ステータスを好きにイジって遊んでたら、嫁たちが国造りを始めました

内海

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第7章 改変された世界

第300話 既視感(デジャヴ)

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「ラグナ、ちょっとお使いを頼まれてくれませんか?」

 ある日の昼下がり、自室から出て来たラグナは執事に呼び止められた。
 執事の手には両手で持つには少し大きい程度の木箱が乗っている。

「はい、お届け物ですか?」

「ええ、この箱をギュー様のお屋敷へ届けて欲しいのです」

「傭兵団のギュー様ですね? わかりました、今からお届けします」

「お願いしますね」

 ラグナは木箱を受け取ると一礼し、静かに歩きだす。
 屋敷を出て大きな前庭を小走りで駆け抜けると、大きな鉄柵てっさくの門を抜けて出て行く。
 ギューの屋敷は歩いて行くには少々遠いが、ラグナは幼いころから執事となるべく訓練をされており、その中には剣技や体術もある。
 なので体力はかなりあるのだ。

 貴族の別荘通りを抜け、街の人混みをすり抜けるように駆け抜けていく。
 この街、バータートは比較的治安がいいとはいえ、通りを2本もそれればスラム街がある。
 スラム街には一応取りまとめ役がいるが、だからといっておいそれと入っていい場所ではない。

 今も少し裏に入った場所では、ガラの悪い男たちが言い争いをしている。
 ん? なにやら乱雑に切られた赤毛の女性が現れた様だが、その女性が男たちを数発殴り、争いが終わったようだ。
 その女性の後姿を見て思わず足を止めるのだが、女性がこちらに顔を向けそうだったので慌てて走り出す。

 10分ほど走り続けただろうか、貴族の別荘通りほどではないが高級な建物が立ち並ぶ場所に着いた。
 走るのをやめて歩くと、とある屋敷の前で足を止める。
 ひと際大きな屋敷だが、悪魔のような彫像が庭に並び、あちこちに金製品が飾られている。
 前庭には番犬が数匹放されており、あまり趣味のいい屋敷とは言えない。

「こんにちわ、私はルネリッツ伯爵の従者でラグナと申します。ギュー様にお届け物があり、お邪魔させていただきました」

 中にいる門番に伝えると、すでに見知った仲なのか軽い挨拶をしただけで門が開いた。
 門番と共に前庭を抜ければ番犬は襲って来ないようだ。
 そして屋敷の前に到着すると、すでに従者やメイドが数名まっている。

「こんにちわラグナ様。お忙しいなか、お勤めご苦労様です」

「こんにちわ。これが私の役目ですから」

 従者どうして軽く挨拶をし、ラグナは箱を渡そうとしたのだが……なぜか受け取らずメイドが屋敷の扉を開けた。

「ラグナ様、ギュー様がお待ちでございます」

 メイドは扉を開けたまま笑顔で……なぜか少し気の毒そうな笑顔をラグナに向ける。
 それは従者も同じで、本来なら従者が荷物を受け取るのだが、何故か屋敷に入るように促される。
 ラグナはため息をつくと、意を決したように屋敷に足を踏み入れる。

「おおー来たかラグナ! 遂に俺の物になる気になったか!?」

 吹き抜けのエントランスで、正面にある赤い絨毯の敷かれた階段の踊り場で、カッパのようにテッペンだけ髪がなく、三日月のような長い髭を生やした大男が両手を広げて出迎えた。

「お久しぶりでございますギュー様。私はルネリッツ伯爵に全てを捧げておりますので、残念ですがギュー様にはお仕えする事は出来ません」

 全く申し訳ないと思っていないが、形だけ頭を下げている。
 ギューが階段を降りてラグナの両肩をバンバンと叩く。

「ハッハッハッハ! それは残念だ! どれどれ、どれだけ成長したかな?」

 ギューは修斗の横に並ぶと、右手でラグナの尻をまさぐりだす。
 ラグナはゾゾゾと鳥肌が立って慌てて離れるが、なかなかどうしてギューは素早く、どこへ逃げても尻を触られてしまう。

「お父さま! ラグナは嫌がっておりますわ!」

 今度は2階の通路の手すりから、修斗と同じくらいの年齢(18歳)の黒髪の女性が声を荒げた。
 長い黒髪でかなりクセのあるが、とても清楚なドレスを着ている。

「ん? ハッハッハ、安心しろ、お前からラグナを取ったりはせん。たまに貸してくれればいい」

「お、お父様!? わ、私のではございませんわよ!? そ、その、ラグナさえよければそれでも良いのですが……?」

「こんにちわお嬢様。今日のドレスも良くお似合いですね」

 あまりにも当たり前な社交辞令に、ガクリと肩を落とす2人。
 それでも似合うと言われて嬉しいようだ。

「ああそれと、今日お邪魔したのはお届け物があるからです。こちらをどうぞ」

 手に持っていた木箱をギューに渡し、会釈をして帰ろうとしたのだが……きびすを返したラグナの肩を誰かが掴んだ。

「まあお茶でも飲んでいけ」

 ギューの怪力で掴まれては、ラグナでは逃げる事は不可能だ。
 居間に連れて行かれ、お嬢様と奥様が満面の笑みでラグナを迎える。
 ギューは箱を持って自室に戻ったようだ。

 居間のローテーブルにはすでにお茶の用意がされており、どうやらラグナが来ると聞いて準備をしていたようだ。
 諦めた顔で勧められるままにソファーに座り、談笑を始める。

 しかしこの居間には王族の絵画か飾られており、修斗はチラチラと絵画に目を奪われてしまう。
 絵画は3枚あり、現国王が赤いフカフカなマントを付けて立っている物、第一王子が剣を杖代わりにして立っている物、そして少し赤みがかったドレスをまとい、銀色で軽いウェーブのロングヘアーの王女だった。

「ラグナ? またキャロライン様の絵を見ているの?」

「あ、申し訳ありません。美しい絵だったのでつい」

「ラグナ? うちの娘も負けないほど美しいと思わない?」

「そうですね、とても美しい女性だと思います」

 ラグナは絵を見ていたと言ったのに、何故か美しい女性を見ていたと思われた様だ。
 実際キャロライン姫に見とれていたのだ、特にドレスの上からでもわかる形の整った大きな胸に。
 それと同時に胸騒ぎがしていた。
 絵でしか見た事の無い女性なのに、なぜかよく知っている感覚に襲われるのだ。

 と、ラグナがそんな事を考えている間、美しいと言われたお嬢様は、顔を真っ赤にして倒れそうになっていた。
 だが相変わらず社交辞令しか言わないラグナに、母親はため息をつくしかないのだった。
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