【完結】おっさん軍人、もふもふ子狐になり少年を育てる。元部下は曲者揃いで今日も大変です

鏑木 うりこ

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30 王宮大保管庫

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「僕、こんなに甘い物食べたの初めてぇ~~!」

 ラセルがパムの作ったチョコレートケーキを頬張って目をキラキラさせていた頃、当然ながら王宮の厨房は大混乱だった。


「りょ、料理長! 大変ですっ!」
「ああ? 面倒クセェ。保管庫に入ってる前任が作った料理を出しときゃ良いだろ。どんだけ入ってんだよ、全く便利なもんだねぇ」

 王宮の厨房を取り仕切っている料理長は不衛生にも自分の髭を弄りながら休憩室でクッキーを齧っていた。この男、料理長とは名ばかりの包丁も握れぬ男であったが、料理長の肩書だけは欲しかった。
 だから宰相にたくさんの献金をし、更に裏金も渡して料理長の帽子をのだった。それでも王宮の料理は立派で美味しかった。それを支えていたのは誰かが作った巨大な保管庫のお陰だ。
 誰が作ったか、なぜそうなるか。この料理長は知らなかったし、知る必要も感じなかったが、王宮の保管庫は素晴らしかった。入り口は少し厚いけれどごく普通の扉なのに一度中に入るとそれはそれは広大な空間が広がっていて、整然と食材が置かれている。
 しかもここに置いておくと劣化しないのだ。りんごはりんごのまま、一年あっても腐ったりかびが生えたりせず、瑞々しいま。
 保管庫の一角には調理された料理が鍋のままだったり、皿に盛り付け済みであったりしながらも大量に並んでいる。
 だからこの厨房の料理人達はここから料理を運び出すだけで豪華な晩餐の準備をすることができた。
 しかし厨房から支度の香りが一つもして来ないのは不審なので形だけ調理している。そんな作りかけの料理は処分されていることが多いがそれも仕方がないことなのかもしれない。

「不味い」
「……すぐに他の物をお持ちします」

 保管されている料理以外を王族、特に国王に持っていくと途端に不機嫌になり、酷い時は料理人の首が飛んだ。だから下手な料理は出せなかったのだが……。

「良いから、早く来てください! 保管庫が、保管庫が!!」
「はあ? うるせぇな」

 真っ青な副料理長に引っ張られ、味見と称して料理を食べまくった末に相当出っ張った腹を揺すりながら移動する。ドタドタと足取りも重く、巨大保管庫の扉の前につく。

「見てくださいっ!」
「は?!」

 副料理長が扉を開け放つ。中にはこの扉に似合ったくらいの何もない小ぶりな部屋が存在していた。

「ほ、保管庫……は、はは。副料理長、手の込んだイタズラはよしたまえ。普通の扉を保管庫の扉に偽装して私をかつごうというのだろ? 全く趣味が悪いぞ」
「ち、違います! 料理長!! ここは本当に保管庫の扉なんです! 保管庫の中身が丸ごと全て消失したのです、なにも、何もないのです!!」
「はぁ? そんなバカな話、ある訳がない」

 料理長はこんな所まで自分を歩かせた副料理長をギロリと睨んだが、副料理長はいつまで経っても

「冗談でした、すみませーん」

 と謝って来ず、ずっと顔色が悪いままだ。

「うそ、だろう?」
「本当です……」

 むちむちに膨らんで常に血色の良かった料理長の顔が青くなって行く。事の重大さがじわじわと脂肪に埋もれた脳みそに浸透してきたのだ。

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