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第1章 ―出会い―
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全てはあの日から始まった___
私は夢咲亜里朱。生まれつき体が弱くて,内気で友達はほとんどいない。そんな私の唯一の救いは幼馴染の涼風夏沙だった。
夏沙は私と正反対の性格。強くて,私には優しくて…でも,夏沙には両親がいない。中2の頃に交通事故で亡くなった。それなのに夏沙は私のことを気にかけてくれている。ほんとは私が夏沙を助けなければならないのに私にはそれが出来ない。なぜならそれを出来るほどの何かを持っている訳ではないからだ。
それでも夏沙は大丈夫だと,微笑みながら言ってくれる。でも,私は分かってる。無理して微笑んでることくらい…
けれど,私の為なんだと思えば胸の奥の方がきゅっと締め付けられたように痛くなる。私にもう少し力があれば…
そう考えていた時だった。ちょうど6時間目の授業が終わったのだ。私はなにか部活に入っている訳でもないので学校が終わればすぐに家に帰る。ちなみに夏沙は美術部なので帰りは別々なことが多い。
私は教室から逃げるように走って家に向かう。両親に大切な話があると言われていたからだ。なぜかすごく嫌な予感がする。私は家に向かう足を速めた。
はぁ…久しぶりに走ったから流石に体力的にもきつい…
家に着いたはいいが1つ思ったことがあった。大切な話があると言っていたのに両親の靴が見当たらない。不幸に不幸は重なると言うから少し胸騒ぎがしていたが私はどこかに出かけているのかと思い,リビングに入った。机の上には何か置き手紙のようなものがあった。やはり不幸に不幸は重なり置き手紙にはこう書かれてあった。
「今日からお父さんとお母さんはフランスに行ってきます。亜里朱も連れて行きたかったんだけど…やっぱり知らない人だらけだと亜里朱も色々大変だと思ったので私たちだけで行くことにしました。あ,それと心配なのでシェアハウスにお世話になるように。地図と住所は裏側に書いているのでこれを見たら荷物をまとめてそこに行ってね~♪
お父さん,お母さんより」
え…?は?フラ…ンス…?
私の両親は旅行が大好きだ。それは私は知っていたが…まさかここまで酷いとは…娘を置いて海外に行くとか誰も考えないでしょ…
私は夏沙に連絡しようとしたが,やめた。私は色々混乱していて上手く話せる自信がなかったからだ。仕方なく私は置き手紙の通りに荷物をまとめてシェアハウスに向かうことにした。
シェアハウスって言われてもあまり想像出来ない。シェアハウスって一緒に同じところに住むって感じなはず…って家族じゃない人と!?なんて私は考えながら順調に手を進めた。
やっと荷物をまとめ終わり,私は両親の置き手紙と荷物を持ちシェアハウスに向かった。
シェアハウスは新築のアパートみたいで結構綺麗だった。扉を開くとロビーのようなところがあった。私は誰かが来るのを待つ為にロビーにあったソファーに座った。
そこにコツコツコツと2人が歩いてくる足音が聞こえた。2人は私に気付いたようで私に近づいてきた。私は
「…はじめましてっ…えっと両親からここでお世話になるように言われてて…その…」
と戸惑いつつ1番大切なことは伝えた。私はやっぱり怖くて俯いてしまっている。顔を上げたくても上げれない。彼らは少しの間話してから1人が私の頭を撫でた。思わず顔を上げると少しはねた茶髪に緑色の瞳をした少し身長が低い人が目の前にいた。彼は
「あ,お前が夢咲亜里朱だな?聞いてるぞ。俺はうらたぬき。うらたとでも呼べばいいよ」
と優しく微笑みながらそう言ってくれた。私は一瞬だけ懐かしい思い出が甦ったような気がしたが,それは勘違いだったようだ。頭を撫でてきたのも彼だったようだ。
うらたぬきと名乗る人の後ろには赤でいっぱいの人が立っていた。うらたより10cmくらい身長が高い。
