【完結】おっさん軍人、もふもふ子狐になり少年を育てる。元部下は曲者揃いで今日も大変です

鏑木 うりこ

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62 なんかどーでもいい過去かもしれない。

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「えー……」
「しかもこんなに小さくなっちゃって! お前、幾つだ?!」
「ラセルより小さいですかね?」
「うわー! 無理だーー!」

 ダンダンと椅子の手すりを殴るマリアネット。高そうな椅子がミシミシと悲しそうな叫び声を上げている……それ以上殴ると壊れちゃいそうだ。マリアネット皇帝陛下に夫はいない。26歳という歳を考えればきっと周りからうるさく言われ続けているんだろうけれど、今の今まで彼女の恐ろしく高級な眼鏡に適う男性が現れないのだ。

「せっかく、せっかく何度も何度も罠を張って捕まえようとしたのに何度も逃げられるし! イアン、お前の部下が優秀すぎるのがいかん!」
「あ、ありがとう、ございます?」

 整った指先で鼻をキュッと押された。やめて! 私の可愛く尖ったお鼻が引っ込んじゃう。

「くそー! お前が死んだのを聞いた私の絶望をどうしてくれるのだ?! また婚期が遠のいたではないか!」

 いや、私が生きていても婚期は近くならないですよ? 皇帝陛下。

「い、色々いるじゃないですか、素敵な男性は。黒曜将軍とか」
「あいつは生理的に好かん。あと顔が嫌い」
「わぁ」
 
 そりゃ悪いことを聞いた。

「我が国の王太子とかどうです?」
「あいつは気持ち悪い。腹の中いっぱいにドス黒い何かを抱えている。あと婚約者いただろ?」
「……いた、ような?」

 私は記憶の中でほとんど消えかけていた王太子のことを思い出し始めた。確か名前はアウレア。アウレア・ガルエン王太子殿下。歳はミニィの少し下の24.5だったような気がする。婚約者はどこぞのご令嬢だったはずだけれど、私と顔を合わせているときは女性の話題は一言も出て来なかったから、よく覚えていない……というか顔も忘れかけていた。

「アウレア王太子殿下って気持ち悪かったかなあ? 良く笑う好青年だったようなきがしたけど」

 マリアネットは有名な行軍中の保存食である臭いニシシ魚の塩漬けのビンを開けてその匂いを嗅いだ時のようなものっすごくイヤな顔をした……美人は顔をぐしゃぐしゃにしかめても美人なんだ、すごい。

 首を傾げて古臭くなったおじさんの記憶をほじくり返すと、割と印象の良い思い出が呼び起こされた。アウレア殿下は小さい頃から私を見かけると笑顔で駆け寄ってきた、そんな人懐っこい方だった。そんな殿下の笑顔を驚いて見つめるメイドは多かったから、きっと可愛すぎて驚いていたんだと思う。
 でもうちのミニィの方が可愛かったけどね。そんなミニィが可愛い顔をマリアネットみたいに思いっきりぐしゃぐしゃにしかめてよく言ってた。

「アイツが私に向ける憎悪たっぷりの視線を義父上に見せてやりたいけれど、アイツ、絶対義父上の前で邪悪な顔をしない」
「なにいってるの? ミニィ」


 邪悪な顔って……ミニィもたまに変なことをいっていたっけな。何度も個人的な夕食に招かれたりもしたし、剣を教えて欲しいと頼まれたこともあったし、城下町のお忍びについてきてくれと言われたこともあったな、流石にそれは警備上宜しくないので断ったが。

 他の王族方よりも親しくさせてもらっていて、良い関係を築けていたと思ったのに、まさかアウレア殿下に冤罪を着せられるとは夢にも思わなかったなぁ。

「あなたが……悪い……あなたが、私を……!」
 
 私がおじさんであった最後の時に聞いたのはアウレア殿下の絞り出すような声だったが、私はアウレア殿下に殺されるほど悪いことをしただろうか……いや、戦争に参加していたのだ、善い行いではなかったのだろう。私は、祖国の為と言いながらたくさんの人の命を奪っているのだから因果応報なのだろうな。

「まあ、今となってはどうしようもないことだきゅん、アウレア殿下のことは」
「良いのか……お前を陥れたのはあの王太子だろう?」
「はっきりいえば王太子よりラセルの健やかな成長の方が大事だきゅん!」

 マリアネットは今度は頭を抱えて蹲った。なんだなんだ??

「やめろ、そのナリで「きゅん!」とかいうのは! 流石に可愛すぎるだろう!?」
「……ぎゅ……」

 しょうがないだろ……つい出ちゃうんだから……。

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