【完結】その壊れた恋愛小説の裏で竜は推し活に巻き込まれ愛を乞う

鏑木 うりこ

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31 ぎゅってして

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「ルシ様、ぎゅーってして」
「リンカか」
「うん、ちょっとだけ出てきたの。お願い、ぎゅーってして」

 アリアンの姿のままリンカが現れた。ぎゅーっていうのは抱き締めて欲しいことらしい。正直、アリアンと抱き合うのは遠慮したいがリンカが表面に現れて要求するとは何かあると思って間違いない。
 両手を開いて待つリンカの前に立って、あまり背の高さも変わらないアリアンの体を抱きしめた。細く割に筋肉質でそれなのに少しひんやりした不思議な体。それが不快であれば救いもあるが、悪くないのが嫌になる。

「えへ、えへへ……」

 おずおずと背中に手を回して、緩く抱きついてくる。遠慮など無用なのに。

「ルシ様、絶対誰かと結婚してね……リンカ、ルシ様の子供みたいんだ」
「良い縁があれば」
「大丈夫だよ、ルシ様カッコいいし頭いいし素敵だもん。皆、ほっとかない……ん、元気チャージできたっ」

 そして一瞬でパッと離れてしまう。

「推し様との距離感大事っ」
「リンカ」

 リンカは本当に私のことを一番に考えてくれている。そこまでしなくともと思うくらいに。

「あのね! アカデミーの教授に魔虫の研究をしているギディアン・クライスっていう人がいるの。すぐに支援して、大陸オオトビバッタの研究をさせて。多分三年……ううん、二年は成果が出ないけどいっぱいお金を渡して研究させて」
「大陸オオトビバッタ……まさか」
「うん、大発生があるの。大体五年後かな……早く研究させないとこの国、被害凄いの。これからサンプルのバッタを捕まえてくるから、お願いね。リンカはルシ様の子供も幸せに暮らすこの国を守りたいもん」

 じゃあ行ってきます、とリンカは手を挙げて廊下を走っていった。常識のあるリンカだ、きっと玄関までいき、外に出てから翼を開くんだろう。メイドや執事にも挨拶をして、玄関に現れた。
 短い距離、助走をつけるとゆっくりと背中から黒い大きな翼が開く。そのまま滑るように空へ舞い上がってゆく。同じ体なのにアリアンとまったく違う姿をしばし見送った。

「リンカは元気な方がいい。確かにそうだな、アリアン」

 突然現れた嵐のようなリンカに私はいつも助けられている。

「ギディアン・クライス、南の方の子爵家の次男だったか」

 私もすぐに動かねばならない。蝗害か……恐ろしいものだ。大きな魔物であればアリアンが薙ぎ倒せるだろうが、数が大量になればアリアンでも倒すのは困難だろう。しかも今はまだ効果的な方法が見つかっていない。

「たった三年で効果的な方法が分かるなら安いものだな」

 やはりリンカは素晴らしい。この世にリンカ以上に素晴らしい女性は存在しないのではなかろうか。

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