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第3章 異世界召喚
第97話 魔道具と呼び出し
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修斗達勇者一行がイルメリータント国を出てから随分と時間がたった。
そして今、目の前にはポルタ国でも最も被害が酷い街がある。
「通行証ってのは便利なものだな。本当にここまで止まる事なく来れるとは」
「町での対応も凄かったよね! 勇者ってだけじゃなくて、通行証を見せたら待遇が良くなったし」
「でもブタの手の上にいるみたいで……少し嫌だった」
通行証を見せて城門をくぐり町に入ると、町の中は寂しい物だった。
住民の往来は無く、兵士だけが慌ただしく動いているのだが、装備はすでにボロボロで、手入れが行き届いていない。
町に入る前から分かっていた事だが、街道は整備が行き届いておらず、かなり荒れている。
「町の外もひでぇ~もんだったがよぅ、中は中でひでぇもんだなぁ?」
「この分だと食事もままならないな。俺達は持ってきた分で補おう。ん? シュウト、どこへ行く」
修斗は馬から降り、何かに導かれるように歩いて行く。
みんなも馬から降りて後を付いて行くが、どうやら何かを加工しているのか、金属音がする。
その金属音がする場所の前で修斗は立ち止まり、中を覗き込む。
「おい、それは何を作っている」
中では1人の女性がハンマーで金属を叩いて加工しているが、扉を開けたにもかかわらず、音が五月蠅いせいか修斗の声が聞えていない。
建物の中に入り、すぐ後ろで作業を見ているが、女性は全く気付く気配が無い。
逆に面白くなったのか、いつになったら気付くのか、声を出さずに後ろで作業を見る事にした。
女性は茶色い髪を後ろで左右に三つ編みにし、作業用オーバーオール(肩から吊り下げるズボン)に長袖、たれ目でメガネをかけている。歳は15~6だろうか。
今は金属の板を金槌で叩いて丸めているが、道具を見るに鍛冶屋ではなく、細工師か何かだろうか。
「ふぅ~、こんなもんスかね」
作業がひと段落ついたようで、額の汗を拭って手を休める。
そして立ち上がろうとして悲鳴を上げた。
「ひやぁあ!? だ、だれッスか!?」
「これは何を作っているんだ?」
どうやら背後にいた修斗に驚いたようだ。
慌ててメガネをかけ直しているが、ふと外を見ると沢山の人間がいる事に気が付く。
「あ、あれ? お客さんッスか?」
「違う。何を作っていた」
「え、えっと、これはッスね、地下水を吸い上げる魔道具ッスよ」
「魔道具? 魔法を使って水を吸い上げるのか?」
女性は作りかけの金属を手に取り、喜々として説明を始める。
「魔法も使ってるッスけど、半分は構造的なもので吸い上げてるッスよ。これは水を吸い上げる管で、蛇口の近くに魔石を取り付けると、管の底に付いたポンプから水が吸い上げられる構造ッスよ」
「蛇口か。もしかして各家庭に蛇口があるのか?」
「全部の家庭にはまだないッスね。裕福な家庭か、人が集まる施設、飲食店なんかには入ってるッスよ」
蛇口は日本では当たり前だったが、異世界という場所に来てからは見た事が無い。
修斗自身は水を汲みに行く事は無く、常に近くに水瓶なり何なりに水が用意されている。
しかし水を汲みに行く労力を考えれば、もっと普及していてもおかしくないはずだ。
「なぜあまり使われないんだ?」
「その、高いんスよ、これ。水を沢山使う場所ならいいんスけど、一般家庭にはなかなか……」
女性が持っている金属を手に取り、まじまじと眺めている。
恐らくは金属製の水道管、その角に取り付ける部品だろう。
確かに手作業で作っていたのでは時間がかかり、コスト削減は難しいだろう。
金属を女性に手渡すと、今度は女性の手を取りマジマジと眺める。
「ふおぁ!? ななな、どうしたッスか!?」
実は修斗、日本にいる頃は職人の作業動画をよく見ていて、物を作りだす人物には敬意を払っていた。
女性の手は真っ黒で、作業をするため皮が分厚く、女性の手としてはあまりに武骨だ。
「美しい手をしているな。一朝一夕ではこの手にならない」
「そ、そんな事いわれたの初めてッス……お兄さん、変わった人ッスね」
「ちょっとアナタ! シュウト君に変わった人って、失礼じゃない!?」
「ご主人様は……変じゃない」
「え!? あ、ごめんなさいッス!」
アイカとヴァージニアが店に入り、女性に怒り始める。
だが修斗はそれをなだめている。
「気にするな、人と違う事は自覚している。それよりも他にもあるのか? 魔道具という物は」
「あるッスよ! 例えばコレは風が出て来る魔道具で、コレは料理に使える携帯竈、こっちは……」
どうやら色々話が出来て嬉しいのか、次々と魔道具を見せ始める。
修斗も楽しそうに話を聞いており、アイカは日本に在った道具に近いと喜び、ヴァージニアはキャンプ時の料理に使えると喜んでいる。
「お前、名はなんという」
「ラグズって言うッス。ラグって呼んでほしいッス! お兄さんは?」
「俺は修斗だ」
携帯竈(1口ガスコンロ)を買って店を出ると、ラグズはずっと修斗達に手を振って見送った。
