【完結】愛する親友とゲーム転生をしたのに捨てられ賢者の俺は元魔王に愛されすぎてつらい

ゲームの世界へ転生召喚？

4 脳内はサンバカーニバル

「うっ……」

　痛い。その上に空気が悪くて、力が入らない。ここはどこだ？

「愁……」

　俺はベッドの上に寝ていて、隣には桐生が立っていた。お前、俺が目を覚ますまでそこで立ってたのかよ。もう桐生の姿は俺がゲームでみた魔王キュリオの姿なのだけれど。

「きりお、ここは……？」

「魔王が帰る場所は魔王城だろう」

「そうか」

　魔領か。なら人間の俺はつらいな。魔領には魔力が多すぎて普通の人間では入ると気がふれる。俺たちみたいに鍛えたものでも、かなりつらい。そんな魔領の中に魔王討伐で入れたのは勇者である桐生の浄化能力であったのだが、今の桐生に勇者の能力はない。
　息が苦しいな、そう思ったが、フと柔らかくなる。桐生が何か手に持っている。

「これは呪魔石って言うらしい。高位の魔族ならだれでも作り出せる結晶で、これを人間に持たせればこの魔領でも活動できる」

「そんな便利なものがあるんだな……」

　知らなかった。ゲームじゃ出てこなかったアイテムだな。

「これは今俺が作った。……自分の奴隷などに埋め込んで使うんだって。作った人の魔力で効力を持つから、しばらくすると減ってきてまた魔力を入れてもらわないといけない」

「へえ」

　お、俺……桐生の奴隷になるのか……やだ、素敵。ご主人様って呼ぼうかな？ハァハァご主人サマアアア！ぜひ！貴方の！貴方の性奴隷にいいいい！キャーーーー！

「愁、お前の心を読ませろ……」

　やだ無理！

「俺は……俺はもう！心を読んだ相手じゃないと信用できない！たとえお前でもだ！お前にまで裏切られたら俺は！俺は……‼‼」

　泣き出した桐生の気持ちはよくわかる。でも……そんな桐生を見てムッヒョー！桐生オオ！キュリオたんの顔で泣くんかーーー！最高！最高だぜーーーーーーもう一生ついていくううう！ご主人様！ご主人様と呼ばせてくださいいいいい！と脳内がサンバカーニバルな俺の思考をお前にみせるなど……できないっ‼‼
　脳内は派手な笛とタイコの音色に彩られ、フサフサの羽飾りが舞い踊る幻想に包まれているにもかかわらず、俺の顔の表情筋はカチコチに硬い。ゆるみそうになる頬をリフトアップリフトアップ！

「それは……できない」

　桐生の顔から表情が抜け落ちたが……俺には……俺には無理だーーーーーーー！この変態思考をお前に丸々晒すなんて無理いいいいいいいいいいいい！

そうか

　一欠けらあったはずの桐生が今死んだ。殺したのは俺。桐生が完全にキュリオになったんだ。

「きり…‥お…！」

　桐生は持っていた呪魔石をひねりつぶした。パキン！と高い音がして、途端に呼吸が苦しくなる。魔力が、黒い魔力が強すぎる。ゴホゴホとせき込むが、肺に空気が入ってこない。苦しい！苦しい……！

「このままだと死ぬよ　愁」

「あ……あ……」

　苦しいけれど……それも仕方がない。桐生はもっと苦しいんだろうな。空気の吸えない俺を表情のない顔で見ているけれど、俺は知ってるぞ。だがしょうがないよな、そういう風にお前を追い込んだのは俺だ。この苦しみ、甘んじて受けよう。

　お前ってマジイケメンだな。お前の顔見ながら死ねるなんて最高だよ……いい人生だった、グッドラック……。

「聞いてるのか愁！」

　聞こえないよ、桐生……。

「おいおい困るぞ、魔王キュリオよ。それを私にくれる約束だろう？死体ではつまらん」

　パチンと音がして、急に息が吸えるようになった。俺はむせながら空気を吸い込む。やっぱり死にたくないや！