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80 旅は少年を大きくするんだ
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「イアン、ハイランドへ行くか」
「……行こうかな。先延ばししても良いことはなさそうだし、来たでしょ?」
「来た」
とある貴族の家が焼け落ちた三日後に私はマリアネットから主語がなく問いかけられたけれど、勘のいい貴族達はこういう会話を好むから慣れてきてしまった。クレヤボンスが調べてくれた情報を大国の主・マリアネットが知らない訳がない。
私達がハイランド……ハイランド王国へ行こうとしている理由はラセルにある。
「ラセルはハイランド王家の血を引いている」
「ほぼ間違いなく」
ラセルには言っていなかったが、ラセルの家には両親が残した色々な物があった。小さな装飾のついたナイフ。あまり華美ではないアクセサリー。そしてきれいに畳まれて、奥の方にしまい込まれていた仕立てのいい刺繍の入った服、数個の勲章……すべてハイランド王家と関りを示すものばかり。値の張る物は売ってしまったに違いないが、値段がつかない……あまりに王家と近すぎる品々はひっそりと奥へ隠されていたのだ。
「12年前、ハイランド王国の末の姫が一人の騎士と駆け落ちした。だったな」
「ええ。セレスフィール姫、当時17歳の姫君は他国へ嫁ぐことを嫌がって愛する騎士と手と手を取り合い逃げたきゅん。吟遊詩人が歌にしていましたね……美しい物語だきゅん」
「名乗りをあげるのか?」
ラセルは今は元気に木刀を振っている。強くなるんだと瞳を輝かせているのが頼もしい。
「場合によっては。ハイランド国王の人となりは中々伝わってきていないのでまだ判断がつかないきゅん。でもこの国は出ないとまずいきゅ」
「その方が軋轢がなくていいな。国境までは送ろう」
「ありがとうございます」
そしてもう一つ、我が祖国ガルエン王国から追手がかかっている。王太子アウレア・ガルエン自ら隊を率いてそろそろこのファーマとの国境にたどり着くとクレヤボンスから報告を受けていた。
「ちなみになんと言ってきているので?」
「戦争犯罪者が大切なものを盗み隠して持ち去っている可能性がある、その調査の為に通して欲しいとのことだ。イアン、お前死んだら王太子に何か上げると約束でもしていたのか?」
「まさか。私ごとき一軍人が王太子殿下に差し上げられるものなど一つもありませんよ」
「だよなあ」
物を持っていても遠征中に壊されたり捨てられたりすることが多かった。大抵は反対派の貴族達のこすっからい嫌がらせだったんだが、それが嫌になって物を持つのをやめてしまった。その代わり人との繋がりを大切にするようにしたんだ。だから私の生前の荷物など大したことないんだが、それを売りさばいてる不届きな奴がいたな、クレヤボンスっていう奴なんだけどね……その辺にいるけどね。
「けば立ったタオルとか誰が欲しがるんだ……おっさん臭いぎゅ」
「……」
マリアネットが無言で手を挙げたのでこの話はこの場で永久封印して聞かなかったことにした。
「と、とにかく王太子殿下がファーマの大地を踏む前にハイランドへ出立しますよ。身分証はくれますよね? 」
「ああ、手配しよう。あの焼け落ちた貴族の館から色々な情報を抜き取って持って来てくれた礼も兼ねて」
「役立つなら何より」
「……良く効く軟膏もつけてやろう」
「助かります」
私の両前足の赤くなった部分を見て、そう言ってくれた。奴らはマリアネットに取り入る為に私を捕まえたと言っていたけれど、情報の精査を誤った。そこから身を滅ぼされるなんて戦乱の世では良くあるんだから気をつけないといけないよね。
「旅は少年を大きくするって昔の人は言ってました」
「子狐も大きくなるかな?いや、このままの方が可愛くて良くないか?」
「ぎゅ」
「……行こうかな。先延ばししても良いことはなさそうだし、来たでしょ?」
「来た」
とある貴族の家が焼け落ちた三日後に私はマリアネットから主語がなく問いかけられたけれど、勘のいい貴族達はこういう会話を好むから慣れてきてしまった。クレヤボンスが調べてくれた情報を大国の主・マリアネットが知らない訳がない。
私達がハイランド……ハイランド王国へ行こうとしている理由はラセルにある。
「ラセルはハイランド王家の血を引いている」
「ほぼ間違いなく」
ラセルには言っていなかったが、ラセルの家には両親が残した色々な物があった。小さな装飾のついたナイフ。あまり華美ではないアクセサリー。そしてきれいに畳まれて、奥の方にしまい込まれていた仕立てのいい刺繍の入った服、数個の勲章……すべてハイランド王家と関りを示すものばかり。値の張る物は売ってしまったに違いないが、値段がつかない……あまりに王家と近すぎる品々はひっそりと奥へ隠されていたのだ。
「12年前、ハイランド王国の末の姫が一人の騎士と駆け落ちした。だったな」
「ええ。セレスフィール姫、当時17歳の姫君は他国へ嫁ぐことを嫌がって愛する騎士と手と手を取り合い逃げたきゅん。吟遊詩人が歌にしていましたね……美しい物語だきゅん」
「名乗りをあげるのか?」
ラセルは今は元気に木刀を振っている。強くなるんだと瞳を輝かせているのが頼もしい。
「場合によっては。ハイランド国王の人となりは中々伝わってきていないのでまだ判断がつかないきゅん。でもこの国は出ないとまずいきゅ」
「その方が軋轢がなくていいな。国境までは送ろう」
「ありがとうございます」
そしてもう一つ、我が祖国ガルエン王国から追手がかかっている。王太子アウレア・ガルエン自ら隊を率いてそろそろこのファーマとの国境にたどり着くとクレヤボンスから報告を受けていた。
「ちなみになんと言ってきているので?」
「戦争犯罪者が大切なものを盗み隠して持ち去っている可能性がある、その調査の為に通して欲しいとのことだ。イアン、お前死んだら王太子に何か上げると約束でもしていたのか?」
「まさか。私ごとき一軍人が王太子殿下に差し上げられるものなど一つもありませんよ」
「だよなあ」
物を持っていても遠征中に壊されたり捨てられたりすることが多かった。大抵は反対派の貴族達のこすっからい嫌がらせだったんだが、それが嫌になって物を持つのをやめてしまった。その代わり人との繋がりを大切にするようにしたんだ。だから私の生前の荷物など大したことないんだが、それを売りさばいてる不届きな奴がいたな、クレヤボンスっていう奴なんだけどね……その辺にいるけどね。
「けば立ったタオルとか誰が欲しがるんだ……おっさん臭いぎゅ」
「……」
マリアネットが無言で手を挙げたのでこの話はこの場で永久封印して聞かなかったことにした。
「と、とにかく王太子殿下がファーマの大地を踏む前にハイランドへ出立しますよ。身分証はくれますよね? 」
「ああ、手配しよう。あの焼け落ちた貴族の館から色々な情報を抜き取って持って来てくれた礼も兼ねて」
「役立つなら何より」
「……良く効く軟膏もつけてやろう」
「助かります」
私の両前足の赤くなった部分を見て、そう言ってくれた。奴らはマリアネットに取り入る為に私を捕まえたと言っていたけれど、情報の精査を誤った。そこから身を滅ぼされるなんて戦乱の世では良くあるんだから気をつけないといけないよね。
「旅は少年を大きくするって昔の人は言ってました」
「子狐も大きくなるかな?いや、このままの方が可愛くて良くないか?」
「ぎゅ」
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