取りあえずは今日の宿を探すのだが、そんな勇者一行を呼び止める者が居た。
「勇者様ご一行ですね? カイリ様がお呼びです、ご同行願えますか?」
そして今、目の前にはポルタ国でも最も被害が酷い街がある。
「通行証ってのは便利なものだな。本当にここまで止まる事なく来れるとは」
「町での対応も凄かったよね! 勇者ってだけじゃなくて、通行証を見せたら待遇が良くなったし」
「でもブタの手の上にいるみたいで……少し嫌だった」
通行証を見せて城門をくぐり町に入ると、町の中は寂しい物だった。
住民の往来は無く、兵士だけが慌ただしく動いているのだが、装備はすでにボロボロで、手入れが行き届いていない。
町に入る前から分かっていた事だが、街道は整備が行き届いておらず、かなり荒れている。
「町の外もひでぇ~もんだったがよぅ、中は中でひでぇもんだなぁ?」
「この分だと食事もままならないな。俺達は持ってきた分で補おう。ん? シュウト、どこへ行く」
修斗は馬から降り、何かに導かれるように歩いて行く。
みんなも馬から降りて後を付いて行くが、どうやら何かを加工しているのか、金属音がする。
その金属音がする場所の前で修斗は立ち止まり、中を覗き込む。
「おい、それは何を作っている」
中では1人の女性がハンマーで金属を叩いて加工しているが、扉を開けたにもかかわらず、音が五月蠅いせいか修斗の声が聞えていない。
建物の中に入り、すぐ後ろで作業を見ているが、女性は全く気付く気配が無い。
逆に面白くなったのか、いつになったら気付くのか、声を出さずに後ろで作業を見る事にした。
女性は茶色い髪を後ろで左右に三つ編みにし、作業用オーバーオール(肩から吊り下げるズボン)に長袖、たれ目でメガネをかけている。歳は15~6だろうか。
今は金属の板を金槌で叩いて丸めているが、道具を見るに鍛冶屋ではなく、細工師か何かだろうか。
「ふぅ~、こんなもんスかね」
作業がひと段落ついたようで、額の汗を拭って手を休める。
そして立ち上がろうとして悲鳴を上げた。
「ひやぁあ!? だ、だれッスか!?」
「これは何を作っているんだ?」
どうやら背後にいた修斗に驚いたようだ。
慌ててメガネをかけ直しているが、ふと外を見ると沢山の人間がいる事に気が付く。
「あ、あれ? お客さんッスか?」
「違う。何を作っていた」
「え、えっと、これはッスね、地下水を吸い上げる魔道具ッスよ」
「魔道具? 魔法を使って水を吸い上げるのか?」
女性は作りかけの金属を手に取り、喜々として説明を始める。
「魔法も使ってるッスけど、半分は構造的なもので吸い上げてるッスよ。これは水を吸い上げる管で、蛇口の近くに魔石を取り付けると、管の底に付いたポンプから水が吸い上げられる構造ッスよ」
「蛇口か。もしかして各家庭に蛇口があるのか?」
「全部の家庭にはまだないッスね。裕福な家庭か、人が集まる施設、飲食店なんかには入ってるッスよ」
蛇口は日本では当たり前だったが、異世界という場所に来てからは見た事が無い。
修斗自身は水を汲みに行く事は無く、常に近くに水瓶なり何なりに水が用意されている。
しかし水を汲みに行く労力を考えれば、もっと普及していてもおかしくないはずだ。
「なぜあまり使われないんだ?」
「その、高いんスよ、これ。水を沢山使う場所ならいいんスけど、一般家庭にはなかなか……」
女性が持っている金属を手に取り、まじまじと眺めている。
恐らくは金属製の水道管、その角に取り付ける部品だろう。
確かに手作業で作っていたのでは時間がかかり、コスト削減は難しいだろう。
金属を女性に手渡すと、今度は女性の手を取りマジマジと眺める。
「ふおぁ!? ななな、どうしたッスか!?」
実は修斗、日本にいる頃は職人の作業動画をよく見ていて、物を作りだす人物には敬意を払っていた。
女性の手は真っ黒で、作業をするため皮が分厚く、女性の手としてはあまりに武骨だ。
「美しい手をしているな。一朝一夕ではこの手にならない」
「そ、そんな事いわれたの初めてッス……お兄さん、変わった人ッスね」
「ちょっとアナタ! シュウト君に変わった人って、失礼じゃない!?」
「ご主人様は……変じゃない」
「え!? あ、ごめんなさいッス!」
アイカとヴァージニアが店に入り、女性に怒り始める。
だが修斗はそれをなだめている。
「気にするな、人と違う事は自覚している。それよりも他にもあるのか? 魔道具という物は」
「あるッスよ! 例えばコレは風が出て来る魔道具で、コレは料理に使える携帯竈、こっちは……」
どうやら色々話が出来て嬉しいのか、次々と魔道具を見せ始める。
修斗も楽しそうに話を聞いており、アイカは日本に在った道具に近いと喜び、ヴァージニアはキャンプ時の料理に使えると喜んでいる。
「お前、名はなんという」
「ラグズって言うッス。ラグって呼んでほしいッス! お兄さんは?」
「俺は修斗だ」
携帯竈(1口ガスコンロ)を買って店を出ると、ラグズはずっと修斗達に手を振って見送った。
取りあえずは今日の宿を探すのだが、そんな勇者一行を呼び止める者が居た。
「勇者様ご一行ですね? カイリ様がお呼びです、ご同行願えますか?」
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