【完結】おっさん軍人、もふもふ子狐になり少年を育てる。元部下は曲者揃いで今日も大変です

鏑木 うりこ

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28 パムの保管庫

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「イアン……(さま、助けてください)!」

 パムがこっちを見ている! ちょっと言い訳が苦しい避難訓練だったけれど、村には何事もなかったし、怪我人も出ない。しかも全員にパムの美味しいご飯を振る舞ったので暴動なんかは起きなかった……良かった。

「裏山に手を入れて、要塞に作り替えた方が良いです。あれじゃ避難も難しい」
「山をくり抜いて偽装しよう。地質はどう? 掘れる岩だった?」
「行けますね。天然の洞窟がいくつかあって、地下水脈と繋がっている物もありましたから、その辺は上手に利用できそうです」

 食べ終わって早速クレヤボンスと部下達が色々話し合っているけれど、多分そっちより涙目のパムの方が大事みたいだ。ちょっとタムとミニィに視線を送ると二人とも無言で頷いた。

「ラセル、別の本も読んでみないか?」
「え? タムさんも本を持ってるんだ」
「一時期、仲間内で本を書くのが流行ってね。私も書いたんだよ、読んでみてくれないか?」
「見せて見せてー!」

 タムがラセルの相手をしてくれているうちに私はミニィに抱っこされて眉毛が 泣きそうなほど垂れ下がっているパムに近づいた。

「どしたの?」
「食料保管庫が壊れたんです~」
「壊れるわけないだろ? あれは時空神の加護があるんだから」

 パムの食料保管庫は私が将軍時代に作った魔道具の中でも素晴らしい出来栄えの物の一つだ。大人が背負えるギリギリくらいの多きの箱で中は空間を歪めてあるのでとても広い。しかも時の流れがほぼないから、中にいれた物は劣化しない。でもそんな便利なものは何の代償もなく作れるものではなく、このパムの保管庫には時空神の末席に繋がる神が一人住んでいる。
 そしてその神はこのパムの保管庫の中身を一日一つ好きなものを食べても良いことになっているのだ。

「今日はプリンが一つなくなっていますね」
「プリンかー……しょうがないよね、あれ美味しいもんね」

 大皿料理を平らげて行くときもあるし、飴一個だけを持っていくときもある。まあ気まぐれに何かしら一つだけ堪能していらっしゃるのだが、パムもたくさん作ってたくさん入れてあるし……ずっと前の行軍の時、食べるものが何もなくなった時はジャガイモ一個だけで勘弁してくれたり、「後で2倍貰う」と書かれたメモが残っていた時もある。中々臨機応変な気のいい神様が住んでいるはずなんだけど……?

「時空小神様にお供えを忘れたとか?」
「違います! 小神様はいつも通りなんですけど……見てください、ちょっと保管庫開けますからね……?」
「?」

 そっと人目のない物陰に回り、保管庫の扉に手をかける。そしてほんのちょっとづつ開くと……中にはぎっしりムッチムチに食材が詰まりまくっているのが隙間から見えた!

「ちょっと……パム入れ過ぎだろう?」
「ち、違います! 私が入れたんじゃないんです! それにこれはいくら入れてもこんなパンパンにならないじゃないですか!」
「いや、限度はあるよ」

 小神様の力以上のものを入れたらああいう風に今にも弾けそうになるって。駄目だぞ……パムゥ。

「だから違いますって! 私はそんなに食材を詰めていません! 気が付いたら何故か食料品がパンパンになっているんです。使っても使ってもパンパンで一体どうしたらいいんですか!? 奥の食材が取り出せないんですよ! 助けてくださいよーーー!」
「そこぉ? 取り出せないから困ってるの? 正体不明の物が勝手に増えたからじゃなくて?」
「当たり前じゃないですか! さっきは梨を使いたかったのに、りんごしか出せなかったんですよ! 梨のコンポートアイスがけを振る舞いたかったのに!」
「やだ……それ絶対美味しい奴……! あ、でもアップルパイ美味しかったよ」
「でも梨をラセルに食べさせたかったんですーー!」

 やっぱりパムはパムだよな……。

「でもこの感じ。保管庫の機能は正常だろう? これは小神様に聞いた方が早いんじゃない? パム、プリンかフルーツゼリーをお供えして小神様を呼んでみな」
「へ……あ、そうか。小神様に聞けばよかったんですね」
「もう……パムはいっぱいいっぱいになると駄目だなあ~」

 料理のことなら凄いのに、それ以外になると臨機応変という言葉を忘れちゃうんだよね。まあそれがパムの持ち味だからしょうがないし、ミニィも苦笑している。パムは保管庫の隙間から手を突っ込んでキラキラときれいな青のゼリーが入ったカップを取り出した。え、何それ美味しそう! ラセルに食べさせてあげたい!

「それは後で」

 なんで声に出してないのにミニィにばれたの……?

「ティン様、ティン様。このパムめにお声を聞かせてくださいな」

 フルーツゼリーを前に置き、パンパンとパムが手を2度打ち鳴らすとフルーツゼリーが入ったカップがひとりでにふわりと持ち上がる。

「パム、スプーンがついておらんぞ」
「あ、申し訳ございません。どうぞ」
「うむ、ありがとう……ふむ、美味い!腕を上げたのうパム。褒めて遣わす」
「もったいないお言葉です。ティン様」
「うむ、励めよ! して、イアンよ。珍しいことになっておるのう……きゃわゆいぞ」
「……嬉しくないです、ティン様……」
「カカカカ! いうでない、いうでない! 」

 そこには水色の髪の麗しい見目の少年が空中に浮いて顕現していた。この方がパムの保管庫の神、時空小神ティン様である。

「今度、狐モチーフのお菓子を作りますね、それより何なんでしょう? 保管庫に私が入れた覚えのない食材が山のように詰まっておるのです。お陰で物が取り出しにくくて仕方がありません!」

 ティン様はゼリーをきれいに平らげてから、小さくため息をついた。

「パムよ。あれは私の兄者のせいなのだ。ちょうど良い、イアン。契約を書き換えよ」
「兄君……まさか王宮の大保管庫ですか!?」
「うむ……」

 すると保管庫の細い隙間からもう一方現れる。ティン様と同じ水色の髪だけれども、こちらの方の方が年嵩だ。ティン様が13.4歳だとすると今現れた方は16.7歳といった所か。でもこちらの方も神なので年齢は不肖なのだけれども。

「ティエン様!?」
「ああ、息災……か? イアン」
「パム! ティエン様にお供えを! 歯が溶けるくらい甘いチョコレートを山盛りにして供えてくれ!」
「うひょい!?」

 ティエン様は無類の甘党であり、チョコ大好き神様なのだ。そのやんごとなきお方がよろよろと干からびかけて出てきたのだ。間違いなく緊急事態だ。



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