「はじめまして!亜里朱ちゃん!俺は坂田。なかよーしてな?」
と人懐っこい笑みを私に向けながら坂田はそう言った。その時うらたは少し考え事をしていた。
「…ど,どうかしましたか?」
と尋ねてみる。うらたは何かを決心したような顔になれば私の肩を優しく掴んで
「俺と前に会ったことねぇか?」
と真剣そうに尋ねてきた。確かにうらたの姿を見た時は一瞬懐かしい思い出が甦った気がした。
「…えぇっと…会ったことあるような…ないような…」
と相手の問いに曖昧な返事をする。私は頭をフル回転させて今までの思い出を全て思い出そうとしていた。小学校の時に…同じクラスの人気者だったあの人…?少し心当たりのある人がいた。小学校の頃,確か小学6年間ずっと同じクラスだった人気者の男の子。確か結構モテてたっけ…まぁ,そこまで関わりはなかったけど…そんなことを考えていた時…
「小学校6年間同じクラスだったの覚えてねぇか…?」
と私が考えていたことと同じことをうらたは言ってきた。坂田はそれを心底不思議そうに眺めている。私は確信した。やっぱりあの人なんだって。
「…思い出したよ…私と小学6年間同じクラスだったのはうらただけだったから…」
と私がそっと目を閉じながら言えば不意に腕を引かれ,抱きしめられた。私は一瞬何が起きたのか理解出来なかった。誰だってそうだと思う。急に抱きしめられたら驚きすぎて状況理解不能になるだろう。私は今,その状況に至っている。
「えぇっと…ど,どーしたの?」
私は何と声をかけたらいいのか分からず,こんなことしか言えなかった。うらたは
「…少しの間だけでいいからこのままでいさせてくれ…」
と私の肩に顔を埋めながらそう言ってきた。耳元で声が聞こえる為,私は自分でも分かるくらいに顔が赤くなっていた。坂田は状況が理解出来ていないような顔で私たちを見ていたのだが,急に後ろから私を抱きしめてきた。
「!?!?!?!?」
声を出そうとしても声が出ない。前からと後ろからと抱きしめられているのだ。うらたはともかく,坂田は初対面だ。私はしばらく自分がどうなっているのか分からなかった。
「坂田,何してんだよ」
うらたは坂田が私に抱きついたことが気に入らなかったのだろうか…先程より少し低い声でそう言っては私の腕を取り,坂田と私を引き離した。
「うらさん,独り占めせんといてよ~」
と坂田は拗ねた子供のようにうらたに食いついていく。待ってこれどんな状況?私ここで暮らすの?不安しかない。
「お前は初対面だろうが」
うらたと坂田はまだ言い合いをしている。「お前は初対面だろうが」って…うらたも私とそこまで関わりなかったし初対面とそこまで変わりはないはずだ。そもそもそこまで関わりのない人を抱きしめること自体がおかしい。絶対おかしい。私は今までずっと男の人と関わるのを避けてきた。友達なんてもってのほか。女の子の友達すらいないんだもん。私が唯一信頼,信用出来るのは夏沙だけだから。
さて,こんなことを考えてるんじゃなくて…この状況をどうやって乗り越えたらいい…
「そーやけどさぁ…これから一緒に暮らすんやしええやんか~」
まだ言い合いをしてるのかこの2人は…私はうらたに抱きしめられている状況だ。もし…私がうらたから離れたらこの喧嘩は終わるんじゃ…?そうなら離れるのがいちばん1番だと考えた私は,うらたから離れる為に精一杯暴れた。これでどーだ…!と思っていたが…うらたは私のことを先程以上に強く抱きしめて動きを制限してきた。
「これ以上暴れるなら…俺の部屋に連れてくぞ?」
と耳元で囁いてくる。私に選択肢というものはないようだ。私は今更そう気付く。
「そんなの嫌…」
