきれず聞いてしまう、それは自然な流れだ。
 憧れと畏れ、好奇心。マリアの顔に浮かぶのは純粋なそれらにしか見えない。
「言えないんだよ、ごめんね」
 だからそれが肯定なんだよ! なんなら私が王妃だがテメーみたいな子はおらん!



「は、ハンカチは洗って返します!」
 深入りせずぺこぺこと謝ってその場を辞する。教科書探さなきゃ……、と聞こえよがしに倉庫裏に走った。



「黒ね」
「リアルブラックですね」
 待ち受けるガーシュと頷きあう。この目で確かめたかったのだ。ショーンがわざと周囲にそうと思わせているのか否かを。
「しかしお見事。私の出資する劇場に出演依頼したいくらいです」
「演出されて繰り返すお芝居には惹かれないわね」
 ナマの人間相手だから面白い。
「次の一手を打つ。ガーシュ、頼みがあるの。不本意だけどアレが必要だわ」




「……なんで僕が協力しなきゃいけないんだ。忙しいのに……」
「観念して口を閉じて」
 あれから数日。ぶつくさ文句を垂れるのはガーシュに拉致されてきたノエルの弟だ。
「こうしてる間にツェリが恋人でも作ってたら……! まあ始末するけど……」
 初恋を拗らせた義弟は特別イカれてるが優秀な魔術師だ。利用できる者はとことん利用するマリアは物騒な発言をスルーした。
「だいたいきみ、ノエルとは政略結婚でしょ。なんで隠し子でカリカリしてんの」
「黙れ根暗」
「うわっ、リア充こわ。ツェリ、ツェリ助けて。義姉が性格悪いよう」



 義弟の恋は絶対実らないと確信した。こんな情け無い根性曲がりを相手にする女性はいない。いたら余程の聖女さまかアレスターと同じ変人だ。もしくは財産狙い。
 もうひとりの義弟カズサとはいい具合の距離で付き合っている(互いに関わらないとも言う)が、アレスターにはイラッとさせられるので遠慮のカケラもない。
「ピィピィ鳴くな働け。あの子らにちゃんと保護かけてんでしょうね」
「ドラゴンが来ても無傷だよ、もう帰っていいかな」
「いいわけあるか! 嫁に来たとき私が小姑ムーブでツェリちゃんいびってもいいの?」
「やめて!! ツェリは天使で天女で妖精なんだ!! 悪魔にいびられたら天か妖精国に帰っちゃうよっ」



 誰が悪魔だこの童貞。てか妖精って。属性増やして渋滞してるけど。 
「再会してガッカリしないといいわね」
「きみみたいに性悪じゃないし」
「それだけ美人なら社交界の花でしょ」
「周辺各国の該当年齢ピンクブロンドは全て把握。魔力少なかったからたぶん妖精の悪戯で飛ばされた。妖精ホイホイを作って世界中に仕掛け1匹ずつ話を聞くつもり」


 あたおか。妖精を怒らせたら何があるか分からないのに。何十年かかるのそれ。
 マリアの首に襟巻きのように巻き付く百葉ひゃくようが呆れている気がした。主人に散々暴言を吐いているのに、傍らのガーシュは楽しげに微笑んでいるだけ。というか面白がっている。



 宿屋の一室、空中にモニター状の板が浮かび公園の一角が映し出されている。
 マリアの遠見の魔法だ。
 転生者は異世界の技術を確固たるイメージとして持つので、それに準じた特殊な魔法を操れる事が多い。
「ゴミ箱に集中して」
「なんでこんな回りくどい……」
「前世で読んだ小説のをやってみたかった」
「てか僕の役目は魔法だけだろ監視までは」
「はいはい」



 数日前、ガーシュがショーンの鞄にメッセージを入れた。
 〝秘密を知っている。公表されたくなければ金を用意しろ〟
 これで釣れるかどうか。中央公園の噴水そばのゴミ箱、二日後の午前に指定の金額を投入するよう指示した。
 子どもの小遣いでは無理だが宝石の一つも売れば払える額だ。



