【完結】おっさん軍人、もふもふ子狐になり少年を育てる。元部下は曲者揃いで今日も大変です

鏑木 うりこ

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7 王都、暗雲伸び(慈悲将軍の部下だった男

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「すみません、来月から見舞金は持って来ることができません……」
「な、何でですか?! 夫も失ってこのお金も無くなったら、私達はどうやって暮らして行けば!!」
「……」

 私は目を伏せるしかない。

「ええんじゃよ……わかっておりますじゃ……イアン将軍が殺されてしもうたからじゃろ」
「お、お婆ちゃん?! イアン将軍って王太子を暗殺しようとして討伐された人でしょう?! 何言ってるの!」

 何も言えない私の前で老婆は、今日訪ねた女性を叱り飛ばした。

「イアン様がそのような事をするはずがない! 死んだサムの遺体を運んでくださったのもイアン将軍、毎月見舞金を下さったのもイアン将軍だと言うことが分からないのかいっ!」
「えっ?!」

 この家の主人はサムと言う若い男だった。徴兵され、そして運悪く死んでしまった。女はサムの嫁で、老婆はサムの母親。家の中には息子と娘がいるはず。

「良いかい、普通一般兵が死んだ所で誰も亡骸なんて連れて帰ってくれないんだ、身につけていた物を一つくらい持って来てもらえれば幸運な方さ。おじいさんもそうだったよ……なのに、イアン将軍は連れて帰って来て下さった。それがどんなにありがたいことがお前には分からないのかい?!」
「そ、そう言えば……別の部隊に配属された人は何も戻って来なかったって……」

 女性はきっと井戸端会議で聞いたんだろうな。末端兵士まで手間と時間と金をかけて連れ帰るのは慈悲将軍と言われたイアン様しかいなかった。

「そしてこのお金も国から出たお金じゃないだろう? イアン様の私財を皆に分け与えているんだよ……」
「……なんでうちだけ見舞金が貰えるのか聞かれた事、ありました……」

 女性は俯いた。流石のイアン様も自分の部隊以外に配属された兵士を把握する事はできなかった。

「そのイアン様が……殺されてしまったのじゃ……当たり前じゃろう」
「なんでそんな凄い人が王太子様の暗殺なんて……え?」
「ご婦人、そこら辺りで。余計な詮索はいけません」

 私程度に見張りはついていないだろうが、ないとは言い切れない。
 ご婦人も、老婆も青い顔をしながら、この王太子暗殺事件に纏わる噂を思い出しているに違いない。そう、慈悲将軍に王太子を暗殺する理由など一つもない事実。そして慈悲将軍が国民に愛されすぎて、王族より人気がある事実。

 闇の中、何が起こったか。

「……さらに申し訳ないのですが、引っ越すことも視野に入れてください。この辺はイアン様が借り上げていた土地と家でした……」
「……やけに家賃も安いと思ったら……」

 戦争で大切な人を失った家族のためにイアン様は手を尽くしていた。だが、それももう続けられない。

「申し訳、ございません」
「……いえ、今までありがとうございました」

 私ももう軍を辞める。イアン様の元で働けて沢山のことを学び、彼の人柄に惚れ込んで仕えてきた。
 イアン様がいない軍にも国にも何も魅力を感じないし、働く気も起きない。

 イアン様が亡くなった最後の地で彼を偲びながら余生を送ろうと思っている。

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