部屋に連れていかれるなど真っ平ごめんだ。そんなことになるなら大人しくしていよう。そう考えて私は大人しく抱きしめられていることにした。こんな無意味な喧嘩ってなにか楽しいのかなとか私は暇なのでそんな無駄なことを考えていた。体が弱いってほんとに辛い…もっと力があればとか1人になった時によく思う。誰かの力になれるような,もっと頼れるような,そんな人に生まれたかった。こんな体は弱くて何も出来ないような…そんな人じゃなくて。こんなことを考えることが無駄なのは分かっている。でも,心の底から思っていることでもあるのだ。ずっとずーっと幼い頃から思っていた。何では私は皆と違うんだって。幼い頃の私は少し走るだけでも倒れそうになるほど体が弱かった。少しずつ大人に近づくにつれ,倒れることは少なくなったが体は弱いままだ。もっと強くなりたい。誰かを支えられる人になりたい。そんな私の願いは神に届くことなく儚く散っていく。
「やっと大人しくなった」
私はまた深く考え事をしていたのか…うらたの声でやっと我に返った。うらたはいたずらっぽく笑い,私の耳にふぅっと息を吹いてきた。
「!?!?!?!?」
驚いた。ただそれが純粋に思ったことだった。何がしたいのか分からない。今の私は完全にうらたに動きを制御されているのだ。私を好きにすることなど可能なことなのに…わざわざ耳に息を吹きかけてくる意味が分からない。
「ははっ!耳まで真っ赤!可愛い…」
最後の言葉は私にだけ聞こえるように耳元で囁いてきた。
「か…可愛いとか…簡単に言わないでっ…」
坂田はつまらなさそうに私たちを見ている。こんなことを人前で出来るとか一体どういう神経をしているのだろう。見せつける必要性は全くと言っていいほどにない。というか,私は誰のものでもない。そもそも誰のものにもなりたくない。
「うらさーん…独り占めしんといてってば~…」
坂田はまるで拗ねた子供のようにぶつぶつと呟いていて,急にうらたから私を引き離し抱きしめてきた。私はこの数分間でなんど抱きしめられたらいいのか…私は抵抗しても無駄なことは分かっている。この数分間で唯一学んだことだ。この2人は一応男なのだ。私なんかの力じゃ絶対に勝てない。私は大人しく抱きしめられていることにした。
「坂田。勝手に取んなよ」
勝手に取んなって…何度も言うけど,私は誰のものでもないから。そう言いたくなったがやめた。余計物事がややこしくなるだけだ。もっとひどい喧嘩に繋がる。私にはもはや自由がなくなっていた。そこに…
「うらたん何怒ってんのー?」
黄色の人が現れた。それに続くように
「騒がしいと思ったら…」
紫の人も現れた。私は余計にパニックになり,坂田の腕の中で暴れ始めた。でも,なかなか抜け出せない。
「その子,夢咲亜里朱ちゃん?」
黄色の人は私を見るなりそう尋ねてきた。私はこくっと頷いた。見た目からしてかなりチャラそうだ。
「こらこら。離れて」
紫の人は私と坂田を離してくれた。
「あ…ありがとうございます…夢咲亜里朱…です」
お礼と自分の名前を言った。今のところ男の人しかいない…どうしよう。こんなところで住めと…?娘が男子恐怖症なのを分かってて私の両親はわざわざここを選んだの?色々考えすぎて今にでも頭痛がしそう。
「いやいや。こちらこそごめんね?俺は志麻。なかよーしてな」
紫の人は自分のことを志麻と名乗った。この中では1番まともそうな人だ。
「俺はセンラ。亜里朱って言ったっけ?よろしくなぁ」
黄色のチャラそうな人はセンラと名乗った。見た目だけでもチャラそうだと思っていたけど話し方からしてやはりチャラい。自然とため息が出そうになったが,それを抑えた。
「…よろしくお願いします…」
俯きながらそう言う。今すぐにでもこの場を逃げ出したい。でも,それは叶わぬことなのは私にはもう分かる。両親からお世話になるようになると言われているのにそれを破る訳にもいかないのだ。両親に心配をかけることはもうしたくないから。
うらたと坂田は不服そうな顔をしている。ほんとにこんなところで暮らすのか…あまり自信はないがこれはこれで仕方ないことだ。
「亜里朱。俺が部屋案内する。」
うらたは私の手を引いてシェアハウスの奥へと進んで行く。うらたの耳は少し赤くなっていたが私は気にしなかった。まさかあんなことになるなんてこの頃の私は想像もしていなかったから…
