【完結】おっさん軍人、もふもふ子狐になり少年を育てる。元部下は曲者揃いで今日も大変です

鏑木 うりこ

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31 逃げ惑う厨房

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「何も、ない……一体どう言う事だ」
「わ、分かりません、保管庫自体が消滅してしまったとしか考えれないんです」
「なぜ保管庫が消滅するんだ?!」

 料理長も金で買った肩書きのみの料理長だったが副料理長もそうだった。

「分からぬ! 何も分からぬ!」
「誰か、誰か! この保管庫に詳しい者はいないか!!」

 二人が大慌てで喚き散らすが、厨房にはやる気のない料理人が数人いるだけで、皆ため息をついた。

「あーあ。また料理長が癇癪起こしてら」
「いつもの事だろ……俺らは仕事しようぜ」

 とは言えこの料理人達の士気も底辺だ。何かを作ろうとすれば料理長や副料理長から小言を言われる。しかも偉い人に出す料理は全部保管庫から運び出す物のみ。ここで調理された物を王族や偉い貴族は食べてはくれないのだ。

「俺達の賄いしか作んねーんだもんな」
「あーでもイアン様はたまに食べにきてくれたよなぁ。会議に出てたら飯が無くなった、何か食べる物あるかい? って」
「馬鹿っ! 名前っ」
「あっ! そうだった、えーと「可愛子ちゃん」?」

 料理人達は似合わない呼び名に全員でブッと吹き出してから、遠い目をした。

「あの人だけだったよな。俺らの作った料理を美味いって食ってくれたの」
「パムさんの料理の方が美味いのに、俺らの事をたくさん褒めてくれたよな」

 しんみりと俯き、ただスープの鍋をかき混ぜる。あの頃は良かった、そう心の中で呟きながら。

「誰か! 誰かっ!!」
「保管庫は取り扱い説明書が料理長の部屋にある筈ですが?」

 一番年嵩の料理人が呟く。彼ももうこの職場を辞めて別の国へ移る予定だから、何も怖いことはないのだ。
 案の定「生意気な!」と「早く言え!」と言う理不尽な罵声と完全に八つ当たりで殴られた。

「いい機会だ、明日からもう来ない。お前らも身の振り方を考えた方が良い」
「……ウス」

 料理人達は私物を集め、出ていく支度を始めていた。
 料理長と副料理長はなぜか立派な料理長室へと到着し、就任してから一度も見た事がない、厨房に関わる施設の取り扱い説明書を探した。
 立派な書架の中に置かれた立派な書類は長い間誰も触れていないようで、前任もその前の料理長も開いていないように見受けられた。

 そして大きく書かれた文字を見ることになる。

「時空神へ供物を必ず捧げること。怠れば全て時空の彼方に消える……ど、どう言うことだ。誰も今まで供物など」
「……いえ、誰かが供物を捧げていました! 保管庫内の祭壇にたまに何かがありました……一体誰が」

 そして自分の責任にしたくない両者はこう声高に叫ぶのだ。

「一体誰が今まで捧げていた供物を置くことをサボったのか!」

 自分達でやらなければならないことなのに、責任を転嫁する相手を探し始めたのだ。
 時は午後。これから休憩時刻や夕食がやって来るのに。王宮で夕飯を取るものは意外と多い。その支度を早急に始めるべき時間は過ぎていたのに、厨房を取り仕切る長と副長は犯人探しに躍起になっていたのだった。


「パムさんですよ」
「なぁにぃ?!」

 以前まで供物を捧げていた人物はすぐに判明した。料理人達は見ていたのだ。パムが保管庫の祭壇に料理を捧げて祈っているのを。

「本当は料理長の仕事なんでしょう? パムさん困り顔で料理を運んでましたよ」
「なぜ言わん!」
「言いましたよ、何度も。その度に殴られましたし、二度と口にするなと厳命されましたからね」

 この料理人ももう退職後する予定だ。だから今まで言えなかったことを言ってしまおうと噛みついたのだ。

「さて、俺も今日限りで辞めさせて貰いますよ。しかし頑張って下さいね、料理長。今からこの城にいる全員の夕食を作るのは至難でしょうが……早く下拵えにかかった方が良いのでは? おっと、食材探しからかな?」

 その料理人の一言に全員から血の気が引いた。そうだ、食事を用意しなければならない。しかも国王に出す食事だ。
今まででも保存庫にあった誰が作ったか分からないがよく出来た美味い食事以外手をつけなかった国王だ。その国王に夕食を提供しなければならない。しかも一品、二品で満足する王ではない。十品から二十品近く並べることを要求されるのだ。

「あ、わ、私も辞めさせて貰いますっ」
「わ、私もっさようなら~!」

 国王は癇癪持ちだ。夕食が気に入らなければ料理人のクビを飛ばすこともある。元々辞めるつもりだった者は我先へと逃げ出す。

「あ、待て! お前ら、待てっ!」

 当然、そんな命令を聞く者などなく、厨房には料理長と副料理長、そして2.3人の料理人が残った。

「ひ、ひいいーー! 死にたくない!」
「あっ!」

 残った料理人も逃げ出し、料理長と副料理長はしばらく呆然と立ち尽くすしかなかった。





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