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31 今度は
「お前たちは誰の手のものなのです! 隠し立てせずにお言い!」
マルガレータは手に持っていた扇を振り上げた。アナスタシアは目を閉じる。叩かれるのは自分に決まっているから。
それなのに、リンデールが前に立ちはだかった。
「おやめください、マルガレータ妃様! アナスタシアは怪我をしております! そして私達は誰の手の者でもありません」
「リ、リンデール様! おやめください!」
「うるさい! お黙り!」
勇敢に立ったリンデールだが、やはり目を閉じる。怒れる側妃は年若いリンデールとアナスタシアを震え上がらせるには充分だ。
ばしん! と何かを打つ音がして二人はガタガタと震えながら抱き合ったが、そっと目を開け驚いた。
「侯爵夫人!」
「リンデール、アナスタシア、大丈夫ですか?」
「お前! お退きなさい!」
二人を庇って扇で打たれたのは二人の講師を務めている侯爵夫人だった。
侯爵夫人はキッとマルガレータを見上げる。
「マルガレータ様、この二人が何か致しましたか! 何か正当な理由があってそのようなことをされるのですか?!」
「お黙り! その娘がルイフトを誘惑したのよ! その娘のせいなのよ、その娘さえ追い出せば私はここから追い出される事なんてなかったのよ!」
マルガレータはもう一度扇を振り上げた。ただの扇であったが、力一杯打ち据えられれば相当に痛む。
最初の一撃は肩に受けた侯爵夫人だったが、今度は顔を狙われている。
侯爵夫人とて、武芸の人ではない。恐怖で身は竦み、目を閉じる。
「侯爵夫人!」
アナスタシアが前に出る。先に体が動いてしまった。
「お前の! お前のせいよ!!」
痛そうね、でも痛いだけだわ。どこか冷静にアナスタシアは振り下ろされる扇を見ていた。きっと体は痛むわ。でも庇われたまま、心が痛むのより全然平気。だから大丈夫。
しかし、扇はアナスタシアの顔の前でぴたりと止まった。
「……今度は間に合ったようだな」
「ル、ルイフト様」
ルイフトがマルガレータの腕をしっかりと掴んでいた。
「ルイフト、お放しなさい! 今からこの女狐を追い出すのです! そうしたら貴方の目も覚めるでしょう!」
「目を覚ますのは貴女の方だ。母上」
「何を言っているのです! 貴方はあの女の罠に嵌められているのですよ! そうでなければ私がこの王宮から追い出されるはずがないでしょう?!」
甲高い金切り声が辺りに響く。しかしそれはルイフトの心には響かない。
「私は誰の罠にもかかっていません。いい加減にしてください」
「いいえ! いいえ! 貴方は騙されています!何を吹き込まれたかしりませんが、私はあなたの母なのですよ! 母を信じられないのですか!ルイフト!」
ルイフト王子は悲しい目を、さらに悲しみに落としてはっきり言う。
「信じられる訳がないでしょう。もう貴女の言葉に一つの真実もないと言うのに。私は貴女の息子である事が恥ずかしい。頼むからそれ以上、汚い口を開かないでくれ」
「ルイフト……?」
マルガレータは自分の息子が、血を吐くように絞り出した言葉を聞いて愕然とした。
マルガレータは手に持っていた扇を振り上げた。アナスタシアは目を閉じる。叩かれるのは自分に決まっているから。
それなのに、リンデールが前に立ちはだかった。
「おやめください、マルガレータ妃様! アナスタシアは怪我をしております! そして私達は誰の手の者でもありません」
「リ、リンデール様! おやめください!」
「うるさい! お黙り!」
勇敢に立ったリンデールだが、やはり目を閉じる。怒れる側妃は年若いリンデールとアナスタシアを震え上がらせるには充分だ。
ばしん! と何かを打つ音がして二人はガタガタと震えながら抱き合ったが、そっと目を開け驚いた。
「侯爵夫人!」
「リンデール、アナスタシア、大丈夫ですか?」
「お前! お退きなさい!」
二人を庇って扇で打たれたのは二人の講師を務めている侯爵夫人だった。
侯爵夫人はキッとマルガレータを見上げる。
「マルガレータ様、この二人が何か致しましたか! 何か正当な理由があってそのようなことをされるのですか?!」
「お黙り! その娘がルイフトを誘惑したのよ! その娘のせいなのよ、その娘さえ追い出せば私はここから追い出される事なんてなかったのよ!」
マルガレータはもう一度扇を振り上げた。ただの扇であったが、力一杯打ち据えられれば相当に痛む。
最初の一撃は肩に受けた侯爵夫人だったが、今度は顔を狙われている。
侯爵夫人とて、武芸の人ではない。恐怖で身は竦み、目を閉じる。
「侯爵夫人!」
アナスタシアが前に出る。先に体が動いてしまった。
「お前の! お前のせいよ!!」
痛そうね、でも痛いだけだわ。どこか冷静にアナスタシアは振り下ろされる扇を見ていた。きっと体は痛むわ。でも庇われたまま、心が痛むのより全然平気。だから大丈夫。
しかし、扇はアナスタシアの顔の前でぴたりと止まった。
「……今度は間に合ったようだな」
「ル、ルイフト様」
ルイフトがマルガレータの腕をしっかりと掴んでいた。
「ルイフト、お放しなさい! 今からこの女狐を追い出すのです! そうしたら貴方の目も覚めるでしょう!」
「目を覚ますのは貴女の方だ。母上」
「何を言っているのです! 貴方はあの女の罠に嵌められているのですよ! そうでなければ私がこの王宮から追い出されるはずがないでしょう?!」
甲高い金切り声が辺りに響く。しかしそれはルイフトの心には響かない。
「私は誰の罠にもかかっていません。いい加減にしてください」
「いいえ! いいえ! 貴方は騙されています!何を吹き込まれたかしりませんが、私はあなたの母なのですよ! 母を信じられないのですか!ルイフト!」
ルイフト王子は悲しい目を、さらに悲しみに落としてはっきり言う。
「信じられる訳がないでしょう。もう貴女の言葉に一つの真実もないと言うのに。私は貴女の息子である事が恥ずかしい。頼むからそれ以上、汚い口を開かないでくれ」
「ルイフト……?」
マルガレータは自分の息子が、血を吐くように絞り出した言葉を聞いて愕然とした。
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