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第25話 勇者の決意
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係員に呼ばれ、パメラは修斗に手を振って部屋を出て行った。
一方その頃、勇者サイドでも係員に呼ばれ、勇者が部屋を出る所だった。
「ねえレブ、本気でやってよね! あんな女なんてケチョンケチョンにして、ごめんなさいって言わせてよね!」
髪の長い女が勇者に向けて、何度も拳を突き出している。
もう1組の女と男も、言葉には出さないがうなずいている。
「ダメだよ。僕が本気を出したら死んじゃうじゃないか」
苦笑いで答えるが、本気を出せば勇者が持つスキル【すべてを打ち砕く力】によって、あらゆるものが破壊されてしまう。
勇者としては人を殺すのは避けたいのだろう。
「それに、強い人なら仲間になって欲しいからね」
「ええ~!? レブってああいうのが好みだっけ?」
「違う違う、確かにキレイな人だけど、単純に戦力として、だよ」
「そ、それならいいんだけどね」
「それよりも、その、帰ってきたら大事な話があるんだ」
「え? 大事な話って……なに?」
そう言いながら2人はしばらく見つめ合い、待ちきれなくなった案内員の咳払いで、慌てて勇者は部屋を出て行った。
決勝の会場入り口は闘技場の両端らしく、パメラとは会わずに入り口まで案内された。大きなアーチ状の入り口には鉄格子が降ろされ、勇者は一つの決意をした。
優勝したら結婚を申し込もう、と。
アナウンサーの声が会場に響き渡る。
「皆さんお待たせしました! いよいよ決勝戦が始まります! 勇敢に戦う2人の戦士を、どうか盛大な拍手でお迎えください!」
会場に拍手と歓声が巻き起こると、鉄格子が上げられ両者が姿を現す。
「青龍の門からは勇者と名高いガルタ・レーベン選手が、白虎の門からは仮面の戦士パメラ選手の入場です!」
ゆっくりと観客に手を振りながら歩く勇者に対し、パメラは手すら振らずに早足でステージ脇まで歩いている。
両者ともに応援する数が拮抗しているが、すでに勇者として知られるガルタ・レーベンに比べ、無名のパメラにもこれ程の歓声が上がるのは異例だろう。
真面目な顔で中央に向かう勇者に比べ、ニヤケたピエロの面を付けたパメラはふざけているようにしか見えない。
修斗の命令があるから真面目には戦うだろうが、仮面の下でもパメラはニヤケていた。修斗と婚約できたのが嬉しくて仕方がないのだ。
「さあそれでは決勝ステージにお上がりください! ちなみにステージから落ちたら負けとかペナルティーがあるとか、そういった事はございません! 一段高くなっていた方が見やすいからステージがあるだけです!」
ステージは縦横20メートルの石造りで、高さは1メートルほどだ。
1メートルとはいえ、受け身を取らずに落下した際の衝撃はかなりの物で、頭から落ちれば致命傷になりかねない。
「それでは準備はよろしいですか? よろしいですね!」
アナウンサーが発破をかけると、パメラと勇者は武器を抜く。
パメラは二本のナイフを、勇者は剣と盾を構えた。
「それでは参ります! 武術大会決勝戦! 開始!!」
アナウンサーの手が振り下ろされ、歓声もひときわ大きくなる。
最初に仕掛けたのはパメラだ。
姿勢を低くして突進し、低い位置からナイフを振り上げる。
一歩下がるだけでナイフをかわし、がら空きになっている横腹を剣で切ろうとする、が、もう一本のナイフがすでに突き出されており、慌てて盾で受け流す。
この距離はナイフに分がある様だ。そう考えた勇者はさらに一歩下がろうとするが、パメラはそれを追いかけて蹴りを放ち、勇者の腹に命中する。
大したダメージにはならず、勇者は数歩だけよろけたが、直ぐに体勢を立て直す。
「驚いた。準決勝を見ていましたが、アレよりももっと早く動けるんですね」
「準決勝? ああキャロラインとの戦いかい? アタイ、そんなに動いたっけ?」
パメラは動いたつもりが無くても、周りから見たらキャロラインは魔法を素早く躱《かわ》し、猛スピードで追撃をしていたのだ。
ただ……パメラからしたら軽くステップを踏んだくらいだ。
パメラとキャロラインには実力差があったが、勇者とはそれ程の差がない。
とはいえパメラには戦闘用のスキルが無く、勇者には一撃必殺のスキル『すべてを打ち砕く力』がある。
それを使われればパメラと言えど危険だろう。
「蝶のように舞い蜂のように刺す。機動力を重視するタイプの前衛の理想的な形です。僕はそれほど素早くはありませんが、ぜひパーティーに必要です!」
「何言ってんのか分かんないけど、機動力っていうならこれくらいはしなきゃ」
パメラが勇者に向けて先程よりも早い速度でダッシュし、直前で屈むとジャンプするような勢いでナイフを力いっぱい振り上げる。
勇者は辛くものけ反ってかわすが、パメラは勢い余って数メートルジャンプしてしまい、勇者からは恰好の的になってしまう。
「機動力があっても制御できていないようですね!」
上を向いて剣を構えるが、すでにパメラは反転し高速で下降していた。
「な!?」
落下速度も加わったパメラの攻撃を盾で防御した勇者は盾を吹き飛ばされ、更に着地したパメラに蹴り飛ばされてしまった。
