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82 こいつ、嫌い(マリアネット視点
しおりを挟む気色の悪い王太子だ。それが私のイアンが仕えていた国、ガルエン王国の王太子、アウレア・ガルエンに対する評価だった。
「我ら一団を迎え入れてくださったこと、感謝いたします」
「今は開戦もしておらぬ。ただし貴公らが捜している物が我が国にあるとは思えぬ」
私は皇帝の椅子に座り、臣下ではない彼らを見下ろす。位で言えば私は皇帝であり、アウレアは王太子。だからこの位置でも構わない。それに元々仲良しの間柄でもないのに……ここまで譲歩してやったんだから。
「戦は……軍部の暴走もありまして、国としてはファーマ帝国と対立など考えた事もございません」
嘘をつけ、いけしゃあしゃあと。と口の中から転がり出そうになった言葉を戻す。軍部は……イアンはずっと嫌がっていたが、王家が送り込み続けたの間違いだろうに。私自身何度も戦場に出て、何度もイアンとにらみ合ったから分かっている。
「す、すまんが、午後から引くから、もう少しだけ付き合ってくれ!」
「はあ!?それが敵国大将にかける言葉か!! 」
「大変申し訳ないが、被害を最小限にとどめるにはそれが一番なんだ。悪いね、美人の皇帝陛下様」
今よりもう少し若く、今よりかなり人望がなかった私にガルエン王国にその人ありと謳われた慈悲将軍、イアン・ワイマールはそうウィンクを投げてよこしたのだ。それに毒気を抜かれ、勇猛に追走するのを辞めてしまった記憶がある。
イアンの言う通り午後からガルエン軍は引き潮の如く撤退し、被害は確かに少なかった。戦場にはイアンではない将軍が率いた軍の成れの果てが這う這うの体で敗走するのが散見できた。
「捕まるんなら慈悲将軍の所がいい。手当てしてくれるし扱いいいし、飯が美味い」
「分かる~。ちょっと我慢しとけよ~すぐ迎えが来るからなーとかいわれんだよな」
「こんなに捕まえとけないからお前ら帰ってよし、ほらおやつだぞ。っておやつ持たされて帰ってきたことあるぜ」
「俺も-あのクッキー美味かったな」
そんなことを言う兵士もたくさんいる……困ったものだが、慈悲将軍のファンがうちの軍にも多くて困る。実は私も一度イアンの手勢に捕まってしまったことがある。普通一国の元首を捕まえたらそこで戦など終了なのに、イアンは大いに困った顔をしていたっけ。
「ああああああなんて大物を捕まえてしまった阿呆は誰だー!?」
「私です」
「タムううううう!!! お馬鹿お馬鹿-!」
そう、蒼雷に当たって前後不覚になった所を捕らえられたのだ。
「戦場で放置して怪我したほうがヤバイでしょ!」
「あ、確かに」
これが上官と部下の会話かと不思議に思ったが、私はその時自決をするつもりだった。私が死ねば間違いなく帝国は影武者を立てる。そして捕まって死んだのはマリアネット皇帝ではなく皇帝に似た誰かだったと大体的に宣伝するはずだ。それでいい、そう思っていたのに。
「誰か……あーでも広めるわけにはいかんな。しょうがない我々で手当て……す、するの? マリアネットさん、女性だよ? 」
「誰かに頼むのは危険では……? 」
「一番……臭くなさそうなのはミニィ? 」
「嫌ですよ、めんどくさい。義父上がやって下さいよ」
「わ、私おじさんだよ!? おじさんがうら若きお姉さんに触ったらダメなんだよ!? 」
「あー将軍なら大丈夫、イケますって」
「何がイケるの!?イケないよ!! 」
「誰でも良いから早く手当てしろ!!痛いんだから!! 」
「「「はひぃ! 」」」
思い出しても笑いそうになる。すっかり毒気を抜かれてしまい、あーでもないこーでもないと語り合い、美味い飯をたらふく食い、次の日にファーマ軍のテントまで護衛して送って貰ったな。
「私達も戦いたくないんだけれど、軍人の悲しい所でね。許してくれとは言わないが、早めに引けるよう努力はし続けるよ」
「ああ、悲しい事だが仕方がないな」
そう何度口にしたか。軍部が戦争をしたがった?まるでイアンが好んで我がファーマに攻め入ったかのようた口ぶりに、この王太子には一欠片の好意を持つ必要がないと判断した。
私の視線はとても冷たかっただろう。何せ私はイアンのことが大好きだからな!今のイアンは可愛いしな!
この王太子もイラつくくらい国境で待たせてやったし、イアン達がファーマから出たのを確認してから国内に入れてやったんだけどな!
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