私は夢咲亜里朱。生まれつき体が弱くて,内気で友達はほとんどいない。そんな私の唯一の救いは幼馴染の涼風夏沙だった。
夏沙は私と正反対の性格。強くて,私には優しくて…でも,夏沙には両親がいない。中2の頃に交通事故で亡くなった。それなのに夏沙は私のことを気にかけてくれている。ほんとは私が夏沙を助けなければならないのに私にはそれが出来ない。なぜならそれを出来るほどの何かを持っている訳ではないからだ。
それでも夏沙は大丈夫だと,微笑みながら言ってくれる。でも,私は分かってる。無理して微笑んでることくらい…
けれど,私の為なんだと思えば胸の奥の方がきゅっと締め付けられたように痛くなる。私にもう少し力があれば…
そう考えていた時だった。ちょうど6時間目の授業が終わったのだ。私はなにか部活に入っている訳でもないので学校が終わればすぐに家に帰る。ちなみに夏沙は美術部なので帰りは別々なことが多い。
私は教室から逃げるように走って家に向かう。両親に大切な話があると言われていたからだ。なぜかすごく嫌な予感がする。私は家に向かう足を速めた。
はぁ…久しぶりに走ったから流石に体力的にもきつい…
家に着いたはいいが1つ思ったことがあった。大切な話があると言っていたのに両親の靴が見当たらない。不幸に不幸は重なると言うから少し胸騒ぎがしていたが私はどこかに出かけているのかと思い,リビングに入った。机の上には何か置き手紙のようなものがあった。やはり不幸に不幸は重なり置き手紙にはこう書かれてあった。
「今日からお父さんとお母さんはフランスに行ってきます。亜里朱も連れて行きたかったんだけど…やっぱり知らない人だらけだと亜里朱も色々大変だと思ったので私たちだけで行くことにしました。あ,それと心配なのでシェアハウスにお世話になるように。地図と住所は裏側に書いているのでこれを見たら荷物をまとめてそこに行ってね~♪
お父さん,お母さんより」
え…?は?フラ…ンス…?
私の両親は旅行が大好きだ。それは私は知っていたが…まさかここまで酷いとは…娘を置いて海外に行くとか誰も考えないでしょ…
私は夏沙に連絡しようとしたが,やめた。私は色々混乱していて上手く話せる自信がなかったからだ。仕方なく私は置き手紙の通りに荷物をまとめてシェアハウスに向かうことにした。
シェアハウスって言われてもあまり想像出来ない。シェアハウスって一緒に同じところに住むって感じなはず…って家族じゃない人と!?なんて私は考えながら順調に手を進めた。
やっと荷物をまとめ終わり,私は両親の置き手紙と荷物を持ちシェアハウスに向かった。
シェアハウスは新築のアパートみたいで結構綺麗だった。扉を開くとロビーのようなところがあった。私は誰かが来るのを待つ為にロビーにあったソファーに座った。
そこにコツコツコツと2人が歩いてくる足音が聞こえた。2人は私に気付いたようで私に近づいてきた。私は
「…はじめましてっ…えっと両親からここでお世話になるように言われてて…その…」
と戸惑いつつ1番大切なことは伝えた。私はやっぱり怖くて俯いてしまっている。顔を上げたくても上げれない。彼らは少しの間話してから1人が私の頭を撫でた。思わず顔を上げると少しはねた茶髪に緑色の瞳をした少し身長が低い人が目の前にいた。彼は
「あ,お前が夢咲亜里朱だな?聞いてるぞ。俺はうらたぬき。うらたとでも呼べばいいよ」
と優しく微笑みながらそう言ってくれた。私は一瞬だけ懐かしい思い出が甦ったような気がしたが,それは勘違いだったようだ。頭を撫でてきたのも彼だったようだ。
うらたぬきと名乗る人の後ろには赤でいっぱいの人が立っていた。うらたより10cmくらい身長が高い。
「はじめまして!亜里朱ちゃん!俺は坂田。なかよーしてな?」
と人懐っこい笑みを私に向けながら坂田はそう言った。その時うらたは少し考え事をしていた。