「ど、どうしてあんなに早く下降を……」
「さ~て、どうしてだろうねぇ?」
一方その頃、勇者サイドでも係員に呼ばれ、勇者が部屋を出る所だった。
「ねえレブ、本気でやってよね! あんな女なんてケチョンケチョンにして、ごめんなさいって言わせてよね!」
髪の長い女が勇者に向けて、何度も拳を突き出している。
もう1組の女と男も、言葉には出さないがうなずいている。
「ダメだよ。僕が本気を出したら死んじゃうじゃないか」
苦笑いで答えるが、本気を出せば勇者が持つスキル【すべてを打ち砕く力】によって、あらゆるものが破壊されてしまう。
勇者としては人を殺すのは避けたいのだろう。
「それに、強い人なら仲間になって欲しいからね」
「ええ~!? レブってああいうのが好みだっけ?」
「違う違う、確かにキレイな人だけど、単純に戦力として、だよ」
「そ、それならいいんだけどね」
「それよりも、その、帰ってきたら大事な話があるんだ」
「え? 大事な話って……なに?」
そう言いながら2人はしばらく見つめ合い、待ちきれなくなった案内員の咳払いで、慌てて勇者は部屋を出て行った。
決勝の会場入り口は闘技場の両端らしく、パメラとは会わずに入り口まで案内された。大きなアーチ状の入り口には鉄格子が降ろされ、勇者は一つの決意をした。
優勝したら結婚を申し込もう、と。
アナウンサーの声が会場に響き渡る。
「皆さんお待たせしました! いよいよ決勝戦が始まります! 勇敢に戦う2人の戦士を、どうか盛大な拍手でお迎えください!」
会場に拍手と歓声が巻き起こると、鉄格子が上げられ両者が姿を現す。
「青龍の門からは勇者と名高いガルタ・レーベン選手が、白虎の門からは仮面の戦士パメラ選手の入場です!」
ゆっくりと観客に手を振りながら歩く勇者に対し、パメラは手すら振らずに早足でステージ脇まで歩いている。
両者ともに応援する数が拮抗しているが、すでに勇者として知られるガルタ・レーベンに比べ、無名のパメラにもこれ程の歓声が上がるのは異例だろう。
真面目な顔で中央に向かう勇者に比べ、ニヤケたピエロの面を付けたパメラはふざけているようにしか見えない。
修斗の命令があるから真面目には戦うだろうが、仮面の下でもパメラはニヤケていた。修斗と婚約できたのが嬉しくて仕方がないのだ。
「さあそれでは決勝ステージにお上がりください! ちなみにステージから落ちたら負けとかペナルティーがあるとか、そういった事はございません! 一段高くなっていた方が見やすいからステージがあるだけです!」
ステージは縦横20メートルの石造りで、高さは1メートルほどだ。
1メートルとはいえ、受け身を取らずに落下した際の衝撃はかなりの物で、頭から落ちれば致命傷になりかねない。
「それでは準備はよろしいですか? よろしいですね!」
アナウンサーが発破をかけると、パメラと勇者は武器を抜く。
パメラは二本のナイフを、勇者は剣と盾を構えた。
「それでは参ります! 武術大会決勝戦! 開始!!」
アナウンサーの手が振り下ろされ、歓声もひときわ大きくなる。
最初に仕掛けたのはパメラだ。
姿勢を低くして突進し、低い位置からナイフを振り上げる。
一歩下がるだけでナイフをかわし、がら空きになっている横腹を剣で切ろうとする、が、もう一本のナイフがすでに突き出されており、慌てて盾で受け流す。
この距離はナイフに分がある様だ。そう考えた勇者はさらに一歩下がろうとするが、パメラはそれを追いかけて蹴りを放ち、勇者の腹に命中する。
大したダメージにはならず、勇者は数歩だけよろけたが、直ぐに体勢を立て直す。
「驚いた。準決勝を見ていましたが、アレよりももっと早く動けるんですね」
「準決勝? ああキャロラインとの戦いかい? アタイ、そんなに動いたっけ?」
パメラは動いたつもりが無くても、周りから見たらキャロラインは魔法を素早く躱《かわ》し、猛スピードで追撃をしていたのだ。
ただ……パメラからしたら軽くステップを踏んだくらいだ。
パメラとキャロラインには実力差があったが、勇者とはそれ程の差がない。
とはいえパメラには戦闘用のスキルが無く、勇者には一撃必殺のスキル『すべてを打ち砕く力』がある。
それを使われればパメラと言えど危険だろう。
「蝶のように舞い蜂のように刺す。機動力を重視するタイプの前衛の理想的な形です。僕はそれほど素早くはありませんが、ぜひパーティーに必要です!」
「何言ってんのか分かんないけど、機動力っていうならこれくらいはしなきゃ」
パメラが勇者に向けて先程よりも早い速度でダッシュし、直前で屈むとジャンプするような勢いでナイフを力いっぱい振り上げる。
勇者は辛くものけ反ってかわすが、パメラは勢い余って数メートルジャンプしてしまい、勇者からは恰好の的になってしまう。
「機動力があっても制御できていないようですね!」
上を向いて剣を構えるが、すでにパメラは反転し高速で下降していた。
「な!?」
落下速度も加わったパメラの攻撃を盾で防御した勇者は盾を吹き飛ばされ、更に着地したパメラに蹴り飛ばされてしまった。
「ど、どうしてあんなに早く下降を……」
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