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7 年の瀬
10 はね返るという事。
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「サンキューこはるチャン。年が明けたら食べる!」
「31日はお蕎麦を食べてくださいね」
「ケイ!茹でて!」
「それくらいは出来るから安心して、ガルー君」
今日は少し早いですが暇ですので恵太郎さんはガルー君と帰る事になりました。二人は同じアパートの隣の部屋に住んでいて、頻繁に行き来しているそうです。だからあんなに仲が良いんですね。
「ケイ。歩いて帰ろ」
「うん。結構かかるけど今日は用事ないしね」
恵太郎さんは自転車で通ってきてくれましたが、今日は押して帰るようです。重箱やお蕎麦の入った袋をハンドルに下げ、仲良く帰る様子は本当にただの大学生にしか見えないんですけどね……。
「こはるチャン、いいこだね」
「あ、ありがとうございます」
金色の目、ぞくりと寒気を覚える神気。本当に何故平気でその方の隣に立っていられるか不思議ですよ、恵太郎さん。少しの間おしゃべりをしながら遠ざかっていく二人の後ろ姿を見ていました。
「あ……」
立ち木の影からこちらを窺っている山下春江さんの姿がチラチラと覗いています。まだ居たんですね……この寒空の中、じっと風鈴食堂を見張り、時には写真を撮り……スマホを見て何か書き込みをしているんでしょうか……。私から見てもかなり不気味ですから、後ろから見たら完全な不審者。ご近所の誰かがまた警察に通報するかもしれません。
「不快、ただただ不快な女よ。そののたうち回る不快な蛇のような精神、この地には不要」
ガルーさんと恵太郎さんが、山下春枝さんとすれ違う。
「早くいこ、ガルー君」
「そだな。でな、ケイ。オトシダマってなによー?」
ガルーさんは恵太郎さんとおしゃべりをしています。でもすれ違ったその背後から、ぬぅっと大きな猛禽類の鉤爪が伸びて来て、山下春枝さんの頭を鷲掴みにしました。
「あ」
そしてそのまま引くとその鉤爪には何か黒くて長い実態のない何かが引っかかっているんです。
それは金色の鉤爪を嫌がるようにジタバタともがいていましたが、引き寄せられ、ほんの一瞬だけ見えた金の嘴に咥えられ、ぱくりと食べられてしまいました。
「まっず!」
「ガルー君?」
「あーー!こはるチャンとこでなんか甘い物貰ってこればよかたー!」
えー!まだ食べるの?コンビニ寄ろっか?なんて驚いた恵太郎さんの声がここまで聞こえて来ました。
「こんなマズいとおもわなかたー!!」
「何言ってんのー?もーしゃーないなーコンビニ寄ろう」
「わーい!ケイのオゴリー!」
二人は何事もなく後ろ姿が小さくなって行きます。
「……」
山下春枝さんは、ただ立ち尽くしています。しばらくそのまま、呆然と空を見上げていましたが、ぼとりとスマホが地面に落ちました。
そしてそのスマホを拾う事なく、ゆっくりと振り返り、のろのろと歩き出しました。きっとインプットされたロボットのように、自分の家まで戻るのでしょう。
「魂を喰われてしまったな」
「ええ、そのようです」
何度も警告したのに、山下春枝さんは聞いてはくれなかった。魂のほとんどを食べられてしまった山下春枝さんがこれからどうやって生きていくか、私には見当も辛いないが、人として生きていくのは難しいだろう。
「今年中にカタがついて良かったの、小春」
「ええ」
和服姿のぽんきち先生が、珍しく小上がりから立ち上がって店の外に顔を出す。
山下春枝と言う人間を殺めたようなものだが、私達はそこに罪悪感をもちはしない。全て跳ね返っただけなんだから。
「明日は大晦日ですね。このまま正月休業にしましょう」