「…ど,どうかしましたか?」
と尋ねてみる。うらたは何かを決心したような顔になれば私の肩を優しく掴んで
「俺と前に会ったことねぇか?」
と真剣そうに尋ねてきた。確かにうらたの姿を見た時は一瞬懐かしい思い出が甦った気がした。
「…えぇっと…会ったことあるような…ないような…」
と相手の問いに曖昧な返事をする。私は頭をフル回転させて今までの思い出を全て思い出そうとしていた。小学校の時に…同じクラスの人気者だったあの人…?少し心当たりのある人がいた。小学校の頃,確か小学6年間ずっと同じクラスだった人気者の男の子。確か結構モテてたっけ…まぁ,そこまで関わりはなかったけど…そんなことを考えていた時…
「小学校6年間同じクラスだったの覚えてねぇか…?」
と私が考えていたことと同じことをうらたは言ってきた。坂田はそれを心底不思議そうに眺めている。私は確信した。やっぱりあの人なんだって。
「…思い出したよ…私と小学6年間同じクラスだったのはうらただけだったから…」
と私がそっと目を閉じながら言えば不意に腕を引かれ,抱きしめられた。私は一瞬何が起きたのか理解出来なかった。誰だってそうだと思う。急に抱きしめられたら驚きすぎて状況理解不能になるだろう。私は今,その状況に至っている。
「えぇっと…ど,どーしたの?」
私は何と声をかけたらいいのか分からず,こんなことしか言えなかった。うらたは
「…少しの間だけでいいからこのままでいさせてくれ…」
と私の肩に顔を埋めながらそう言ってきた。耳元で声が聞こえる為,私は自分でも分かるくらいに顔が赤くなっていた。坂田は状況が理解出来ていないような顔で私たちを見ていたのだが,急に後ろから私を抱きしめてきた。
「!?!?!?!?」
声を出そうとしても声が出ない。前からと後ろからと抱きしめられているのだ。うらたはともかく,坂田は初対面だ。私はしばらく自分がどうなっているのか分からなかった。
「坂田,何してんだよ」
うらたは坂田が私に抱きついたことが気に入らなかったのだろうか…先程より少し低い声でそう言っては私の腕を取り,坂田と私を引き離した。
「うらさん,独り占めせんといてよ~」
と坂田は拗ねた子供のようにうらたに食いついていく。待ってこれどんな状況?私ここで暮らすの?不安しかない。
「お前は初対面だろうが」
うらたと坂田はまだ言い合いをしている。「お前は初対面だろうが」って…うらたも私とそこまで関わりなかったし初対面とそこまで変わりはないはずだ。そもそもそこまで関わりのない人を抱きしめること自体がおかしい。絶対おかしい。私は今までずっと男の人と関わるのを避けてきた。友達なんてもってのほか。女の子の友達すらいないんだもん。私が唯一信頼,信用出来るのは夏沙だけだから。
さて,こんなことを考えてるんじゃなくて…この状況をどうやって乗り越えたらいい…
「そーやけどさぁ…これから一緒に暮らすんやしええやんか~」
まだ言い合いをしてるのかこの2人は…私はうらたに抱きしめられている状況だ。もし…私がうらたから離れたらこの喧嘩は終わるんじゃ…?そうなら離れるのがいちばん1番だと考えた私は,うらたから離れる為に精一杯暴れた。これでどーだ…!と思っていたが…うらたは私のことを先程以上に強く抱きしめて動きを制限してきた。
「これ以上暴れるなら…俺の部屋に連れてくぞ?」
と耳元で囁いてくる。私に選択肢というものはないようだ。私は今更そう気付く。
「そんなの嫌…」
部屋に連れていかれるなど真っ平ごめんだ。そんなことになるなら大人しくしていよう。そう考えて私は大人しく抱きしめられていることにした。こんな無意味な喧嘩ってなにか楽しいのかなとか私は暇なのでそんな無駄なことを考えていた。体が弱いってほんとに辛い…もっと力があればとか1人になった時によく思う。誰かの力になれるような,もっと頼れるような,そんな人に生まれたかった。こんな体は弱くて何も出来ないような…そんな人じゃなくて。こんなことを考えることが無駄なのは分かっている。でも,心の底から思っていることでもあるのだ。ずっとずーっと幼い頃から思っていた。何では私は皆と違うんだって。幼い頃の私は少し走るだけでも倒れそうになるほど体が弱かった。少しずつ大人に近づくにつれ,倒れることは少なくなったが体は弱いままだ。もっと強くなりたい。誰かを支えられる人になりたい。そんな私の願いは神に届くことなく儚く散っていく。
