【完結】その少年は硝子の魔術士

鏑木 うりこ

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海へ

39 波乱の出航

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「気をつけて」

「はい」

 俺は船の上にいる。ギアナ様と住んでいたお屋敷はバチュール国の左側にある。地図上で海の上を右に進み、左の港から右の港へ。そこから陸路で上へ進み、麦畑が広がると言うリザ国を通過。
 そのまま上に、北上すれば俺たちが住んでいたウィシュバーグ国の南は近い。爺ちゃまは南の領土を貰っているので、比較的すぐに着けるはず。

 爺ちゃまから手紙の返事も来た。皆んな無事で爺ちゃまのお屋敷に居るそうだ。ひとまず安心した。
 怪我も良くなったのでギアナ様からお許しが出たのだ。

「仕事が片付いたら、俺が迎えに行くから!」

「や、やめてください!その間商会はどうするんですか?!」

 長旅になるんだから、1番偉いギアナ様が決裁しないといけないことは沢山あるでしょう!

「いや!だかしかし!……何とかする!」

 子供じゃないんだから、1人で行けますって。

「リトは可愛いから!人攫いに狙われるかもしれん!」

「大袈裟ですよー!」

「そんな事はない!」

 ザラザラの舌で舐めまわされそうな勢いだ。と言うか実際舐めまわされたりしている。

「リトの……リトのお母さんに結婚の許しを貰わねばならんだろう?」

「あ……っ!えへへ……嬉しいです」

 ギアナ様はサラやんの

「こんぜんこーしょーはなしやで!」

 を忠実に守ってくださっている。商売では豪胆な所もあるのだが、恋愛面ではかなり慎重で真面目な人だ。
 何せほぼ一方的に振られた運命のつがいをあんなに大事に思っていたのだから。
 ……女々しいなんて、言わないでやってほしいよ!俺は少なくても好感が持てるんだ!へへへ……惚気じゃないぞ!

 だから、俺たちのそう言う事はちゅー止まりだ。ちゅー通り越してベロンベロンに舐めまわされた訳だが。
 その先に進もうとなると、結婚。結婚となると親の承認という訳だ。

 そんな面倒くさい俺の要望を聞いてくれる良い人なんだ。


 だから一足先に俺はウィシュバーグの爺ちゃまのお屋敷に行く。こっちの皆んなとはしばらくお別れだけど、戻ってくるつもりだ。

 家族の事は大好きだけど……それよりギアナ様の方が大事になった。
 俺も男だし、ギアナ様も男だ。多分、いや間違いなく俺が受け入れる方だろう。怖い……けれど。

「リト!すぐ行くからな!」

 心配そうに見る青い目。

「大丈夫ですー!」

 大きく手を振れば、嬉しそうに細められた。笑ったその顔が好きだ。優しくて、暖かい。大きく刀傷が残る体も欠けた左手も愛おしいと頬を寄せてくれる。

「待ってますね!」

 精一杯手を振る。


……リトだ……

あれは……リト……


 ザザザ

 風邪に吹かれて海面に細波が立つ。

 船でいけば隣の港までの短い距離だ。向こうの港についたらサイの獣人であのパーティの日にあったジーレンさんと、狐の獣人のフォルターさんが居て、そこで1泊してから、リズに向かうフォルターさんの商隊にお邪魔させてもらう事になっている。

 半日もかからない船旅だけれども、この世界で船に乗った事が無かった俺はドキドキしていたが……船が陸を離れ、港内へと進み始めると少し不安な気持ちになってくる。
 陸ではギアナ様がこちらを見ている。口の端を笑みの形にして笑っているが、不安が滲んでいる。
 そんな顔を見ると、なんだか俺も離れ難い気持ちになってくるんだ。
 
 でもお母様や皆んなに会いたい気持ちも強い。ちゃんと顔を見せてお話しして……ギアナ様を紹介するんだ。

 そしたら帰ってくるんだ。

 船は風を受けて、港から海原に出ようとしている。良い風だ、予定より早く着くだろうと船長が言っているのが聞こえたし、ぴゅーやんが船のマストの周りを楽しそうに飛び回っているから、風に恵まれた航海になるだろう。
 気がついたらすぐ着いちゃうかな?

 陸に目を向けると、どれがギアナ様が分からないくらい小さくなっていたが、きっとギアナ様から俺は見えている。獣人は人族より目が良い人が多いんだって。
 陸に向かって甲板から手を振る。きっと見えているはず!あの青い目が俺を見ているはず。



……あれよ……

捉えよ

 港から出てすぐだった。ガクン!船体が大きく揺れた。

「わあっ?!」

 俺は手すりに捕まった。危なく海に投げ出される所だ。

「なんだ?!」「どうした?!」「こんな所に障害物なんてないぞ!」

 バタバタバタバタ!船は慌ただしくなる。

「な、なんだろう」

 船は揺れ、ギシギシと音を立てている。甲板は落ちると怖い。俺は船内へと向かう扉に足を向けて転んだ。

「うわっ?!何??」

 左足に何かが巻きついている。にゅるりとしたそれは足首から這い上がり、あっという間に膝から太ももへ巻きついて来た。

「な、何これ?!」

 それは甲板の外、海から続いている。

「え?!た、タコの足……?」

 吸盤がついてにゅるにゅるとしたそれは俺を引っ張り始める。

「え!やだ!うそ!!!」

 木でできた甲板に捕まる物はほとんどない。

 きゃーーーー!悲鳴が上がる。
 子供が捕まったぞ!

 誰かが俺に手を伸ばしてくれた。俺もその手を掴もうと必死で手を伸ばすが、引きずる力とスピードは早すぎた。

 魔物だ!
 クラーケンだ!

 人々は逃げ惑う。あまり大きくない船は2匹のクラーケンに巻き付かれていた。

「た、助けて!!」

 俺はそのまま海の中に引きづりこまれ、青く遠ざかる色を見上げながら、意識が遠くなって行った。



「捕まえたー。今度は本物のリトだと良いなーー」




 
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