「それが良い。ああ、やっと狸の姿に戻れるな」
ゴリゴリと肩を鳴らすぽんきち先生と店に入り、戸を閉めた。
「31日はお蕎麦を食べてくださいね」
「ケイ!茹でて!」
「それくらいは出来るから安心して、ガルー君」
今日は少し早いですが暇ですので恵太郎さんはガルー君と帰る事になりました。二人は同じアパートの隣の部屋に住んでいて、頻繁に行き来しているそうです。だからあんなに仲が良いんですね。
「ケイ。歩いて帰ろ」
「うん。結構かかるけど今日は用事ないしね」
恵太郎さんは自転車で通ってきてくれましたが、今日は押して帰るようです。重箱やお蕎麦の入った袋をハンドルに下げ、仲良く帰る様子は本当にただの大学生にしか見えないんですけどね……。
「こはるチャン、いいこだね」
「あ、ありがとうございます」
金色の目、ぞくりと寒気を覚える神気。本当に何故平気でその方の隣に立っていられるか不思議ですよ、恵太郎さん。少しの間おしゃべりをしながら遠ざかっていく二人の後ろ姿を見ていました。
「あ……」
立ち木の影からこちらを窺っている山下春江さんの姿がチラチラと覗いています。まだ居たんですね……この寒空の中、じっと風鈴食堂を見張り、時には写真を撮り……スマホを見て何か書き込みをしているんでしょうか……。私から見てもかなり不気味ですから、後ろから見たら完全な不審者。ご近所の誰かがまた警察に通報するかもしれません。
「不快、ただただ不快な女よ。そののたうち回る不快な蛇のような精神、この地には不要」
ガルーさんと恵太郎さんが、山下春枝さんとすれ違う。
「早くいこ、ガルー君」
「そだな。でな、ケイ。オトシダマってなによー?」
ガルーさんは恵太郎さんとおしゃべりをしています。でもすれ違ったその背後から、ぬぅっと大きな猛禽類の鉤爪が伸びて来て、山下春枝さんの頭を鷲掴みにしました。
「あ」
そしてそのまま引くとその鉤爪には何か黒くて長い実態のない何かが引っかかっているんです。
それは金色の鉤爪を嫌がるようにジタバタともがいていましたが、引き寄せられ、ほんの一瞬だけ見えた金の嘴に咥えられ、ぱくりと食べられてしまいました。
「まっず!」
「ガルー君?」
「あーー!こはるチャンとこでなんか甘い物貰ってこればよかたー!」
えー!まだ食べるの?コンビニ寄ろっか?なんて驚いた恵太郎さんの声がここまで聞こえて来ました。
「こんなマズいとおもわなかたー!!」
「何言ってんのー?もーしゃーないなーコンビニ寄ろう」
「わーい!ケイのオゴリー!」
二人は何事もなく後ろ姿が小さくなって行きます。
「……」
山下春枝さんは、ただ立ち尽くしています。しばらくそのまま、呆然と空を見上げていましたが、ぼとりとスマホが地面に落ちました。
そしてそのスマホを拾う事なく、ゆっくりと振り返り、のろのろと歩き出しました。きっとインプットされたロボットのように、自分の家まで戻るのでしょう。
「魂を喰われてしまったな」
「ええ、そのようです」
何度も警告したのに、山下春枝さんは聞いてはくれなかった。魂のほとんどを食べられてしまった山下春枝さんがこれからどうやって生きていくか、私には見当も辛いないが、人として生きていくのは難しいだろう。
「今年中にカタがついて良かったの、小春」
「ええ」
和服姿のぽんきち先生が、珍しく小上がりから立ち上がって店の外に顔を出す。
山下春枝と言う人間を殺めたようなものだが、私達はそこに罪悪感をもちはしない。全て跳ね返っただけなんだから。
「明日は大晦日ですね。このまま正月休業にしましょう」
「それが良い。ああ、やっと狸の姿に戻れるな」
ゴリゴリと肩を鳴らすぽんきち先生と店に入り、戸を閉めた。
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