「やっと大人しくなった」
私はまた深く考え事をしていたのか…うらたの声でやっと我に返った。うらたはいたずらっぽく笑い,私の耳にふぅっと息を吹いてきた。
「!?!?!?!?」
驚いた。ただそれが純粋に思ったことだった。何がしたいのか分からない。今の私は完全にうらたに動きを制御されているのだ。私を好きにすることなど可能なことなのに…わざわざ耳に息を吹きかけてくる意味が分からない。
「ははっ!耳まで真っ赤!可愛い…」
最後の言葉は私にだけ聞こえるように耳元で囁いてきた。
「か…可愛いとか…簡単に言わないでっ…」
坂田はつまらなさそうに私たちを見ている。こんなことを人前で出来るとか一体どういう神経をしているのだろう。見せつける必要性は全くと言っていいほどにない。というか,私は誰のものでもない。そもそも誰のものにもなりたくない。
「うらさーん…独り占めしんといてってば~…」
坂田はまるで拗ねた子供のようにぶつぶつと呟いていて,急にうらたから私を引き離し抱きしめてきた。私はこの数分間でなんど抱きしめられたらいいのか…私は抵抗しても無駄なことは分かっている。この数分間で唯一学んだことだ。この2人は一応男なのだ。私なんかの力じゃ絶対に勝てない。私は大人しく抱きしめられていることにした。
「坂田。勝手に取んなよ」
勝手に取んなって…何度も言うけど,私は誰のものでもないから。そう言いたくなったがやめた。余計物事がややこしくなるだけだ。もっとひどい喧嘩に繋がる。私にはもはや自由がなくなっていた。そこに…
「うらたん何怒ってんのー?」
黄色の人が現れた。それに続くように
「騒がしいと思ったら…」
紫の人も現れた。私は余計にパニックになり,坂田の腕の中で暴れ始めた。でも,なかなか抜け出せない。
「その子,夢咲亜里朱ちゃん?」
黄色の人は私を見るなりそう尋ねてきた。私はこくっと頷いた。見た目からしてかなりチャラそうだ。
「こらこら。離れて」
紫の人は私と坂田を離してくれた。
「あ…ありがとうございます…夢咲亜里朱…です」
お礼と自分の名前を言った。今のところ男の人しかいない…どうしよう。こんなところで住めと…?娘が男子恐怖症なのを分かってて私の両親はわざわざここを選んだの?色々考えすぎて今にでも頭痛がしそう。
「いやいや。こちらこそごめんね?俺は志麻。なかよーしてな」
紫の人は自分のことを志麻と名乗った。この中では1番まともそうな人だ。
「俺はセンラ。亜里朱って言ったっけ?よろしくなぁ」
黄色のチャラそうな人はセンラと名乗った。見た目だけでもチャラそうだと思っていたけど話し方からしてやはりチャラい。自然とため息が出そうになったが,それを抑えた。
「…よろしくお願いします…」
俯きながらそう言う。今すぐにでもこの場を逃げ出したい。でも,それは叶わぬことなのは私にはもう分かる。両親からお世話になるようになると言われているのにそれを破る訳にもいかないのだ。両親に心配をかけることはもうしたくないから。
うらたと坂田は不服そうな顔をしている。ほんとにこんなところで暮らすのか…あまり自信はないがこれはこれで仕方ないことだ。
「亜里朱。俺が部屋案内する。」
うらたは私の手を引いてシェアハウスの奥へと進んで行く。うらたの耳は少し赤くなっていたが私は気にしなかった。まさかあんなことになるなんてこの頃の私は想像もしていなかったから…
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