 ショーンは相手が誤解するような言動をしていた。だがそれはそもそもの噂あってのものだ。ノエルによればまず街に「学園に王子が在籍している」との噂が流れた。
 それが他の多くと同様、王に関する与太話として済まなかったのは何故か。
 誰かが意図的にやっているからだと、マリアとガーシュは結論付けた。



 街の浮浪児を雇い、昼過ぎに公園のゴミ箱を漁るよう指示した。怪しまれない為、いくつかを回った後に本命の場所に行くように。
 もし向こうが見張っていれば間違った相手に渡ってしまうと焦って妨害するはずだ。出てくるのが当人か、第三者か。
 あちらとて脅迫者を捕まえようとしているかも知れず、少なくとも見張りは置くに違いない。
 アレスターには子どもを守る役割と、場合により現れる人間の捕獲を命じている。



「鬼が出るか蛇が出るか、ね」
「鬼なら僕の隣にいる……」
「あ゛?」
 本当に口の減らない義弟だ。



「あっ! 今のオジさん新聞に隠してなんか入れてない?」
「追跡魔法かけとく」
「ありがとう。全員よろしく」
「人遣いが荒い……」
 遠隔でそんな魔法を使えるとは本物の天才だ。マリアは密かに舌を巻く。
 午前中にゴミ箱を利用したのは六人。スリをしたらしき浮浪児が空の財布をポイっとしていたがその子にもマーキングした。推理物では怪しくないのが怪しいとは定番だ。
 さすがにショーン当人は来なかった。



 午後になり、雇った子どもたちがゴミ箱に近づく。どきどきしながらゴミ漁りを見守っていると「やばい」とアレスターが呟き何かの魔法を展開した。
「!!?」

 
 ゴミ箱から閃光があがった。一拍置いて爆発したのだと理解すると、マリアはアレスターを引き摺り慌てて宿を飛び出す。
 ゴミ箱が粉微塵になっていた。辺りには既に野次馬が集まっている。
「あなたたち、大丈夫!?」
 第三者の振りで浮浪児たちに駆け寄ったが、爆発に驚き腰が抜けただけだった。
「ゴミ箱にも結界張ったから。それが無ければ半径30メテルは吹き飛んだよ。魔道具だ」
 脅迫者が取りに来ると見込んでの犯行だろう。アレスターの囁きに背筋が冷えると共に大きな怒りを覚える。罪のない人を巻き込む非道な遣り口は許せない。
「とりあえず、子どもたちを」


 三人の浮浪児は真っ当に運営されている教会の孤児院に預けた。寄付金を弾みくれぐれもよろしくと頼んだのは良心の呵責からだ。人を介し雇ったので謝罪はできないが、せめてもの償いに。



「………」
 転移で邸に戻れば玄関には仁王立ちした夫がいた。見れば自分の横にはガーシュしかいない。
「アレスター様は逃げましたよ。私も調査のため戻るので一旦失礼します」
 なんてことだ。



「もう行くな」
「……やりかけたのを途中で放り出したくないわ」
「きみも私も危機感が無さすぎた。巻き添えを厭わない危険な連中だ、これ以上は私の配下が動く」
「今消えたら怪しまれてガトー男爵が狙われる。いなくなるにせよ、せめて日を置きたいのよ」
「駄目だ」
「ノエル」



「見通しが甘くて大勢を危険に晒した。これは私のミスよ」
 アレスターに助けられたが罪悪感は消えない。
「───罠を張ったのは私。責任も取る」
「きみは私の妻だ、認められない」
 心配してくれているのは分かるけれど。
「なら離婚してくれて構わないわ」
 強がりではない。やり掛けを夫に任せて終わりなんて妻はごめんだ。
 溜息をつくノエルに、今度こそ愛想をつかされたかと瞼をぎゅっと閉じる。
「……きみが私を愛していないのは知っている。独りで立てる人だとも。だが手放せないんだ」
 え?
「見えない護衛は付けさせてもらう。無茶はしないと約束してくれ」



 言うだけ言って踵を返す背中を呆然と見送る。愛してないって何。たしかに流されたところは大きいが、なんの気持ちもない相手と結婚したと?
「……なんでこう、すれ違うのかなあ」 
 フィクションとは違い、結婚してめでたしめでたしとはいかないものだ。
 らしくもなくマリアは落ち込んだ。



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