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第6話 幼女の側室と第二の目標

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 この街・バータートの街は中規模の街で、街を治める貴族も位は高くない。
 ルネリッツ伯爵はまだ若く、親が急逝きゅうせいしたため爵位を継いだばかりだ。
 そのため母親に聞きながら政務を行っている。

「伯爵か。王族に会うなら問題のない爵位だな」

「そうだな。だがまだ若いから、王族からは軽く見られている。王族に近いのは母親の方だろう。実質街を取り仕切っているのは母親だからな」

 まだまだ仕事を覚えていないのに、父親が死んでしまったのだ。
 一番近くで、一番長く仕事を見ていたのは妻だろうから、母親が実権を握っていると見ていい。

「しかしな、ババアには興味がない。実権だけ握って捨ててしまおう」

「ね、ねぇシュウト? アタイも連れてってくれるのは嬉しいんだけどさ、この格好は……ちょっと慣れそうにないよ」

 豪華な馬車には修斗・パメラ・ギューの3人が乗っているが、貴族に会うためそれなりの礼服を着ている。
 修斗は子供向けの礼服、ギューはスーツの様な正装、パメラはドレスを着ている。
 髪もキレイに整えられ、パッと見ではパメラには見えない立派なレディーだ。

「お前はお飾りの人形だからな、何もしゃべらなくていい。いやしゃべるな」

「言われなくたって喋らないよ! 絶対に喋らない自信がある!」

 何の自信かは知らないが、喋らないのであれば修斗にとって都合がいい。
 かく言う修斗もあまり自信がない。
 なるべく穏便に王族まで繋がりたいが、無理なら力づくで行くつもりのようだ。

「見えてきたな。あれがルネリッツ伯爵の屋敷だ」

 貴族にしてはあまり大きな屋敷ではなく、どちらかというと武骨な造りに見える。
 鉄格子の様な門を馬車でくぐり、正面玄関には執事やメイドがたくさん並び、修斗達を迎え入れる。

「お久しぶりでございますギュー様。旦那様は中でお待ちでございます」

 仰々しく頭を下げた白髪の執事は、ギューの返事を待つことなく扉を開ける。
 両開きの扉が開くと、中には通路沿いに赤いカーペットが敷かれ、両脇にはメイドが頭を下げている。

 メイドだらけだ。

 礼儀作法に詳しくない修斗と、全く知らないパメラは内心ドキドキしていたが、ほとんどギューが進めたため、伯爵との面会も最初と最後の挨拶以外は何もしなくて良かった。

 いや、ある意味最も効果的だったのが修斗の笑顔だ
 リビングルームで静かに座り、笑顔でお茶を飲むだけの簡単なお仕事。

 ルネリッツ伯爵もその母親も、修斗の笑顔でイチコロだったのだ。
 それだけではなく、突然乱入したルネリッツ伯爵の娘まで虜にしてしまった。

「ねぇねぇシュウト! 遊びましょ! ほらお庭にきれいな花が咲いているから、花飾りを作ってあげる!」

 娘は9歳らしいが、金髪のロングストレートでとても活発だ。
 恐らくは美少女といっていい容姿で、場合によってはすでに婚約者がいるかもしれない。

 だが修斗は乗り気ではない。
 まず花飾りなんて欲しくないし、9歳なんて全くの守備範囲外だ。
 娘と一緒に入ってきたルネリッツ伯爵の妻の方がいい位に思っている。

「シュウト、行ってきなさい。私とパメラは伯爵と話をしているから」

 ギューが娘と遊ぶように勧める。
 それも仕方がない事で、さっきから伯爵たちは修斗の事ばかり聞いてきて、したい話を全くできないでいたのだ。
 それは修斗も理解していたので、仕方なく娘と遊ぶ事にした。



「ほらほらシュウト、出来たわ、これを頭に載せたら……おうじ様みたい!」

 屋敷の花畑に座り、修斗の頭には花冠が乗せられた。
 伯爵と居た時とは違い、全く笑顔を作らず、それどころか不機嫌な顔をしている。

「こんな偽物を乗せてもつまらん。俺が欲しいのは本物だ」
 
「え? シュウトは王子様になるの? じゃあ私がおよめさんになってあげる!」

 キラキラした目で修斗を見つめ、両手で修斗の左手を握る。
 しかし修斗は手を振りほどく。

「いらん。今のお前なんて何の価値もないただのガキだ」

「なによ、シュウトだって子供じゃない!」

「俺は子供じゃない。少なくともお前よりずっと大人だ」

 転生前は学生だったが、今の修斗にとって年齢は意味をなさない。
 少なくとも外見年齢は好きに選べるのだ。

「でも大丈夫だよ! お嫁さんになるのは大人になってからだから、大人になったらお嫁さんになってあげる!」

 面倒くさいガキだな。そう思いながら修斗は良い事を思いついた。

「おい。お前はこの国のお姫様を見た事があるか?」

「キャロライン様? あるよ! とってもきれいな人!」

「この屋敷に肖像画は無いのか?」

「ん~っとね、確か王様と一緒に書かれてたと思う」

「見に行こう」

 ガキに付いて行くと、どうやら肖像画があるのは食堂の様だった。
 食堂の上座、その背後には国王らしき人物と、その横にはお姫様らしい女性が書かれている。

「ほら! あれがキャロライン様よ! 私くらいにびじんでしょ?」

 どうやらこの娘、自分が美少女とでも思っているようだ。
 いや、事実美少女なのだが。
 しかし修斗はそんな言葉は耳に入っていなかった。絵を見つめ、姫に見入っているようだ。

 銀色で軽くウェーブのかかったロングヘアーで、耳元の髪を細く編み込み後ろでそろえている。凛々しさを持ちながらもあどけなさを残す目、控えめに微笑む小さな口、ドレスの上からでもわかる形の良い大きな胸。

 不敵な笑みを浮かべ、こう心に誓っていた『必ず手に入れてやる』と。

「おいお前。お前もお姫様くらいの歳になって、お姫様くらい美人になったら、側室にならしてやってもいいぞ」

「お前じゃないよ! ティナだよ! ソクシツってなに?」

「可愛がってやる、って事だ」

「うん! ティナそくしつになる!」

 フン! と鼻を鳴らし、食堂を後にする。
 修斗は頭の中で、キャロライン姫をどうやって犯そうかと考えていた。

「おかえりシュウト。ティナ嬢とは楽しく遊べたか?」

 まるで本当の父親のように振る舞うギュー。
 実は演技ではなく、養子でもいいから本当の息子になってほしいと思っている。
 しかしそんな事を知る由もない修斗は、息子の演技を続ける。

「はいお父様。ティナさんと楽しく遊べました」

 ティナと2人きりの時とは打って変わり、まるで本当に楽しんでいたかのように振る舞っている。ティナは側室にすると言われたことが嬉しい様で、その笑顔が更に周囲を誤解させる。

「パパ! シュウトね、私を可愛いって!」
 
 もちろん側室として可愛がる、を勘違いしているだけだ。

「そうか、それは良かった。シュウト君、今後もティナと仲良くしてやってくれ」

「ええ、こちらこそよろしくお願いします」

 修斗のステータスに【運】は無い。
 しかしこの時の修斗には、非常に幸運が巡って来ていた。
 ルネリッツ伯爵は翌日、王都へ向けて出発し、定期報告をする予定なのだ。
 もちろん沢山の貴族が集まり、王族も多数参加する。

 そこで修斗は、誓った事を実行に移す事になる。
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